病歴/身体所見
・37歳女性
・糖尿病とブドウ膜炎の既往がある
◦冠動脈疾患/肺塞栓/深部静脈血栓症の既往はない
・4日間持続する胸痛のためER受診
◦胸痛は胸膜痛/圧迫感/労作時に悪化/両上肢に放散していた
検査
・ER受診時のECGは以下
I/aVL/V1-2でSTE、aVRでPR上昇、IIでPR低下を認めた
・血液検査
◦cTn 1.6ng/mL
◦白血球13700/mL(芽球28%)
◦Hb10.0g/dL, 血小板145000/mL
次の対応をどうする?
虚血性心疾患の可能性が考慮され、緊急カテーテル検査が実施された
→冠動脈狭窄はなく、心筋炎の可能性が考慮された
・経胸壁心臓超音波検査では、LVEF50-55%/右室壁と下外側壁と心尖部中隔の壁運動低下/少量の心嚢液貯留
・造影CTでは肺塞栓の所見はなかった
・翌日心臓MRI実施
◦LVEF33%に低下、心筋炎の信号変化と一致していた
最終診断
AMLの初発症状としての心膜心筋炎
・心膜心筋炎と診断され、コルヒチンとNSAIDsが処方され、続発する心不全のためβ-blockerが開始された
◦ウイルスマーカーやTB検査などは陰性であった
・血液所見については血液内科にコンサルトされ、末梢血塗抹標本からAMLの診断が下された
◦後に骨髄生検で確定診断された
◦3-5人/10万人、特に65歳以上に発症
(Blood Cancer J. 2016 Jul 1;6(7):e441.)
・症状の頻度は以下の通り
◦発熱…71.9%
◦脱力感/倦怠感…45.5%
◦胸痛を訴えることは5%未満
(J Pak Med Assoc. 2017 Dec;67(12):1837-1842.)
・胸痛がAMLの症状となることはまれだが、剖検の研究ではAML患者の心臓病変との高い関連性があることが示唆されている
◦ただし、心臓病を示唆する症状を呈した患者自体はいなかった
(Am J Cardiol. 1968 Mar;21(3):388-412./Dis Chest. 1967 Oct;52(4):481-4.)
・これまでにAMLの初発症状としての心膜心筋炎の報告はほとんどなかった
(World J Oncol. 2018 Feb;9(1):29-34.)
・白血病病変としての心筋炎の病態生理について記載されている文献はこれまでにない
・欧米では、心筋炎はERを受診する非虚血性胸痛の5%を占める
(JACC Cardiovasc Imaging. 2017 Nov;10(11):1347-1349.)
・心筋炎に続発する心不全は0.5-4.0%ほど
(Glob Heart. 2014 Mar;9(1):121-9.)
・心筋炎の診断は心筋生検によることはgold standard
◦侵襲的であり実際にはあまりされない
◦心臓MRIは診断の代替手段として許容される
(JACC Heart Fail. 2018 Jul;6(7):573-579.)
・多くの症例では、経胸壁心臓超音波と心臓MRIにより測定されるLVEFは異なることが知られている
◦心臓MRIはLVEFを決定するための非侵襲的検査のgold standardである
(JAMA Netw Open. 2018 Aug 3;1(4):e181456./Circ Cardiovasc Imaging. 2013 Sep;6(5):833-9.)
・心筋炎の原因として以下を検索すること
◦ダニへの曝露
◦ウイルス/寄生虫感染
‣成人…コクサッキー/アデノ/サイトメガロ/エコー/パルボ/ヘルペス/インフルエンザ/肝炎ウイルス
‣小児…上記に加え、HSV/EB/RS/麻疹/ムンプス
AMLの初発症状としての心筋炎でした。これまでにはほとんど報告がないようです。
心筋炎と診断するにあたり虚血性心疾患を除外することは重要です。
さらに原因として主にウイルス感染をチェックしますが、AMLによって引き起こされたまれな病態でした。
まとめ
・血液悪性腫瘍がさまざまな初発症状/臓器障害を来し、ERを受診することがある
・心筋炎の確定診断として心筋生検があるが、心臓MRIでも許容される
・心筋炎の原因検索としてダニへの曝露やウイルス感染症をチェックせよ