今回はCOVID-19によって誘発された可能性が高いDKA症例を5つ提示します。
症例1
・アフリカ系アメリカ人55歳男性
・2型糖尿病既往あり
・意識障害と低酸素血症のため救急搬入された
・受診4日前から咳嗽を認めていた
・SpO2 35%であり、酸素投与が行われたがSpO2は66%までしか上昇せず挿管された
・血液検査結果からはDKAの診断となり、CXRにて両側性肺炎が認められた
・入院翌日、PCR検査にてCOVID-19陽性が判明した
症例2
・ヒスパニック系57歳女性
・2型糖尿病既往あり
・3日前から増悪する呼吸困難/発熱/咳嗽のためER受診
・ERではCXR, ECG, 血液検査, COVID-19検査が行われたが目立った異常はなく、肺炎の診断で帰宅となった
・帰宅後に嘔吐が出現し、呼吸困難が増悪したためERを再受診した
・この際の検査にてDKAの診断となった
・頻脈だが血圧低下なし、中等度の呼吸困難を自覚して頻呼吸であった
・入院翌日、PCR検査にてCOVID-19陽性が判明した
症例3
・入院翌日、COVID-19感染が判明した
症例4
・ヒスパニック系47歳女性
◦内服は2か月前から自己中断している
・頭痛/筋肉痛/食欲低下/発熱のためCOVID-19感染を心配してER受診
・general appearance不良で、頻呼吸あり、臨床的には脱水が疑われた
・入院翌日、COVID-19感染が判明した
症例5
・アフリカ系アメリカ人の63歳女性
・1週間持続する呼吸困難と咳嗽のためER受診
・頻呼吸(RR53)で、酸素6L投与でSpO2 95%
・CXRで両側肺野の浸潤影を認めた
・低酸素血症のため挿管された
・COVID-19感染も考慮して抗菌薬とhydroxychloroquineが開始された
・入院翌日、COVID-19感染が判明した
・DKAは改善傾向であったが、多臓器不全が進行し、緩和治療に移行した
それぞれの症例のデータは以下です
だいぶ血糖コントロール不良です。
また、ヒスパニック系の割合が多いです(たった3/5に過ぎないですが)
‣感染に続発する免疫細胞活性化と強い関連がある
◦その他、手術/外傷などが原因となる
(Diabetes Care. 2006 Dec;29(12):2739-48./Treat Endocrinol. 2003;2(2):95-108./Int J Infect Dis. 2020 May;94:91-95./Cold Spring Harb Perspect Med. 2012 Mar;2(3):a007724.)
・DKAの死亡率は5%程度だが、高齢者や併存疾患によってはより高い致命率になる
・COVID-19全体の死亡率は1-3%ほどだが、糖尿病患者では7%を超える
(Osong Public Health Res Perspect. 2020 Apr;11(2):85-90.)
◦COVID-19が誘発因子になった可能性がある
・COVID-19がDKAを誘発する原因として以下が考えられる
◦COVID-19によるサイトカイン放出
◦上記によるインスリン調節不全誘発
◦COVID-19による膵損傷
(Clin Infect Dis. 2020 Jul 28;71(15):762-768./J Biomed Sci. 2016 Dec 3;23(1):87./Gastroenterology. 2020 Jul;159(1):367-370.)
・ただし、COVID-19がDKAを誘発するかについては追加検証を要する
◦これによりCOVID-19の重症度が上がったり、DKAが誘発されやすくなった可能性がある
・ヒスパニック系の人口が10%程度にもかかわらず、症例報告ではヒスパニック系が多くみられた
◦病態生理学的根拠はないが、人種間でリスクが異なる可能性がある
・DKA患者はアシドーシス改善のために頻呼吸を呈しているが、COVID-19患者ではこれを維持させるのが困難になる
◦エアロゾル発生の懸念と陰圧室確保困難の観点から、NIVは使用せずHFNCや早期挿管を行う流れになっている
◦挿管することにより、恒常性が破綻し代謝性アシドーシス進行→血行動態不安定→多臓器不全となっている可能性がある
‣特に症例5のようなパターン
・DKAの治療には輸液が必要だが、COVID-19患者に対する必要以上の輸液は疑問視されている
◦これが管理をさらに難しくしている
・COVID-19により誘発されたDKA(アシドーシス)および肺炎(呼吸不全)の併存に対する管理方法は今後研究される分野と考えられる
・これら2つの病態が併存することによる死亡率増加が相加的か指数関数的かはわかっていない
最近、高血糖緊急症が妙に多いように感じていましたがもしかしたら…。
まとめ
・換気や輸液についてなどのマネジメントは今後研究されていく分野