病歴/身体所見
・71歳男性
・2週間前からの咳嗽/頭痛/発熱のためER受診
・最近、他院にてCOPD急性増悪として5日間のlevofloxacin投与を受けていた
・患者は無気力であり、左眼窩に著明な腫脹と発赤あり、眼球突出と外眼筋運動障害を認めた
A)眼窩周囲の浮腫と発赤、眼球突出、眼球運動障害
検査
・CT
B)副鼻腔炎を疑う所見(黒矢印)、左眼窩の炎症性変化(白矢印)
診断
眼窩蜂巣炎+硬膜下膿瘍
・著明な眼球突出があり眼圧上昇→失明リスク軽減のため外眼角切開術が行われた
・患者の意識状態の悪化もあり、MRIが実施された
→硬膜下膿瘍と海綿静脈洞血栓症を認めた
C)MRI DWIで信号変化(白矢印)
・即座に抗菌薬投与が行われ、手術室に運ばれ、硬膜下膿瘍への処置が行われた
D)術中写真
・眼窩蜂巣炎は、副鼻腔炎と関連が深い致命的な疾患
◦眼窩と篩骨洞は薄い隔壁で隔てられているだけなので炎症が波及しやすい
・診断と治療の遅れにより失明のリスクが上昇する
◦硬膜下膿瘍/脳膿瘍/脳静脈洞血栓症など外科的介入を要する合併症を引き起こすこともある
◦副鼻腔炎の3.7%で発症する
(Br J Radiol. 2014 Jan;87(1033):20130503./Laryngoscope. 1991 Mar;101(3):234-9./Saudi J Ophthalmol. 2011 Jan;25(1):21-9.)
・眼窩蜂巣炎では通常眼窩周囲浮腫と紅斑/眼球突出/外眼筋運動障害とそれに伴う疼痛などがあるため診断自体は容易であることが多い
・眼窩蜂巣炎の鑑別として眼窩周囲蜂窩織炎がある
◦眼球/眼窩への炎症はなく、眼瞼とその周囲の軟部組織感染症
◦通常は眼瞼浮腫と紅斑があるが視力障害なし、眼球運動に伴う疼痛なし、眼球突出なしが特徴
(Saudi J Ophthalmol. 2011 Jan;25(1):21-9.)
・眼窩蜂巣炎の合併症として頭蓋内病変(膿瘍や血栓症)があるが、症状はより軽微な訴えであることが多く、診断が遅れがちになる
◦頭蓋内病変検索目的での画像検査を眼窩蜂巣炎の診断がついた時点で迅速に行うこと
(Laryngoscope. 1997 Jul;107(7):863-7.)
・眼窩蜂巣炎の診断はCTがよい…副鼻腔炎も同時に診断可能
・頭蓋内病変を疑う場合(意識状態の変化、無気力、頭痛、けいれん、脳神経麻痺など)には脳MRIを迅速に行うこと
◦硬膜下膿瘍診断にはMRIが最適
・眼窩蜂巣炎の診断がつけば、以下を行うこと
◦経験的抗菌薬投与を迅速に行う
◦緊急外科的ドレナージについて耳鼻科コンサルト
◦眼球突出があり眼窩コンパートメント症候群が疑われる場合には外眼角切開術
◦頭蓋内病変合併が疑われる場合には脳外科コンサルト
‣硬膜下膿瘍を発症した場合は外科的ドレナージ後も再発率は33%と高い
(Laryngoscope. 1997 Jul;107(7):863-7./Otolaryngol Head Neck Surg. 2006 May;134(5):733-6.)
眼窩周囲の感染症については上記のように眼窩周囲蜂窩織炎なのか、眼窩蜂巣炎なのかが大事な鑑別になります。
眼球突出や眼球運動に伴う疼痛があるかどうかがポイントになります。
そしてひとたび眼窩蜂巣炎の診断がされれば頭蓋内合併症も検索しつつ、迅速に治療を開始しなければなりません。
まとめ
・眼窩蜂巣炎は副鼻腔炎由来で発症することがある致命的な疾患で、頭蓋内合併症に注意を要する
◦診断が付いた時点で迅速に頭蓋内MRIを行うとよい
・眼窩周囲の浮腫と紅斑に加え、眼球突出や外眼筋運動障害とそれに伴う疼痛があることが特徴的
・治療は迅速な抗菌薬投与と、各部位のドレナージによる