病歴/身体所見
・43歳女性
・3日前から持続する右側胸部の胸膜痛のため受診
◦疼痛は突然発症で持続痛
◦右肩と右上腹部に放散痛あり
◦仰臥位や吸気により増悪
◦acetaminophen, ibuprofen, omeprazoleを内服していたが改善しなかった
◦軽度の息切れはあったが、嘔気/立ち眩み/動悸/下肢の腫脹などはなかった
・既往歴:特記すべきことなし
◦小児期から心雑音を指摘されている
◦手術歴は帝王切開1回のみ
◦DVT/PE/冠動脈疾患などの家族歴なし
・上気道炎症状や外傷はなし
・最近の旅行歴なし
・発熱なし、HR86bpm, BP167/90mmHg, RR16, SpO2 100%
・general appearance良好
・心臓:収縮期雑音、呼吸音:右下肺野で減弱
・右前外側の肋骨に圧痛を認めるが、その領域の皮膚の色調変化なし
・腹部はやわらかく軽度の拡張を認めた
◦右季肋部に圧痛を認め、Murphy徴候陽性
・皮疹なし
・下腿浮腫なし
・神経学的異常なし
鑑別診断は?
・大きく肺/腹部/筋骨格/心臓が病因と考えられる
・肺…呼吸音減弱と胸膜痛より
・腹部…右季肋部痛とMurphy徴候より
◦胆石疝痛発作/胆嚢炎/肝炎/膵炎/胆管炎など
・筋骨格…肋骨への圧痛より
◦肋骨骨折/肋軟骨炎など
・心臓…リスク因子がなく、症状からは疑いにくいが
◦虚血/心膜炎/心筋炎など
どんな検査を予定するか?
・心電図…正常な洞調律で、右心負荷や虚血の所見を認めなかった
・血液検査…D-dimer 2246ng/mL以外には異常なし
・腹部超音波…右季肋部痛の原因となる腹部所見なし
・胸部単純レントゲン…中等量の右胸水を認めた
胸水がある患者へのアプローチと鑑別診断は?
・まずはいつでもABCの安定化
・焦点を絞った病歴聴取
◦最近の外傷歴
◦VTEのリスク因子
◦心臓/肝臓/腎疾患/悪性腫瘍/自己免疫疾患を含む医学的併存疾患と投薬歴
・有用な検査は以下
◦胸部画像診断…CTや超音波など
(CMAJ. 2018 Mar 12;190(10):E291-E295.)
・胸腔穿刺による胸水採取
◦新規発症の胸水は診断的胸腔穿刺の適応
‣心不全、腹水、ウイルス性胸膜炎などのいくつかの例外を除く
◦胸水が呼吸不全や血行動態に影響を及ぼす場合には治療的胸腔穿刺も適応となる
‣滲出性 vs 漏出性を判断するためのLight’s criteriaを参照する
(CMAJ. 2018 Mar 12;190(10):E291-E295./Ann Am Thorac Soc. 2015 Oct;12(10):1578-82./Ann Intern Med. 1972 Oct;77(4):507-13./Respiration. 2000;67(1):18-23.)
Light’s criteria
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・胸水蛋白/血清蛋白>0.5
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※上記3項目のうち少なくとも1項目を満たせば滲出性、いずれも満たさなければ漏出性と判断
・滲出性胸水の除外には有効だが、特異度は低いため確定診断には向かないことに注意
(CMAJ. 2018 Mar 12;190(10):E291-E295./Respiration. 2000;67(1):18-23.)
next stepは?
・D-dimer上昇を考慮すると、肺塞栓症は考えたいところ
◦肺梗塞により胸水の所見が出現した可能性
→造影CTが実施されたが肺塞栓の所見はなかった
・胸水評価目的で、胸腔穿刺が実施された
→Light's criteriaより滲出性胸水と判断された
‣さらにHt40%(血液検査はHt33%)であることがわかった
・超音波…胸水(細矢印)に浮かぶ肺(太矢印)を認める
血胸の原因は?
・血胸は血液中Htの50%以上の胸腔内浸出液と定義される
・基本的には外傷や侵襲的手技により引き起こされるが、自然発症することはまれ
・そのため、パートナーからの暴力を含む外傷性の原因を除外するようにすること
・血胸の一番の原因は気胸
(Respiration. 2000;67(1):18-23./Chest. 2008 Nov;134(5):1056-1065./Medicine (Baltimore). 2018 Nov;97(45):e13188.)
・上記に当てはまらない場合には特発性血胸と診断され、胸腔鏡下手術で治療される
(Medicine (Baltimore). 2018 Nov;97(45):e13188./Postgrad Med J. 2011 Sep;87(1031):630-5.)
患者の臨床経過は?
・入院となり、胸部外科にコンサルトされた
→400mlほどの血胸を認め、胸腔鏡手術により肺尖部のチョコレート嚢胞様の構造が切除された
→胸腔チューブが挿入され、2日後に抜去された
・胸部子宮内膜症の可能性が考慮され婦人科にコンサルトされた
→骨盤超音波がされたが骨盤内子宮内膜症の証拠は得られなかった
・切除された嚢胞の病理診断は反応性細胞のみで子宮内膜は認めなかった
・2週間後のフォローアップでは、CXRにて少量の胸水を認めたが、軽度の疼痛のみで息切れはなかった
・以後、フォローアップ継続の方針となった
特発性血胸ではその診断前に虐待を除外しなくてはならないところとか、外傷歴がない胸水には肺塞栓症/肺梗塞を疑って対応をするところとか勉強になりました。
まとめ
・胸痛および息切れの原因として胸水があり、さまざまな原因により引き起こされる
・胸水がある患者へのアプローチはABCの安定化から始め、焦点を絞った病歴聴取と身体所見をとり、血液検査/画像検査および胸腔穿刺による胸水検査が重要である
・血胸を伴う患者に外傷歴や処置歴がなければ虐待を考慮すること
・特発性血胸はまれだが、胸腔内液体貯留の原因となり、胸腔鏡下手術が診断と治療目的に必要となる