病歴/身体所見
・42歳男性
・1カ月前から持続する胸部圧迫感と嗄声のためER受診
・上腕動脈および橈骨動脈を触知できず
・バイタルサインは異常なし
検査
・CXR、ECG、血液検査では異常を指摘できず
next stepは?
血管造影検査
・血管造影検査により胸部仮性大動脈瘤が明らかになった
診断
胸部仮性大動脈瘤
・ステント留置により治療を行なった
・仮性動脈瘤は鈍的外傷、胸部心臓血管外科的手術、結合組織病、免疫疾患などが原因で発症する・通常は無症状だが、大きさや位置によっては呼吸困難/血痰/嚥下障害/嗄声/再発性肺炎などの原因になる(J Med Case Rep. 2019 Aug 3;13(1):239.)・治療は開胸手術または血管内治療のいずれかによりなされる(Cardiovasc Revasc Med. 2016 Dec;17(8):586-588.)
「嗄声や嚥下障害を呈した場合には胸部大動脈疾患を疑う!」
というのはこのブログではおなじみになってきたように思います。
自殺企図でネイルガンを胸に打ち込んで2週間経過、大動脈損傷が見つかったとか…
なお、この症例では subclavian steal syndromeが指摘されていました。
これは以下のような特徴がある疾患です。
・椎骨動脈が分岐するより近位での鎖骨下動脈閉塞で発症
・同側の上肢を動かすと対側の椎骨動脈からの血流が奪われ、一過性脳虚血に陥る
・特に、上肢を頭の上に挙げて仕事するような人に起きやすい
・患側上肢は対側に比較して収縮期血圧が20mmHg以上低い
・めまいは半数程度の患者に発症する
個人的にはまだあまり見たことがありません。
当地域ではリンゴ農家が多いのが地域の特徴です。
四季折々の疾患を経験することができますが、リンゴをもぐ作業をしているときに失神やめまいを発症して受診した患者さんでは一般的な失神の鑑別に加えてsubclavian steal syndromeも鑑別リストに入れるようにしています。
まとめ
・「嗄声や嚥下障害を呈した場合には胸部大動脈疾患を疑う!」
・上肢を動かしたときに失神やめまいを発症した場合にはsubclavian steal syndromeを鑑別に挙げて検索する