病歴/身体所見
・81歳男性
・急性発症の嗄声を主訴にER受診
◦その他の症状の訴えはなかった
・高血圧、胸部大動脈瘤(経過観察中)、肺転移を伴う大腸癌のため通院している
・BT37.4℃, BP133/87mmHg, HR83bpm, SpO2 98%
・神経学的異常は指摘できず、心音や呼吸音に異常なし
・末梢動脈の触知は良好に可能
・耳鼻科医による診察(鼻腔からの内視鏡)にて、左声帯麻痺を認めた
検査
・側頸部の単純レントゲンは異常を認めなかった
・胸部レントゲンでは縦隔拡大と気管の右方偏位を認めた
・患者は血圧管理のためICUに入室
・高齢かつ複数の併存疾患があることから、手術は見送られた
・最終的に緩和病棟に転科となり、死亡した
・大動脈瘤破裂では、関与する大動脈の解剖学的セグメントに応じた胸痛や背部痛を伴う
(JAMA 2016;316:754–63.)
・反回神経麻痺と心臓/肺病変は関連性があると報告されてきている
◦cardiovocal syndromeやOrtner's syndromeと称されている
(Chest. 1972 Oct;62(4):508-10.)
・反回神経は迷走神経由来の神経の枝
◦右半回神経…右鎖骨下動脈下面を通過
◦左反回神経…大動脈弓下面から大動脈肺動脈窓を半回して気管食道溝を上行
◦嗄声のほかにも嚥下障害や呼吸困難を発症することもある
(Am J Emerg Med. 2016 Jun;34(6):1185.e1-3.)
・大動脈瘤破裂は基本的には高齢者に多い疾患であることから手術リスクが高く、保存的に管理されることが多くなっている
◦手術リスクを考えて患者毎の治療方法を考慮していくべし
(Scand J Surg. 2018 Jun;107(2):152-157.)
(Ann Otol Rhinol Laryngol. 2004 Jan;113(1):43-5./BMJ Case Rep. 2014 Jul 17;2014:bcr2013202900.)
・一方で、血管ステント挿入にもかかわらず永続的な嗄声となった報告もある
(Am J Emerg Med. 2016 Jun;34(6):1185.e1-3.)
胸痛や背部痛もなく、バイタルサインはほとんど異常がない場合に、
あ~、こわっ。
まとめ
・声帯の機能異常が心血管病変と関連があることを想起すること
◦特に大動脈瘤破裂によるOrtner's syndromeには要注意