病歴/身体所見
・23歳女性
・既往歴なし
・2日間にわたり視線が維持できず、眼が上下するようで視点が合わせづらいと訴えER受診
・これに先立って両側性拍動性頭痛があり、安静により改善したが視覚の異常が持続していたという
・頭部外傷/視力低下/眼痛/運動失調/構音障害/嚥下障害/めまい/しびれ/脱力感を否定した
・週に数回マリファナを使用している
・SpO2 99%, BP133/76mmHg, HR95bpm, RR18, BT37.1℃, GCS15
・注視により顕著な垂直性眼振を呈し、上下視により増悪した
・瞳孔不同なし/対光反射あり、脳神経異常所見なし、上下肢運動感覚障害なし、強調運動障害なし、歩行異常なし、Romberg徴候陰性
・神経内科にコンサルトされた
◦神経内科の診察中に右下肢のしびれを訴え始め、右上肢にも出現した
◦視力0.3/1.0であることが判明
◦左目に充血を認め、RAPDが陽性であった
検査
・血液検査…INR1.4, 薬物スクリーニング陽性(tetrahydrocannabinol陽性)
診断
多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)
・多発性硬化症が疑われ、3日間のmethylprednisolone静注のため入院となった
・入院2日目に眼振と右上下肢のしびれが改善したと報告した
◦特に若年成人にもっとも影響のある疾患のひとつであり、増加傾向にある
(Eur J Neurol. 2019 Jan;26(1):27-40.)
・原因は不明だが、喫煙/ビタミンD欠如/長期の日光暴露/遺伝的素因などのリスク因子が同定されている
(Eur J Neurol. 2019 Jan;26(1):27-40.)
・upbeating vertical nystagmus(第1眼位で自発的に出現する上向き垂直眼振)はMSに一般的な症状ではなく以下の疾患を考える
◦通常は延髄や中脳部の病変を考える
◦脳梗塞
◦脳腫瘍
◦キアリ奇形
◦神経嚢胞症
◦免疫炎症性疾患…MS/視神経脊髄炎/傍腫瘍症候群/抗GAD抗体の存在など
(Neurol Clin. 2014 Nov;32(4):1009-80./J Neuroophthalmol. 2017 Sep;37(3):332-340.)
・視神経炎は再発期によく発症するMSの眼症状
◦核間性眼筋麻痺(INO)や注視眼振などの症状は慢性期に頻発する
(J Neuroophthalmol. 2017 Sep;37(3):332-340.)
・MSに最も特異的でよくみられる徴候は核間性眼筋麻痺(INO)であり、内側縦束の病変により引き起こされる眼球運動障害がみられる
◦視線を向けた方向と逆方向の水平性眼振
◦注視による垂直性眼振(両側性INO)
‣MSの孤立症状としてはあまり一般的ではない
(J Neuroophthalmol. 2017 Sep;37(3):332-340./Neurol Clin. 2010 Aug;28(3):641-55.)
※脳幹の両側にある内側縦束(MLF)の働きにより一方の眼の外転と他眼の内転との協調が可能になる。この障害により輻輳は見られるが内転障害が出るようになる
多発性硬化症は、複視と間欠的なめまいを呈する症状でも扱いました。
まとめ
・多発性硬化症の病期により発症しやすい眼症状がある