病歴/身体所見
・37歳女性
・7日前から嘔気を伴う左上腹部痛が持続していたが、急速に増悪したためER受診
・BT37℃, HR107bpm, BP169/67mmHg, SpO2 100%
・中等度の腹痛を訴え、左上腹部に筋性防御を伴わない圧痛を認めた
検査
・血液検査…WBC2500/mcL, Hb9.9g/dL, Plt48000/mcL, lipase293U/L, AST277U/L, ALT206U/L, ALP574U/L, T.bil4.9mg/dL
診断
wandering spleenによる脾捻転
・試験開腹術を受け、脾捻転の診断となり脾臓摘出術が行われた
・wandering spleenは、脾臓が左上腹部から別の部位に移動する病態
・脾臓は、脾腎/胃脾/脾横隔靭帯を介して左腎/胃/横隔膜の壁側腹膜に固定されている
◦胃脾靭帯は脾動静脈やリンパ管を収容している
(Surg Radiol Anat. 2018 Jan;40(1):21-29./ScientificWorldJournal. 2013 Apr 21;2013:321810.)
・靭帯の奇形や弛緩を介して先天的に発症するか、外傷/妊娠/靭帯の衰弱をもたらす病態を介して発症する
・靭帯の弛緩の程度と血管茎の長さに応じて脾臓は腹部または骨盤部に移動する可能性がある
・3か月~10歳の小児と20-40歳の成人に多くみられる
・後天性の場合には女性は男性の10倍多く発症する
(J Emerg Med. 2020 Apr;58(4):e189-e192.)
・wandering spleenは全人口の0.02%程度にしか発症しない
(Gastroenterol Rep (Oxf). 2017 Aug;5(3):241-243.)
・臨床症状は無症候性~外科的緊急までさまざま
◦腹部臓器の圧迫、閉塞、胃軸捻転、脾捻転など
(J Clin Ultrasound. 2005 Dec;33(9):433-8.)
・迅速な診断により重篤な合併症や死亡率を低下させられる
(Int J Surg Case Rep. 2017;38:131-135.)
・血液検査は非特異的だが、汎血球減少が脾機能亢進の症状として現れることがある
(Surg Today. 2007;37(3):261-9.)
・超音波は診断に有用であり、右側臥位で脾臓の移動やdopplerにより血流がないことを証明可能
(Br J Radiol. 2005 Nov;78(935):1050-2.)
・造影CTは脾臓の位置と血管の閉塞を評価するのに有用
(ScientificWorldJournal. 2013 Apr 21;2013:321810.)
(Curr Probl Diagn Radiol. Jan-Feb 2018;47(1):68-70.)
wandering spleenは以前も記事にしました。
やっぱり女性に多いんですね~。
こういう病態もあると覚えておくとよいと思います。
まとめ
・wandering spleenによる脾捻転は外科的緊急のひとつ
・発症はまれだが、女性に多く、好発年齢は2峰性をとる