病歴/身体所見
・9か月女児
・2時間前からの普段と異なるひどい啼泣と傾眠のためER受診
・発熱なし、食事摂取は可能、排便あり(血便はなし)
・神経学的診察では目立った異常は指摘できず
・腹部はやわらかかったが、触診をすると不機嫌になった
検査
・血液検査は特記すべき異常なし
・超音波…腸重積を検索したがその所見は認めなかった
右)腹水(白矢印)とループになった腸管(白矢頭)を認めた
・空気注入を行ったところ、腹部レントゲンでは右側腹部の腸管へのガス通過が少ないことが判明
診断
メッケル憩室による小腸捻転
・腸閉塞が疑われ、緊急開腹術が行われた
・メッケル憩室の先端から発生するバンドが腸間膜にからみつき、回腸血管閉塞の原因となっていた
・圧迫解除により血流が正常化した
・メッケル憩室は切除された
・Meckel憩室は人口の2-4%に見られる
・Meckel憩室の大きさはさまざまだが、一般的に5cmを超えるものは巨大Meckel憩室と称される
・回盲部から60cm以内に存在することが多い
・腸管壁全ての層を含んでおり、しばしば胃や膵臓の粘膜を含む
・合併症の多くは以下
◦消化性潰瘍による出血…95%が異所性胃粘膜を含む
‣乳児期に発症する合併症としては出血が多い
◦腸重積による腸閉塞
◦Meckel憩室周囲の捻転
◦憩室炎…腹痛や腹膜炎
・乳児期の腸閉塞は、腸重積症やメッケル憩室に付着したバンドによる腸捻転などを考慮する
(Pediatr Radiol. 2000 Mar;30(3):165-7./Int J Surg Case Rep. 2017;38:53-56./AJR Am J Roentgenol. 1985 Jan;144(1):109-12.)
・99m Tc-pertechnetate scintigraphyはMeckel憩室による出血診断に非常に高い感度と特異度があるが、消化管出血がない場合には診断価値がない
・術前にMeckel憩室を特定することはしばしば困難であり、術中に診断確定がされる
(Current Surgical Therapy(Thirteenth Edition))
(Atlas of Pelvic Anatomy and Gynecologic Surgery(Fifth Edition))
・意識障害は腸管虚血の初期症状である可能性があることに注意
(Am J Emerg Med. 2004 Jul;22(4):307-9.)
小児の腹痛や消化管出血で鑑別に挙がるMeckel憩室ですが、術前の診断は困難です。
小児の腹痛では以下のような鑑別をあげます。
小児の腹痛(腹部の器質的疾患)は以下…"double AIM"
A
|
appendicitis(虫垂炎)
adhesion(癒着)
|
I
|
inguinal hernia(鼠径ヘルニア)
intussusception(腸重積)
|
M |
malrotation/midgut volvulus(回転異常/中腸軸捻転)
Meckel's diverticulus(メッケル憩室)
|
このほかに、精巣捻転やDKA, 心筋炎なども入ってきます。
また、意識障害が腸管虚血の初期症状になることは小児診療のポイントでしょう!
・小児の意識障害の鑑別は以下…"AIUEOTIPS"
A
|
alcohol
abuse(虐待)
|
I
|
insulin
inoborn errors of metabolism(先天性代謝異常)
intussusception(腸重積)
|
U
|
uremia
|
E
|
encephalopathy
electrolytes
|
O
|
oxygen deficiency
|
T
|
trauma
temprature
|
I
|
infection
|
P
|
psychogenic
|
S
|
shock
seizure
sepsis
stroke
space-occupying lesion
|
まとめ
・Meckel憩室は人口の2%ほどに見られ、多くは胃や膵粘膜を含む
・合併症として消化管出血、憩室炎、腸重積、腸捻転などがあげられる
・小児の腹痛は"double AIM"を鑑別する
・小児の意識障害は"AIUEOTIPS"を鑑別する ※成人との違いに注意