病歴/身体所見
・77歳女性
・前日より複数回の嘔吐と右上腹部痛を発症してER受診
・過去数か月にわたって、持続時間10-15分ほどの自然寛解する同様の疼痛を自覚していた
・既往歴は特になく、内服薬もなし
検査所見
・血液検査…白血球とCRPがわずかに上昇
・腹部超音波…胆嚢腫大と軽度の胆嚢周囲浸出液を認めた。sonographic Murphy sign陽性。胆石なし。
・CT…超音波と同様の所見であり、胆石/悪性腫瘍/その他の胆道病変を認めなかった。胆嚢は造影されなかった。
暫定診断
無石性胆嚢炎
・CTRX+MNZを5日間投与され治療が行われた
・しかし、症状の改善はなかったため胆嚢摘出術が行われた
このくらいの年齢層の無石性胆嚢炎の診断は少し引っかかりますが、現実的には抗菌薬で保存的に、もしくは施設によってはPTGBDなどでしのぐかもしれません。
最終診断
胆嚢捻転
・術中所見で胆嚢が反時計回りに180度捻じれていることが判明し、胆嚢管と胆嚢動脈が完全に閉塞し壊疽性胆嚢炎が明らかになった
胆嚢炎!?と思いきや、胆嚢捻転の症例でした。
・胆嚢捻転は右上腹部痛のまれな原因であり、他の急性腹症との鑑別を要する疾患である
・1898年に最初の症例が発表されて以来、500例ほどしか症例報告がない
・胆嚢捻転は、胆嚢がその長軸を中心に捻じれることで虚血となり、胆汁排泄が阻害されることになる
・いかなる年齢層でも発症しうるが、60-80歳代で最多となる
・女性は男性の3倍の発症率
・特発性であることが多いが、以下の素因もある
◦体重減少
◦内臓脂肪の減少
◦肝臓の萎縮など
・症状は急性胆嚢炎と類似しており、術前の画像診断で診断を下すのが困難であることがある
◦最も多い症状は嘔気/嘔吐を伴う右上腹部痛
◦胆嚢捻転の10%しか術前に診断されていないとされる
・血液検査所見は非特異的であり、白血球/CRP上昇など
・超音波…胆石がないにも関わらず胆嚢が腫大し、胆嚢頸部が円錐状に見える場合や、dopplerがのらない場合に示唆される
dopplerがのっていないですね。
(BMJ Case Rep. 2013 Mar 14;2013:bcr2012008460.)
・CT…whirl signがあれば捻転を示唆
◦胆嚢腫大や浮腫、壁肥厚などの捻転に特異的ではない所見が多くみられる
⇒胆嚢捻転が術中診断となることが多い理由となっている
胆石があるが、胆嚢腫大あり。胆嚢捻転であった。
(BMJ Case Rep. 2013 Mar 14;2013:bcr2012008460.)
胆嚢腫大と胆嚢壁の造影不良がある(World J Gastroenterol. 2006 Jul 28;12(28):4599-601.)
どこかでひっかけて迅速な治療に結び付けたいところですが現実はなかなか厳しいです。術前に診断される症例は10%程度とのことでした。
ERでは疫学的にひっかけることはできるでしょうか?
「痩せた高齢女性の無石性胆嚢炎」というキーワードがあれば怪しげですね。
その際には超音波や造影CTで虚血の所見を探しにいくのはありかもしれません。
治療をしてみて判断する、のも現実的にあるかもしれませんが壊死のリスクを伴い、やはりできるだけ早く診断してあげたいものです。
全例で造影CTを行うわけではないし、超音波も忙しいとスキップしてしまうことがありますが、気を付けてみていきたいと思います。
まとめ
・「痩せた高齢女性の無石性胆嚢炎疑い」は胆嚢捻転を疑って対応すること