りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例29:腹痛と嘔吐で受診した36歳女性(N Engl J Med. 2020 Nov 19;383(21):2065.)

病歴/身体所見

 
・36歳女性
・前日からの腹痛と嘔吐のためER受診
潰瘍性大腸炎原発性硬化性胆管炎による肝硬変を患っている
手術歴:結腸全摘術、胆嚢摘出術、虫垂切除術
・触診では腹部全体に圧痛を認めた
 
 

検査

血液検査:lipase 682IU/L(5~50)と上昇
・CTでは、脾臓が右下腹部に位置しており、膵尾部も右下腹部にねじれるように見えた

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*右下腹部に位置した脾臓
 
 ※実は、2日前に肝細胞癌スクリーニング目的でMRI撮影を受けていた
 ◦そのときには脾臓は腹部左側に位置していた
 ◦膵臓も正常に見えていた
 ◦胆石は認めなかった

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診断

wandering spleen
 

・疼痛コントロールと輸液により症状は改善した

・肝移植の評価が進行中であったため脾臓摘出術は延期された
 
 
 
wandering spleen脾臓靭帯の弛緩の結果としてまれに発症しうる
 
脾臓の動きとともに、脾門部付近にある膵尾部もねじられてしまい急性膵炎の原因となることがある
 
脾臓摘出術が根治的治療となる
 
 
いまだみたことのない画像でした、wandering spleen。
 
もう1症例見ておきます。こちらの方がド派手かも。
 
( Rev Esp Enferm Dig. 2015 Apr;107(4):229-30. )
 
 

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腫大した脾臓の位置異常があり、膵尾部がねじれたようになっている
 

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術中写真:脾静脈の捻転と血栓症を認めた

 

まとめ

脾臓靭帯の弛緩の結果として脾臓が腹部を移動し、それにより膵尾部がねじられてしまい急性膵炎を発症することがある

・根治治療は脾臓摘出術