暑くなってきました! 熱中症が多くなる季節が到来しましたね。
当院でも重症熱中症の初期対応のシミュレーションを行いました。
その様子を振り返りながら、おもに重症熱中症の対応について解説します。

いつ積極的な冷却(active cooling)を行うか?
熱中症診療では、高体温をどれだけ早く下げられるかどうか、が初期診療のカギです。
まずはスイッチを入れることが重要です。
以下の場合には、積極的な冷却を検討します。
・熱中症が疑われる
・意識障害
・深部体温>40度の高体温
熱中症かどうか100%診断できる手段はありません。
「暑熱環境にいた」という事実が最も重要です。
患者の付き添い、救急隊などから「暑熱環境にいた」という情報が得られれば、
熱中症疑いの暫定診断をつけて迅速に治療を始めることになります。
原則として深部体温が40度未満で、意識障害がない場合には重症熱中症ではない可能性があります。
しかし、治療をしない有害性が高いため、
明確に40度以上が確認できなくとも、意識障害があり、それなりの高体温があれば治療を開始してください。
これらの積極的冷却を要する患者群は、
ガイドラインでは重症例(III~IV度)と分類されています。
以下のように新たにIV度という分類を作りました。
IV度:深部体温≧40.0度かつGCS≦8
III度:IV度に該当しないIII度
qIV度:表面体温≧40.0度もしくは皮膚に明らかな熱感あり
かつGCS≦8もしくはJCS≧100
別に正確な深部体温を測らずとも、
体表面の温度が高ければ迅速な冷却を始めようというメッセージがqIV度に含まれています。
(qSOFAみたいですね)
これまでにIII度に分類されていた意識障害、肝障害、腎障害、DICを呈する患者を、
最重症群としてIV度を新たに設定して積極的冷却を含めた集学的治療を早急に開始することを提唱することとなりました。
どんなactive coolingが推奨されるのか?
active coolingには、以下の方法があります。
冷水浸水
蒸散冷却法
胃洗浄・膀胱洗浄
血管内体温管理療法
体外式膜型人工肺
腎代替療法
ゲルパッド法による水冷式体表冷却
クーリングブランケット
局所冷却
そして、どの冷却法が推奨されるかは、
ガイドラインによって、少し異なります。
・日本救急医学会:特定の冷却法について、明確な推奨を提示しない
・Wilderness Medical Society:冷水浸水を第一選択として推奨する
(https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf)
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38425235/)
実際には、施設によって使用できる機材が異なると思いますので、
それに応じて選択せざるをえないでしょう。
個人的なオススメは、冷水浸水です。
これは氷水に患者をつけるだけなので、非常に迅速に治療を開始することができるメリットがあります。
アイスバスがあれば良いのですが、これがない場合には納体袋にパッキングする方法も代替として考えてよいことなどが提案されています。
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38425235/)
それにしても、局所冷却ってactive coolingなんでしょうか?どうでもいいですけど。
ちなみに、アイスパックがたくさんあるなら全身を覆えばいいですが、
足りない環境(病院前や病院内でも)では、
ほっぺ、手のひら、足の裏が有効とされます。
首筋、腋窩、鼠径部よりも有効な冷却につながるとされています。
実際、冷水浸水ってどうやるの?
当院で行っているプロトコルを紹介します。
これはある総説で紹介されていた納体袋を用いた方法をパクって少しアレンジしています。
①重症熱中症の救急要請が入ったら、準備を開始する
・シャワー室にストレッチャーを1台用意する
・ストレッチャー上に納体袋(銀)のジッパーを開いておき、
そのうえにディスポ不織担架(青)を置く
※ディスポ不織担架(青)は患者を冷水から引き上げるときにあれば便利ですが、なくとも全く問題ありません。
・モニターを設置する
・個人防護具を装着する(練習の時には省略)

・氷45kgを用意する(当院では栄養科のご厚意で冷凍庫を貸していただいている)
・バケツに水を入れておく(約40L)

これでおおむねの準備は完了です。
②救急搬入されたら、速攻で水につける!
・簡単なABCDを確認して直腸温測定を始めたら、患者をすぐに納体袋(青)に移す
※向かって左のストレッチャーが救急隊のもの、そこから手順①で準備しておいたストレッチャー(右)に患者を移す

・患者を移したら、手順①で準備しておいた氷と水を納体袋に入れていく

・納体袋に氷と水を入れたら、ジッパーを首元または両手が出る程度まで上げる。
※まずはいかなる処置よりも冷却優先!
このときに両手を出しておく(ジッパーは胸くらいまで上げる)とルート確保(骨髄針やCVC含む)や培養採取などができてよい。
ここでモニター装着、A line確保などを同時並行で行う。

ここでのポイントは、
「いかなる異常があっても冷却を優先する」ということです。
低血圧や高度な頻脈があるかもしれませんが、冷やせば意識状態とともに血行動態が改善することはよくあります。
CT室にいくときのように
「まずはバイタルを作ろう」なんて考えてはいけません。
ただし、心停止している場合には冷却よりもACLSを優先します。
ROSCした場合には迅速に冷却を開始します。
③深部体温が39度未満になったら、引き上げる
・納体袋のジッパーを下げて、水を抜きます。患者が転落しないように注意。
※可能ならこの部分は変更予定です。
現在納体袋が少ないため、このような使用をしていますが、これから入荷を予定しており、資材が豊富になったら納体袋の四隅を切って水を抜くことにします(便失禁していることもあって、結構な汚染をしてしまうこともあるので…)。

・ディスポ不織担架(青)をもってフラットリフトで患者を持ち上げて、納体袋を引き抜きます。

ここからはシャワー室から出て、初療室で引き続き蘇生や検査を行います。
冷却の目標温度は、一般的に39度未満とされています。
これは冷水浸水により過冷却されてしまうことがあるためです。
ここまで下がるとあとは勝手に冷えて、正常体温に戻ります。
水を拭いて乾燥させないとぐんぐん冷えすぎてしまうこともありますので注意。
日本救急医学会のガイドラインでは38.0度を目標にすると記載がありますが、
高度な医療機器を使う場合にはより積極的な冷却を行ってもよいとされています。
熱中症診療のピットフォールは?
診断が遅れて、治療も遅れる
鑑別診断を挙げて介入をすることはもちろん重要です。
敗血症はいつでも鑑別上位に挙がるため、fever workupを行うべきです。
熱中症かと思っていたら細菌性髄膜炎だった、、、なんて経験はたしかにあります。
ただし、熱中症診療において敗血症診療を優先させると予後を悪くします。
よって、暑熱環境にいたという情報があるときにはまずは熱中症と暫定診断をしたうえで、重症ならばactive coolingを優先しましょう。
active coolingを行いながら、血液培養採取、経験的抗菌薬投与などを行えばよいです。
ほかにも甲状腺クリーゼ、悪性症候群/セロトニン症候群、頭蓋内出血、発作などは鑑別ですが、まずは高体温をリバースして、もしくは介入をしながら考えるのが吉です。
体温上昇がないから熱中症ではないと考える
ERを受診する熱中症の大半は、体温上昇がないような軽症の熱中症です。
(特にうちのような二次救急では)
Ⅲ度熱中症以上ともなれば高体温が認められることが一般的ですが、
大多数を占めるのは脱水や電解質異常を中心とした症状を呈するより軽症な患者群です。
院外で脱衣やクーリングなどの処置がされていると正常体温であることも多いので、
高体温がないことを根拠に診断を除外してはいけません。
「暑熱環境にいた」がキーワードです。
これを持つ患者全員に熱中症を疑いましょう。
閾値を低く点滴治療をしたり、血液尿検査をして異常がないかを確認するのは許容されます。
帰宅させる際に指導をしない
多くの患者は軽症であり、点滴をするとスッキリして帰っていきます。
でも、「悪くなったらまた来てね」だけでは不十分です。
健康な若者はすぐにスポーツに復帰したがると思います。
私もかつてはそうでした。
しかし、24-48時間程度は暑熱環境を避けるよう指導しなければなりません。
すぐに暑熱環境での活動に復帰すると、熱中症の再燃や重症化につながります。
そして、電気代が払えなくて電気が止まっているとかエアコンがないとかの状況なら、
一次的な入院を検討すべきです。
安易に帰宅させると再度重症化して受診することになります。
ちなみに、気温が37度を超えている場合には、
扇風機は何の役にもたちません。熱風をかき混ぜるだけです。
高体温や低体温は社会的な貧困を如実に反映した徴候のため、
自宅での生活が立ち行くのかという視点も重要視してください。