重症Covid-19へのマネジメントまとめがありました。
これまでに得られた膨大な知識をまとめるために読んでみました。
Berlin DA et al. Severe Covid-19.
N Engl J Med. 2020 Dec 17;383(25):2451-2460.
PMID: 32412710.
症例
・50歳男性
・特に既往歴なし
・2日前から呼吸困難が増悪したためER受診
◦1週間前から発熱/咳嗽/倦怠感があったという
・general appearance: ill
・体温39.5℃, HR110bpm, RR24, BP130/60mmHg, SpO2 87%
・血液検査:WBC7300
・胸部CT:肺実質に両側性すりガラス影
上記のような重症患者への介入をどうしようか、このreviewから考えましょう。
一般的にわかっていること
・Covid-19の初期症状は咳嗽/発熱/倦怠感/頭痛/筋肉痛/下痢など
・通常、重症化するのは症状発症から1週間
・重症Covid-19では呼吸困難が最もよく見られる症状で、しばしば低酸素血症を伴う
◦低酸素血症が出始めると呼吸不全はどんどん進行する
◦これらの患者はARDSの基準を満たすことが一般的
・重症Covid-19ではリンパ球減少症を伴うことが多い
◦心臓/腎/肝障害や不整脈/横紋筋融解症/凝固機能異常/ショックも認めうる
◦血小板減少症や中枢性/末梢性神経障害を伴うこともある
・胸部画像検査では両側性のconsolidationやすりガラス影が典型的
A)胸部レントゲン…両側性のすりガラス影と浸潤影
B)胸部CT…両側すりガラス影
C)経胸壁超音波…B line
D)頭部CT…脳塞栓症
・重症Covid-19は以下を満たすものと定義
◦呼吸困難
◦呼吸回数≧30/分
◦SpO2<93%
◦P/F比<300mmHg
◦肺野の50%以上に陰影がある
※疫学的分類ではある
・大規模なコホート研究では以下のような比率が報告された
◦軽症…81%
◦重症…14%
◦超重症(臓器不全)…5%
‣この群の死亡率は49%
7日目にドカンとやってくる低酸素血症/呼吸困難で、有症状者のち20%ほどが重症以上
・あらゆる年齢で超重症型Covid-19に発展する恐れがある
◦年齢が死亡率や重症化の最も重要な因子となっている
◦リスクは10歳年をとるごとに増加していく
・慢性的な併存疾患は重症化と関連する
◦心血管疾患
◦糖尿病
◦免疫不全
◦肥満
・重症化は女性よりも男性により多い
・黒色人種、ヒスパニック系ではリスクが増大する
治療戦略
初期対応
・重症Covid-19は、慎重なモニタリングを要するため入院での対応を要する
・院内感染のリスクが高いことを考えると、厳格な感染管理が常に重要となる
◦できれば、患者は常にサージカルマスクを装着してもらう必要がある
◦スタッフは地域の感染予防プログラムを参照して適切なPPEを着用する
・特にエアロゾル発生手技を行うときにはPPE装着に注意を要する
◦少なくともガウン/手袋/N95/ゴーグルを装着し、可能ならば陰圧管理すること
※エアロゾル発生手技
・重症Covid-19は、集中治療期間が長引く可能性があり、死亡する可能性もある
◦なるべく早い段階で、患者とadvanced directiveについて確認し、適切な治療方針を決定させておくこと
呼吸ケアの原則
・呼吸状態を直視下およびパルスオキシメトリーにて観察すること
・SpO2は90-96%に保てるようにnasal cannulaまたはVenturi maskにより調整する
・気管挿管をするかどうかが、重症Covid-19管理の重要な位置を占める
・早期挿管のリスクと、呼吸不全が進行して緊急気管挿管をすることによるスタッフへの曝露のリスクとを勘案して決定すべし
・以下の徴候があれば気管挿管を考慮する
◦努力呼吸をしている
◦酸素投与にも関わらず低酸素血症が改善しない
◦脳症(意識障害)
(臨床的適応)
・気道閉塞の徴候
・呼吸仕事量の増大
・難治性低酸素血症
・高二酸化炭素血症/アシデミア
・脳症/意識障害により気道保護ができない
(そのほかに考えておくこと)
・病状の進行様式は悪化を予測できるか?
・difficult airwayではないか?
・血行動態不安定ではないか?
・挿管によりその後の処置や移送が安全になるか?
・挿管により感染コントロールができ、スタッフの安全性向上が得られるか?
・挿管は要さないが低酸素血症が続く場合の対応
◦HFNCは酸素化を改善し、挿管を避けられる可能性がある
◦NIV使用は、COPD/肺水腫/閉塞性睡眠時無呼吸を伴うCovid-19に限定したほうがよいかもしれない
⇒挿管を要さないか、さらに注意深く観察すること
・患者を腹臥位にすることで重症Covid-19患者の酸素化を改善させる可能性がある
◦しかし、挿管を防ぐことができるかどうかは不明
◦急激に悪化傾向にある場合には緊急気管挿管が遅れるため避けることが望ましい
気管挿管
・重症Covid-19患者への気管挿管は熟練した医師が行うこと
◦慣れないPPE使用/スタッフへの感染リスク/重度の低酸素血症があり挿管の難易度が高い
・気管挿管は、可能であればpreoxygenationを行い、鎮静薬と筋弛緩薬によるRSIを行うこと
・ビデオ喉頭鏡を推奨
・抗ウイルスフィルターは常に気道回路に沿って組み込んでおくこと
・capnographyは挿管確認に最も信頼のおけるデバイスである
・重症Covid-19では挿管直後に低血圧を呈することがしばしばある
◦輸液と昇圧薬はすぐに投与できるように準備し、継続的な循環動態モニタリングを行うこと
このへんのことは、救急医療分野の一般常識と合致します。
呼吸器の設定
・重症Covid-19患者の剖検結果からはARDSの特徴と類似していることが分かっている
・基本的にはARDSへの治療戦略に従うのがよいと考えられている
◦肺過膨張、高酸素血症、周期的な肺胞虚脱などを回避することで人工呼吸器による肺損傷を防ぐことが目的
・一回換気量に気を付けろ!
◦6ml/kg(predicted body weight)として肺保護戦略を行うこと
‣最大8ml/kgまでは許容される
・プラトー圧に気を付けろ!
◦過膨張を防ぐため30mmHgを超えてはならない
‣1日に数回測定すること
・十分なPEEPをかけること
◦肺胞の虚脱を防ぎ、リクルートメントを容易にする
→コンプライアンス改善に寄与し、FiO2を低下させられるかもしれない
◦心臓への還流量を減らし、血行動態が不安定になることもあるため注意
◦過度のPEEPは肺過膨張を引き起こし、コンプライアンス低下の原因となる
・性別と身長により決定されるpredicted body weightを用いる
・プラトー圧が30cmH2Oを超えてしまったら
◦1回換気量を減らす…4ml/kg
◦PEEPを減らす
・鎮静薬と鎮痛薬は患者の苦痛を取り除くため投与すること
◦患者の呼吸ドライブを調整し、人工呼吸器との同期改善効果もある
・難治性低酸素血症があり、呼吸補助筋使用が強い場合には筋弛緩薬投与も考慮される
難治性低酸素血症
・人工呼吸器使用にも関わらず低酸素血症がある場合には、腹臥位(prone positioning)をすべし
◦P/F比<150mmHg+FiO2 0.6+適切なPEEPでも低酸素血症がある場合が適応
※これは、ARDS患者に対して1日16時間のprone positioningを行うと酸素化と死亡率が改善したというRCTがもとになっている考え方
・ただし、prone positioningには適切なPPEを装着した訓練されたスタッフを3人以上要するため結構大変
・ECMOは難治性呼吸不全に対する治療選択肢の一つ
◦パンデミック下ではrisk vs benefitを考えて適応を考えること
薬物治療
・6400人以上のCovid-19入院患者を含む大規模RCTでdexamethasoneが30日死亡率を有意に低下させた
◦効果があるのは酸素投与を要する患者に限定される
◦人工呼吸器が装着されている患者でより効果的
・この結果から、dexamethasoneは重症Covid-19の標準治療となった
・remdesivirは重症Covid-19への使用により臨床的改善までの時間を短縮させた
◦酸素投与を受けているが挿管を要するほどではない患者で効果が大きい
‣29日死亡率は15.2% vs 11.4%(HR, 0.73; 95% CI, 0.52 to 1.03)
・このデータによりFDAが承認するに至った
・ただし、大規模open-label RCTではremdesivir使用による院内死亡率低下効果を示すことはできなかった
・dexamethasone+remdesivir併用療法は臨床使用が増えているが、その利点はRCTでは示されていない
・Tocilizumabは、小規模RCTにおいて病状の進行抑制や死亡率低下を示すことができなかった
Supportive care
・循環血液量減少があり、等張液輸液を受けることが多い
◦重症Covid-19では発熱や頻脈を呈し、水分喪失が増加する
◦輸液を受けることにより、挿管前後の低血圧や低拍出を防止できる
・人工呼吸器管理から数日すれば、hypervolemiaを避ける戦略をとること
・低血圧を呈する場合には、MAP60-65mmHgを目指してnorepinephrineを投与する
・原因不明の血行動態不良があれば、心筋虚血/心筋炎/肺塞栓症を想起して対応する
・重症Covid-19のうち、5%が腎代替療法を受けている
◦腎不全に至る病態生理は不明だが多因子の影響を受けている
◦回路の血液凝固が起こりやすいためCRRTの有効性は不明瞭
・重症Covid-19では、血小板減少症やD-dimer上昇が認められ死亡率の増加と関連あり
◦禁忌がなければ標準的な血栓症予防策をすること
‣LMWH皮下投与など
‣さらに強力な血栓症予防策をルーチンに行うかについては議論がある
・重症Covid-19では経験的抗菌薬投与がされることがある
◦しかし、免疫不全がない場合には細菌の同時感染はまれ
◦細菌同時感染の証拠がなければ短期間で抗菌薬投与を終了することを考える
・COVID-19患者にCPRを行うとスタッフへの感染リスクが増大する
◦蘇生担当者は適切なPPEを装着して対応すること
・適切な栄養、便秘予防、皮膚/角膜潰瘍予防に努めること
・患者が安定してきた場合には1日1回持続鎮静をやめること
◦不安定なときには呼吸仕事量を増やし、呼吸器との同期が失われdistressや低酸素血症の原因になるため難しい
・Covid-19パンデミック下では、患者が医療資源を上回る可能性あり
◦地域のガイドラインや医療倫理相談などにより対応すること
よくわかっていない分野
・remdesivirはFDA承認にもかかわらず、さらなる研究を要する
・抗ウイルス薬、抗体、免疫調整剤などの研究が進行中
◦これらの薬剤に関しては現時点では利益も不利益も不明
Hydroxychloroquine
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FDA:入院を要すCovid-19患者への緊急使用承認取消
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RCT:入院患者への使用でno benefit
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Lopnavir-ritonavir
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RCT:入院患者への使用でno benefit
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Remdesivir
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FDA:入院を要すCovid-19患者への使用を承認
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RCT:臨床的改善までの時間短縮
死亡率低下は示せていない
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回復者血漿
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FDA:入院を要すCovid-19患者への緊急使用は検討中
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RCT進行中
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FDA:入院を要すCovid-19患者への緊急使用は検討中
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外来患者のウイルス量を減らしたとの報告もあるが、入院患者への利点は不明
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BTK阻害薬
acalabrutinib
ibrutinib
rilzabrutinib
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臨床試験進行中
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Dexamethasone
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大規模RCTにて、酸素投与を要する入院患者への死亡率低下が示された
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IL-1阻害薬
anakinra
canakinumab
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臨床試験進行中
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IL-6阻害薬
sarilumab
siltuximab
tocilizumab
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小規模RCTでno benefit
追加の臨床試験進行中
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JAK阻害薬 baricitinib ruxolitinib |
FDA:remdesivir+baricitinibの、酸素投与を要するCovid-19患者への緊急使用を承認
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臨床試験進行中
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まとめ
・ARDSを伴う重症Covid-19は、症状発症から約7日後に発症することが典型的
・重症Covid-19に対していつ挿管するかは、ケアにおいて必須の考慮事項である
・挿管後は肺保護換気(プラトー圧≦30cmH2O+身長に基づいた換気量)を受けるべし
・Prone positioningは難治性低酸素血症の治療戦略の1つである
・重症Covid-19の合併症と血栓症と腎不全がある
・Dexamethasoneは酸素を必要とするCovid-19患者、特に人工呼吸器管理をされている患者の死亡率を減少させる効果がある
・Remdesivirは入院を要するCovid-19への投与がFDAにより承認された
◦臨床的回復までの時間を短縮することができるというRCTに基づく
◦ただし、データの蓄積を要する分野ではある