急性膵炎のレビューを読みましたので紹介します。
NEJMに2016年に掲載されたものでやや古いですが、
最近発表された経腸栄養に関するCochrane reviewや日本発信の疫学調査についても
併せて紹介します。
N Engl J Med. 2016 Nov 17;375(20):1972-1981.
Acute Pancreatitis.
疫学
・ここ最近は、急性膵炎患者は増えており、特に小児領域で増加が著しい
◦肥満と胆石保有率の増加が影響している
・入院した急性膵炎患者では80%が軽症で、数日で退院している
・死亡率は低下してきており、全体としての死亡率は2%ほど
◦高齢者、肥満をはじめとした既存症がある場合、院内感染合併、臓器不全や感染性膵壊死などがある場合には死亡率が高い
原因
・胆石が原因として最多
・アルコールは胆石症に引き続き2番目に多い
◦慢性的なアルコール使用(4-5drinks/dayを5年以上)を要する
◦大酒家では膵炎の生涯発症率は2-5%程度
‣慢性膵炎を発症しておりそこから急性増悪するパターンが多くを占める
◦男性より女性でリスクが高い
◦機序は複雑で、アルコールによる直接毒性と免疫学的機序が存在するとされている
◦アルコールの種類はあまり膵炎と関連がない
◦短期間の大量飲酒では発症せず、長期間の飲酒エピソードが発症に必要
※ちなみに、1drink=アルコール14gです。
ビール(5%)なら280mlくらい、焼酎(20度以上)なら50mlくらいです。
てことは、ビールなら1000ml/焼酎なら200mlくらいでアウトです。
ストロング系ならば大体500ml1本飲んでしまうとダメなんですね。
どうでもいいですが、最近はまっているビールは「インドの青鬼」です。
・薬剤が原因になることもあるが、全体の5%未満
◦azathioprine, 6-mercaptopurine, didanosine, valproic acid, angiotensin-converting–enzyme inhibitors, mesalamine
◦GLP-1は膵炎とは関連がないという報告が出ている
◦薬剤性膵炎は通常軽症で済むことが多い
◦膵炎の被疑薬を複数内服している患者が多く、原因薬剤を特定するのは非常に困難
ACE-Iなんて外来通院している人は多くの人が内服しています。
これも原因になりうるなんて…。これからチェックしましょう。
・遺伝子変異や遺伝子多型も膵炎発症と関連があるとされる
◦遺伝子変異は他の因子と相互作用を起こして発症に関与するよう
‣claudin-2変異はアルコールと相乗的に作用
・高中性脂肪血症による急性膵炎…2-5%
◦空腹時TG>1000mg/dlがリスク
・IgG4関連疾患による自己免疫膵炎の診断も増えている
◦自己免疫性膵炎type 1(IgG4関連)…閉塞性黄疸/血清IgG4高値、ステロイドに反応、全身疾患で唾液腺/腎が侵される
◦自己免疫性膵炎type 2…若年者で急性膵炎の発症があり、IgG4低値、ステロイドに反応、膵のみ侵される
・膵炎の原因はしばしば特定できず、特発性急性膵炎と考えられる割合は加齢とともに増加する
◦未知の遺伝子多型、喫煙やそのほかの環境毒素、肥満や糖尿病などの影響など、多くの潜在的因子が関連するのではないかとされている
‣病的肥満は急性膵炎と重症化のリスク因子
‣2型糖尿病は急性膵炎リスクが2-3倍になる
‣肥満と糖尿病は慢性膵炎、膵癌のリスクでもある
診断
・以下の3項目のうち、2項目以上を満たす必要がある
◦持続する腹痛
◦lipaseまたはamiaseの上昇(基準値の3倍以上)
◦CTやMRIで膵炎として特徴的な所見
当院ではlipaseはすぐには検査結果が出ません。amilase上昇に乏しい膵炎もあります。
その場合には、心窩部痛+画像で膵炎の所見があれば診断可能です。
逆に、腹痛+軽微なamilase上昇で膵炎としてはいけません。
・CTは初期診断として有用で、急性膵炎と類似する症状を来す他の疾患を除外することも可能
初回から造影CTを撮るかは議論がありますが、禁忌がなければやっておくほうが専門医からするとありがたいようです。
重症度判定
・
どの患者群が重症膵炎になるかを知っておくのは早期のトリアージと治療につながる
・合併症や死亡率が増加する臨床的特徴は以下
◦高齢者≧60歳
◦Charlson comorbidity index≧2(併存疾患が多い)
◦長期間にわたる多量飲酒歴
・検査おける所見は以下
◦血液濃縮、高BUN血症など
◦炎症マーカー上昇(CRP、interleukins-6/8/10)
◦SIRS…体温、脈拍、呼吸数、白血球数
・適切な輸液などにより正常に帰さない高BUN血症/Cre上昇/Hematocrit上昇は最も有用な
予後不良予測因子
・
症状の発現から48時間以上経過後のSIRSは予後不良
・amylaseやlipaseは予後予測と関連がない
・CTも有用ではあるが、臨床所見に遅れて画像所見が出るためCT所見のみに頼ると重症度を過小評価することになる
・重症度については多くのscoringがあるが、これらは全て
偽陽性率が高い
◦スコアが高い多くの患者は、重症膵炎を発症しない
◦複雑で扱いにくいため、日常的な使用はされていない
◦臨床評価…高齢、肥満、併存疾患
◦受診時および24-48時間時点の血液検査
‣hematocrit>44%
‣BUN>20mg/dL
‣Cre>1.8mg/dL
‣SIRS
・治療開始から48-72時間時点での以下の所見は重症膵炎への進展の可能性が高い
◦Ht上昇/Cre上昇/BUN上昇
◦十分な輸液にもかかわらずSIRS持続
◦画像で膵壊死がある
患者の特性(高齢者、併存疾患が多い、肥満、多量飲酒歴)、血液検査所見(脱水を示唆する所見、炎症反応上昇)、バイタル異常(SIRS)、画像所見(膵壊死)により重症度判定をするとよいのですね。言われてみればそりゃそうだよなという所見ばかりです。
日本のガイドラインで推奨する重症度判定
●重症度判定(予後因子)
・BE≦3、またはショック
・PaO2≦60mmHg(room
air)、または呼吸不全(人工呼吸器が必要)
・BUN≧40(or Cr≧2mg/dL)、または乏尿(輸液後も1日尿量が400ml以下)
・血小板数≦10万
・総Ca≦7.5
・SIRS診断基準における陽性項目数≧3
・年齢≧70歳
予後因子3点以上は重症と判断されます。
●重症度判定(造影CT grade)
1.炎症の膵外進展度
・前腎傍腔:0点
・結腸間膜根部:1点
・腎下極以遠:2点
2.膵の造影不良域
・各区域に限局している場合、または膵の周辺部のみの場合:0点
・2つの区域にかかる場合:1点
・2つの区域全体を占める、またはそれ以上の場合:2点
・1+2の合計スコアにより重症度判定されます。
◦1点以下…Grade 1
◦2点…Grade 2(ここから重症)
◦3点以上…Grade 3
治療
マネジメントに関してのoverviewは以下の図が有用です。

超急性期には積極的な輸液をどうするか、抗菌薬をどうするか、栄養をどうするかの3点が幹になります。臓器障害がある場合にはそれに合わせた治療も要します。
輸液
・third-spaceへの液体漏出や血管内脱水は
予後不良と関連
・発症から24時間以内の積極的なfluid Resuscitationが死亡率と合併症率を低下させる
・特に、症状出現から12-24時間での積極的な輸液は重要
◦24時間以上経過するとその価値はほとんどない
・輸液はbalanced crystalloid solutionを200-500ml/hrまたは5-10ml/kg/hrほどを目安に投与する
◦初日は2500-4000mlほどの輸液量になることが多い
・輸液の種類は生食に比較してリンゲル液を選択すると有意に炎症マーカーが低下したという研究がある
・モニター監視、尿量測定、BUNやHtを測定することが輸液量の妥当性を判断する基準になる
・over resuscitationは以下の合併症と関連
◦abdominal compartment syndrome
◦ARDS
◦感染/敗血症
◦膵壊死
◦死亡率上昇
栄養
・急性膵炎に対する経静脈栄養は経腸栄養に比較して高価でリスキーで効果が高くない
・
軽症膵炎に対しては、疼痛や膵酵素の正常化をまたずに経口摂取を開始してよい
◦低脂肪食は安全で入院期間短縮につながる
◦重度の疼痛、嘔気/嘔吐、
イレウスがなけば入院後すぐに開始してよい
・経腸栄養の必要性はおよそ第5病日までに予測可能
◦重度の症状があるのか、経口摂取に耐えられないのか
◦経鼻胃管でも経十二指腸チューブでも臨床的には変わりはない、経鼻空腸チューブでなくともよい
→簡便な経鼻胃管でよい
・経静脈栄養は経腸栄養が確立できないというrare caseにのみ許容
◦現実は頻繁に経静脈栄養が選択されているが…
Cochrane reviewの紹介です。
Cochrane Database Syst Rev. 2020 Mar 26;3:CD010582. doi: 10.1002/14651858.CD010582.pub2.
Nasogastric versus nasojejunal tube feeding for severe acute pancreatitis.
重症膵炎に対する経鼻胃管 vs 経鼻十二指腸管でのcochrane reviewです。
ここの前文でも、「軽症であれば腹痛が治まれば経口摂取してよい」と記載がありました。ただし、「重症の場合には経口摂取以外での栄養方法を考慮する」ことになっています。さらに、「経腸栄養を経静脈栄養より優先する」ことも既知の事実のようです。
理想的には発症から48時間以内に開始するのだそうですが、実際の診療ではそこまで早い期間には食事開始までたどりつけていない印象です。これが欧米諸国と日本の退院までの日数の違いになっているのでしょうか。
5つのRCTを含む合計220人が対象となっています。
さて、primary outcome=死亡率はどうでしょうか。
経鼻胃管群と経鼻十二指腸管では有意差が認められませんでした。
(RR 0.65, 95%CI 0.36-1.17)
やっぱり経鼻胃管でよさそうですね。
根本的な原因への介入
・予防的抗菌薬投与については大規模研究でno benefitとなっている
◦
感染症が疑われるか証明されない限り、予防的抗菌薬は推奨されない
・現状は多くの患者に予防的抗菌薬が投与されている
・重症急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は死亡率減少に寄与しない
・2010年、7RCT(N=404)のmetaanalysis。
◦抗菌薬…β-lactam, quinolone+imidazole, imipenem/cilastatinが14-21日間投与された
◦死亡率低下させなかった…RR0.60, 95% CI 0.34-1.10
◦感染性膵壊死発症率はimipenem/cilastatinにより低下…RR 0.34, 95% CI 0.13-0.84
‣その他の抗菌薬では効果を証明できず
・2009年、8RCT(N=439)のmetaanalysis。
◦抗菌薬予防投与による死亡率低下なし…RR0.76, 95% CI 0.49-1.20
やるならimipenem/cilastatinでしょうか。
・胆石性膵炎や胆石性胆管炎合併の場合にERCPが考慮される
・胆石なし/軽症胆石性膵炎にはERCPをする必要性はない
・超音波
内視鏡は膵仮性嚢胞/walled-off pancreatic necrosis(WON:被包化壊死)への低侵襲治療として使用される
膵周囲の浸出液と膵壊死に対する治療
・膵周囲の浸出液については治療を必要としない
・壊死性膵炎は初期段階では半固形と固形が混ざり合った構成
→4週間以上経過するとより液体化が進み、被包化される
…これをwalled-off pancreatic necrosis(WON)と呼ぶ
◦無菌性壊死であれば多くの場合には治療不要
‣十二指腸、胃、胆管などが閉塞する場合には治療対象
◦感染を伴えば治療適応
‣発症2週間はまれ
‣通常単一細菌
‣発熱、白血球増多症、腹痛の増悪があれば疑う
‣広域抗菌薬で治療開始
‣侵襲的治療開始は最低4週間は待つことが望ましい
→ドレナージしやすくなり、合併症や死亡リスク減少
※状態が不安定な場合には経皮的ドレナージを早期に行ってもよい
・壊死性膵炎は60%が保存的に加療可能で、死亡率は高くない
・壊死性膵炎にはstep-up approachを行うことが標準的
◦
抗菌薬投与→必要なら経皮的ドレナージ→必要なら数週間後にデブリドマン
◦少数だが抗菌薬のみで治療可能な患者も存在する
長期的予後、合併症
・急性膵炎発症後、20-30%に膵外分泌/内分泌機能異常が出現しうる
・慢性膵炎に進展するのは1/3~1/2ほど
・再発や慢性膵炎発症のリスク因子として以下
◦初回膵炎の重症度
◦膵壊死の程度
◦急性膵炎の原因…長期間に過度の飲酒、喫煙はリスクを劇的に上昇させる
退院するときには禁煙指導と禁酒指導が必要です。
日本での研究について紹介します。
Pancreatology. 2020 Mar 6. pii: S1424-3903(20)30092-2. doi: 10.1016/j.pan.2020.03.001.
Etiology and mortality in severe acute pancreatitis: A multicenter study in Japan.
日本でのretrospective studyです。
臨床的予後とさまざまな因子との関連性を検討しています。
対象は、1097人の重症急性膵炎患者で内訳は、アルコール性(39.7%), 胆石性(21.0%), 特発性(20.7%), その他(18.7%)でした。
※その他群は高トリグリセリド血症やERCP後膵炎など
院内死亡率は、アルコール性(8.4%), 胆石性(12.2%), 特発性(16.7%), その他(16.2%)。
よく診るアルコール性や胆石性では比較的死亡率が低いです。
それぞれアルコールをやめたり、胆石を取り除くことで原因が除去されるからなのでしょう。
多変量解析により早期の経腸栄養が胆石性膵炎の死亡率を低下させることが判明しています。胆石を除去できたらなるべく早く経腸栄養につないでよさそうです。
予防的抗菌薬はその他群にのみに有効である可能性ありと報告されています。
う~ん、やっぱりあまり効果はないのでしょう。
年齢/人工呼吸に関しては成因にかかわらず予後と関連しています。
これはその通りだと思います。日常診療の感覚とも合致します。

再発予防
・胆嚢摘出術…胆石性膵炎の再発予防に有効
◦胆嚢摘出術をしないことで再発率が最大30%上昇
◦軽症胆石性膵炎の初回入院時に胆摘を行うと退院後25-30日で胆摘を行うのに比較して、胆石合併症を75%低下させる
・重症/壊死性膵炎の場合には、ほかの
重篤な合併症への対応や膵炎による炎症の鎮静化に時間がかかることから、胆摘を遅らせることができる
・手術適応がない場合には、
内視鏡的乳頭切開術により膵炎リスク軽減を図る(リスクをゼロにすることはできない)
・飲酒を続けるアルコール性膵炎患者は膵炎再発リスクが高い
→最終的には慢性膵炎化する
◦逆に、禁酒できた患者の再発率は非常に低い
・できれば禁酒と禁煙について継続的に支援すべき
・急性膵炎の原因薬物の特定は困難で、しばしば不正確である
◦別の原因が考えられないときには被疑薬に注意すること
・血清トリグリセリド値は絶飲食にしている間に降下しうる
→退院後にも測定してフォローすること
・膵炎の一次予防は、ERCPのときのみ有効
◦膵管ステントの一次留置や
NSAIDによる薬物的予防が可能
結構盛沢山な内容でした。
急性膵炎については日常診療と
ガイドラインの推奨とで異なるところは多く、
各施設の専門医の方針に従うのがよいと思います。
そのうえで、自分は今何のためにこの治療をしているのか、この治療は効果はいかほどなのかなど考えつつ診療に当たれると良いですね。