りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

Real ER Round No.14:使えていそうでまったく使えていないバッグバルブマスクを使えるようになろう

緊急事態には必ずお世話になるバッグバルブマスク(BVM)ですが、

ちゃんと使いこなすのはかなり難しいです。

 

BVMなんて揉んどけばいいでしょ、くらいに思われがちかもしれませんが、

揉んで換気をした気になっているだけかもしれません。

日々のルーチンを少し振り返ってみましょう。

 

まさか、患者さんの口元に当てるだけでバッグを揉んでいないなんてことはないですよね?

そのBVM換気、胸が上がっていますか?

PEEPバルブや圧制御バルブ、適切に使えていますか?

 

簡単そうに見えることにこそ科学とアートが存在しているので、

BVMについての理解を深めて、ちゃんと使いこなるようになりましょう!

 

 

BVMの構造を理解する~口元に当てているだけでは意味がない!~

少し面倒ですが、BVMの構造を理解することがBVMを使いこなす近道になると思うので、小難しいことを書かせてもらいます。

 

以下の図を見てください(BJA Educ . 2023 Jun;23(6):208-211.)。

 

図1

「動作によってどのように空気が流れるか」を理解することが重要です。

 

酸素の配管から供給された酸素(oxygen inlet)がリザーバー(oxygen reservoir bag)に溜まります。

 

そして、このリザーバーに溜まった酸素をバッグ(ventilation bag)に届けるためには、バッグをもむという動作が必要です

 

正確には、バッグをもんでから手を緩めると勝手にバッグが膨張しますが、

その膨張するときにintake disc membraneが開いて酸素がバッグ内に貯留するという流れが必要になります。

バッグをもんでいるその瞬間はintake disc membraneは閉じていて、

手を緩めてから完全に再膨張するまでの瞬間だけintake disc membraneが開きます。

次にバッグをもむときにそのバッグに貯留した酸素が患者に供給されるという仕組みです。

 

ということは、バッグをもまないで口元に当てているとどのようなことが起きているんでしょうか?

実はまったく意味がありません。

ただ外気を取り込んでいるだけか、バッグ内に貯留したわずかな酸素を取り込んでいるだけになります。

マスクフィッティングがしっかりしている場合には、

Intake disc menbraneを少々こじ開けてわずかな酸素が流れるかもしれませんが、

吸気努力を増悪させるだけです。

素直に呼吸に合わせてバッグをもまなければ意味がないと心得ましょう!

 

「いやいや、酸素供給量を増やしたらintake disc membraneくらい押し開けてバッグ側に酸素が流れるでしょう」

と考えるかもしれません。

でも残念ながら現実的にはそれは起きず、

もしリザーバー領域がパンパンになった場合にはoutlet reservior flap valveから出て行ってしまうだけです。

 

大事なことなので繰り返します。

Intake disc menbraneはバッグをもまない限り開かない重いトビラであるという事実を認識してください。

この重いトビラを開けられるのは、バッグをもむ(もんで手を緩めて再膨張させる)という行為をしたときだけです。

 

BVM換気をしているけど、胸が上がらない⁉ そんなときはJAWSを意識しよう!

BMV換気を最適化するための技術は"JAWS"に集約されています!

J:  Jaw thrust(下顎挙上を行う)
A: Adjuncts(補助具を使う)
W: Work together(二人法を使う)
S: Small and slow squeeze(小さくゆっくりバッグをもむ)

 

Jaw thrust & Work together:目指せ!トリプルダブル!?

バスケをやったことのある人なら、"トリプルダブル"には憧れがあるかもしれません。

これはバスケ用語で、1試合で1人の選手が得点、リバウンド数、アシスト数、スティール数、ブロック数の5つの項目のうち、3つ(triple)で2桁(double)を記録することを言います。

 

気道確保も基本はトリプルダブルを目指すことになります。

 

まずは、体位が重要であり"triple" airway maneuverを意識したポジショニングをしましょう。

①頭部後屈、②顎先挙上( Jaw thrust)、③開口の3つの手技です。

③開口を忘れやすいと思うので意識して行いましょう。換気効率が格段に変わります。

 

また、頭部に厚さ10cmほどのまくらやタオルをたたんだものを置くことで、

換気効率も良くなることが期待でき、

喉頭展開の際にも視野が得やすいと報告されています。

 

そして、"double"ですが、人員が確保できればtwo-handed techniqueを行いましょう。

これはマスクシールを最適化するための方法ですが、

1人法である片手でのEC法は、結構換気を保つのが難しくて手が疲れます。

そこで、2人法を基本にしておきましょう

1人にBVM換気を任せて、1人はマスクシールに専念します。

 

両手でEC法を行う方法や、

両手の親指と人差し指で「V」の字を作ってマスクを圧迫し、残りの指を使って下顎を持ち上げるVE法があります。

どちらの方法を使っても構いません。

 

なお、マスクシールのちょっとした裏ワザを紹介しておきます。

昨今、歯のない患者が多いと思いますが、換気が難しいですよね。

そんなときには、

・義歯があるとき→義歯をしたままBVM換気(喉頭展開のときに外す)

・義歯がないとき→マスクの下縁を患者の下唇の内側に置いてBVM換気

なんてのが有効ですので、試してみてください。

 

トリプルダブルでJAWSな気道管理を目指しましょう!

 

Adjuncts(補助具を使う)

もし換気不十分ならエアウェイを使ってみましょう!

 

口腔咽頭エアウェイは意識があるときには使えないのでクセつよですが、

咽頭エアウェイは使いやすく、使用頻度が高いのではないかと思います。

(頭蓋底骨折が疑われる場合は禁忌、出血傾向がある場合には鼻出血のコントロールがつきにくいため使用を控えた方がいいです)

 

Small and slow squeeze(小さくゆっくりバッグをもむ)

BVM換気の最適な1回換気量として、6-8ml/kgを目指せばよいでしょう。

過ぎたるは猶及ばざるが如し、いつでも過換気をすればいいというわけではありません。

 

標準的には500ml程度の換気ができれば十分でしょう。

焦っているシーンでは「とにかくしっかり換気しなきゃ」とバッグ部分を全力で押しつぶすようにもんでしまうことがあるかもしれません。

しかし、過換気にすることで気管だけではなく胃にも空気が送られてしまい、

胃の膨張→誤嚥を引き起こしてしまう可能性があります。

 

広く使われているBVMのバッグ部分の容積は1500-2000mlなので、

およそ1/3ほどバッグをもめばよいことになります。

これを意識しましょう。

 

また、バッグをもむときには、

ゆっくり押して気管に酸素を送り込むことを意識してください。

 

患者の自発呼吸が残っているときには自発呼吸に合わせる必要がありますが、

自発呼吸がない状態には、1回の呼吸につき1-2秒かけて吸気を送ります。

 

そのときに胸郭のあがりを確認してください。

 

呼吸回数は病態により異なりますが、

特に重症のCOPDや喘息の急性増悪といった閉塞性換気障害がある場合には、

しっかりと呼気の時間をとってair tapping(息を吐き切れず肺を過膨張させてしまう)を防ぐために10秒に1回程度の換気が好ましいこともあります。

 

圧制御バルブってなに?PEEPバルブってなに?

もしかしたら標準装備になっているかもしれないけど、

使いこなせていない機能がそのBVMにはあるかもしれません。

ご自身の施設のBVMをよく見てください。

 

換気をしたときに気道内圧があがりすぎるのを制御するために、

圧制御バルブというのが搭載されているBVMがあります。

 

当院で使用している圧制御バルブはコレです👇

新品のBVMを開封すると、この状態になっています。

この状態は、圧制御バルブが機能しているため、

気道内圧が高まりすぎず肺保護換気に最適です。

 

でも、緊急時には少し相性が悪いです。

試してみるとわかると思いますが、ある一定の圧に達するとこのバルブを通じて圧が逃げてしまいます。

 

病棟急変などで呼ばれたとき、ERで挿管をしなければならないときなどは、

基本的には酸素化が非常に悪く、少しでも酸素化を良くしたいことが多いでしょう。

 

その場合には、この圧制御バルブを機能させなくすればよいです。

方法はかんたんで、右か左に回しながら押し込むだけです。

そうすると、こんな感じになります👇

これによって、バルブが締まるので、

圧が逃げず最大60cmH2Oの圧をかけた換気が可能になります。

 

心不全や肺炎で分泌物が多いとき、窒息などで少しでも換気したいとき、

そして胸の上がりがどうしても悪いときには圧制御バルブの存在を思い出してください。

 

 

PEEPバルブは外付けをします。

外付けをしたPEEPバルブはこんな感じです👇

撮影がヘタでよく見えませんが、

赤いキャップをねじねじすると内蔵されているスプリングが伸び縮みして、

呼気に対して一定の圧力がかかるまで空気が出られないような構造になっています。

小さく数字が書いてあって、それがPEEPに相当します。

 

PEEPは5~20cmH2Oの範囲で設定することができます。

気管挿管を考えるような気道緊急や呼吸不全などの緊急事態はもちろんですが、

気管挿管を終えて患者を移送しなければならないときにこのPEEPバルブを使っておくと

便利です。

 

こういったチョイたし機能も徹底的に活用して、急場をのりきりましょう!