失神とは突然に発症する一過性の意識消失で、短時間のうちに自然と元の状態に戻ることを指します。
原因として心原性、起立性低血圧、反射性の3つに大きく分類されますが、このなかでも心原性は特に見逃してはならない原因となります。
年齢を含めた背景によりますが、救急外来を受診する失神患者の最大20%ほどは心原性失神と報告されています。
心原性失神の原因

ひとことで心原性といってもこれだけの疾患があります。
ハイリスクな病歴
ひとつずつつぶしていくしかありませんが、特にハイリスクな病歴がある場合には要注意です。
| low risk | high risk |
| 立位での失神 | 仰臥位での失神 |
| 仰臥位/座位→立位での失神 | 労作時失神 |
| 嘔気、嘔吐のエピソード | 胸部違和感、胸痛など |
| 失神前に暖かくなる、めまいがする | 動悸感あり |
| 疼痛や恐怖がトリガー | 前駆症状なし |
こんなときには特に心電図をしっかりと解釈しましょう!
「う~ん、ST-T変化はないから大丈夫かな?」くらいのアセスメントで終わらせると、まれだけど見逃してはならない疾患にいつか足元をすくわれますよ。
心原性失神を疑ったら…ALWays BBQ!
心原性失神を疑うときには"ALWays BBQ"と魔法を唱えながら、
心電図の解釈をしてみましょう。
なんか陽キャみたいで楽しそうですよね。
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A:AC(Arrhythmogenic cardiomyopathy:不整脈原性心筋症) L:LVH(Left Ventricular Hypertrophy:肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症など) Ways:WPW症候群 B:Brugada症候群 B:Block(脚ブロック、束枝ブロック、房室ブロック) Q:QT延長症候群 |
※ここでは、ACSや肺塞栓、大動脈解離などの「よく知られた原因」ではなく、特殊な心電図波形で特に注意が必要なものを取り上げています。
A:AC(Arrhythmogenic cardiomyopathy:不整脈原性心筋症)
以前はARVCと呼ばれていた遺伝性心筋症ですが、左室障害も多いことからこの名称になりました。肥大型心筋症に次ぐ、若年者の突然死の原因となっています。
チェックすべき心電図所見:
①prolonged S-wave upstroke:S波の立ち上がりがゆっくりで、55msec以上になる
②陰性T波
③QRS延長(≧110msec)
④ε波:QRS波の終末に見られるノッチのこと(でも感度は低くて15-30%程度)
(※V1-3誘導に注目しますが、他の部位に所見が出ることもあります)

(Ann Emerg Med. 2020 Nov;76(5):583–5.)
上記全ての所見を認める特徴的な心電図波形です。
知らないと、「別に大丈夫かな」くらいにスルーされそうです。
L:LVH(Left Ventricular Hypertrophy:肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症など)
LVHを積極的に探しましょう。
いろいろな定義がありますが、個人的には以下を使用します。
・aVL誘導のR波>11mm
・V1誘導のS波+V6誘導のR波>35mm
LVHがある場合には、大動脈弁狭窄症(AS)や肥大型心筋症(HCM)の存在を疑います。
いずれも聴診や超音波検査でつかまりますが、心電図で簡単にひっかけることで見逃し可能性を低くすることができます。
ここでは、若年者の突然死原因の第1位の疾患であるHCMについてみていきます。
HCMでチェックすべき心電図所見:
①LVH
②側壁誘導または下壁誘導における、深く狭いQ波
Q波と言えば心筋梗塞ですが、HCMではより狭いQ波が特徴的で”短剣様”Q波と称されることもあります(とがっているってこと)。
また、側壁誘導に限局することも特徴です。

(Am J Emerg Med. 2007 Jan;25(1):72–9.)
なお、我々日本人にはApical HCM(心尖部肥大型心筋症)という特殊な型をとることがあります。
LVHに加えて、巨大陰性T波があることが特徴的です。

(Am J Emerg Med. 2007 Jan;25(1):72–9.)
Ways:WPW症候群
頻脈性不整脈の原因となる先天性疾患です。
これはなぜかみんな知っている認知度の高い疾患です、なんでなんでしょうか。
チェックすべき心電図所見:
①PR短縮(<120msec)
②δ波:QRS波の最初の立ち上がりがゆるやか
③QRS延長(>110msec)

(Cureus. 2020 Jul;12(7):e8971.)
B:Brugada症候群
若年者の失神で特に疑うべき疾患です。発症の平均年齢は40歳くらいです。
チェックすべき心電図所見:
①右脚ブロック型波形
②V1-3誘導の"coved型"ST上昇
Saddleback型ではなく、coved型が診断的です。
なお、12誘導心電図のすべての誘導を1-2肋間あげて検査することで検出感度を大きく上げることができるので、個人的にはルーチンでこれを行うようにしています。

(World J Emerg Med. 2020;11(3):188–90.)
V1誘導のヒトコブラクダのような変なST上昇波形が特徴的ですね。
B:Block(脚ブロック、束枝ブロック、房室ブロック)
脚ブロックや束枝ブロックについては過去を参照してください。
※※実は、「二束ブロック」「三束ブロック」という呼び方は、あまり推奨されていません。
理由として、これらのパターンには解剖学的や病理学的なばらつきが大きく、12誘導心電図だけで真の三束ブロックを診断するのが難しいからです。
学会では、具体的な構造に基づいた記述(例:二束ブロックなら「RBBB+LAFB」など)を推奨しています。
とはいえ、実際には「二束ブロック」「三束ブロック」という用語は広く浸透していて、便利なためによく使われていますし、個人的にも使ってしまっています。※※
房室ブロックの存在に気付くためには、P波とQRS波の関係性に着目します。
それぞれが無関係に等間隔に並ぶ場合には完全房室ブロックが、PR間隔が延長することなく突然QRS波が落ちればMobitz II型の2度房室ブロックが疑われます。
最近仲間内で話題になったのですが、実は1度房室ブロックも度が過ぎれば問題になります。
1度房室ブロックはPR間隔が200msec(心電図の大きいマス1個分)以上で定義されますが、これが300msec以上になるとmarked first degree AVBなんて呼ばれます。
運動時にはさらにPR間隔が延長してしまい、労作時失神の原因となることがあり、II~III度房室ブロックへ移行しうる可能性があるリスキーな波形と考えられています。

(BMC Res Notes. 2014 Nov;7:781.)
II誘導のT波のあとにあるポッチがP波です。変な位置にありますが、一応QRS波とつながっているようです。こんな度が過ぎた1度房室ブロックはいやですね。
あと、完全房室ブロックで思い出しましたが、心房細動に完全房室ブロックを合併すると面白いことになります。
「慢性心房細動では、ちゃんと心房細動になっているか」確認しましょう。
もし、心房細動に完全房室ブロックを合併すると、心房の刺激が心室に到達しなくなるため規則的な心室調律が現れます。
心房細動調律ではなく、規則的な調律になってしまいます。
な~んか徐脈だけどまぁ大丈夫かな~とタカをくくると痛い目をみます。

(SAGE Open Med Case Rep. 2023;11:2050313X231157486.)
心房細動ではなくなっています。
心房からの刺激が心室には到達しなくなり、心室が独立して動くことで、リズムが不整ではなくなっています。
Q:QT延長症候群
QT延長も失神や突然死のリスクになります。
特にTorsades de Pointes(TdP)との関連が重要です。
QTcが10msec延長するごとにTdP発生リスクは5-7%ずつ上昇します。
お~こわ。

(Cureus . 2020 Jul 11;12(7):e9132.)
心原性失神のときの心電図の見かたについて解説しました。
ALWays BBQ を積極的に見つけに行ってくださいね。
