病歴/身体所見
・32歳男性
・数時間持続する動悸を主訴にER受診
・ARVCと診断された既往があり、ICDとPPM植え込みされている
◦特に問題なく作動していることは最近確認されている
◦sotalol 80mgを1日2回内服している
・同日、受診前にICDが8回ほど作動したが動悸は改善しなかった
・めまいは自覚したが失神/胸痛/息切れの発症はなかった
・喫煙歴なし、飲酒歴なし、違法薬物使用歴なし
・HR170bpm, BP129/73mmHg, SpO2 97%, BT37.1℃
検査
・ただちに蘇生ベッドに誘導され、除細動器装着およびECGが実施された
最終拍にcapture beatを伴うVT
・ICD/PPMのリードの位置異常がないことをCXRにて確認した
診断
electrical storm(VT)/ARVC(不整脈原性右室心筋症)
・血行動態の安定したVTでありICD作動によっても持続しているため薬物的管理が必要と考えられた
・lidocaine 100mg+ magnesium 2g静注が実施しれたが洞調律復帰せず、ICDからのoverdrive pacingが自動的に出現
overdive pacingとfusion beatを伴うVT
・血液検査でK 2.3meq/Lであることが判明
→2時間にわたりカリウム補正を行い、lidocaine 100mg再投与により洞調律に復帰
ε波(III誘導で最もよく見える)、V1-3誘導に陰性T波/prolonged S-wave upstroke/QRS 110msec
◦多くは単形性VTだが、多形性VTやVFを呈することがある
(Tex Heart Inst J. 2011;38(2):111-21.)
・electrical stormを発症すると、特に最初の3か月間の間、突然死リスクが高まる
(J Atr Fibrillation. 2015 Dec 31;8(4):1150.)
・適切な治療によってもelectrical stormは起こり得るし、不適切な治療に続発することもある
◦デバイスの動作異常の可能性もあり、これに関しては業者に問い合わせることで診断されることがある
(Tex Heart Inst J. 2011;38(2):111-21.)
・electrical stormの治療は迅速な診断と誘発因子の特定、それを積極的に管理すること
◦誘発因子として以下を考える
‣電解質異常…低K血症/低Mg血症
‣心不全
‣発熱/感染症
‣不整脈を誘発させる薬剤
‣甲状腺機能亢進症
◦誘発因子は特定できないこともある
(Circulation. 2011 Oct 18;124(16):e411-4.)
・amiodarone静注+非選択性β-blocker(propanolol)などの組み合わせが効果的
(J Atr Fibrillation. 2015 Dec 31;8(4):1150./Circulation. 2011 Oct 18;124(16):e411-4.)
※ただし、本症例ではclass III抗不整脈薬が投与されていたため、同系統の薬剤(amiodarone)投与することは避けたほうがよい(QT延長→Torsades de Pointes誘発)
(Pharmacotherapy. 2007 Sep;27(9):1297-305.)
・electrical stormは身体的にも感情的にもストレスになるイベント
◦鎮痛薬やベンゾジアゼピン投与により症状軽減可能
・薬物治療へ抵抗性またはICDによるショックによっても頻発する場合には緊急カテーテルアブレーションが治療選択肢になる
(J Atr Fibrillation. 2015 Dec 31;8(4):1150./Circulation. 2015 Aug 4;132(5):441-53.)
ARVCについては以前も症例を紹介しました。
※左室由来のこともあるため不整脈原性心筋症と呼ばれるようになったんでした。
ARVCに特徴的な波形はいろいろあります。今回の心電図は典型的です。
ε波が有名ですがあまり見られず、prolonged S-wave upstroke(V1-3でのゆっくりとした立ち上がりのS波、S波≧55msec)が最もみられる所見とされています。
(Circulation. 2004 Sep 21;110(12):1527-34./Eur Heart J. 2009 Nov;30(21):2631-71.)
まとめ
・electrical stormとは、心室頻拍や心室細動が頻発し、植込み型除細動器の作動あるいは体外式除細動器の使用が24時間以内に3回以上起こること
・誘発因子への介入を迅速に行うべし(電解質異常など)
・amiodarone静注+非選択性β-blocker(propanolol)などの組み合わせが治療に効果的だが、難治性の場合には緊急カテーテルアブレーションも考慮される