診断自体は容易で題名からすぐに診断と対応が思いつくと思いますが、少し心電図波形からの鑑別を考えてみようと思います。
病歴
・87歳男性、高血圧/糖尿病腎症/HFpEFで通院
◦処方薬…atenolol, perindopril, torsemide, amlodipine, atorvastatin, sitagliptin, insulin
◦2週間前にspironolactoneが追加された
・3日前から増悪する倦怠感のためER受診
・HR53bpmで徐脈、それ以外のバイタルサインの異常はなし
診断
高カリウム血症
・グルコン酸Ca投与に引き続きGI療法が行われた
・スピロノラクトンを中止して退院となった
診断と治療は一直線で問題なさそうです。
今回は少し徐脈の鑑別について勉強します。
徐脈の鑑別は? "DIE"
・最も有名な鑑別の仕方は"VF AED ON"でしょうか
V:Vasovagal reflex(迷走神経反射)
F:Freezing(低体温)
E:Electrolyte/Endocrine(電解質異常/内分泌)
D:Drug(薬剤性)
O:Oxygen(低酸素)
N:Neurogenic shock(神経原性ショック)
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でも、緊急事態には思い出せないんですよね、そんなにいっぱい…。
以下の覚え方なら頻度の高いものTOP 3に絞っているので覚えられます!
・上記の中でも特に頻度が高いものは"DIE"で覚えておく
Drugs: AV nodal blockers, Calcium channel blockers
Ischemia: 通常、RCA閉塞が多い
Electrolytes: 高K血症
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今回の心電図波形から改めて鑑別を考えてみます。
(再掲)
この心電図波形をみたときに鑑別となりそうなのは
三環系抗うつ薬をはじめとしたNaチャネル阻害薬中毒
or
心筋梗塞(特にde Winter)
だと思いますので以下に解説します。
➀薬物中毒
・特に三環系抗うつ薬中毒は(最近頻度は少なくなっていますが)鑑別にあがる
◦wide QRS, aVR誘導のR波増高、V1誘導のR波増高など
・三環系抗うつ薬中毒の心電図波形の特徴は以下
・洞性頻脈…抗コリン作用のために初期に現れる可能性が高い
・wide QRS>100msec
・aVRでR波増高(R波>3mm, R/S>0.7)
・V1誘導でR波増高
・右軸偏位
・右脚ブロックパターン
・QTc>430msec
・まれにV1-3誘導でBrugada型波形
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(Emerg Med J. 2011 Apr;28(4):347-68./J Assoc Physicians India. 2010 Feb;58:120-2.)
(https://litfl.com/tricyclic-overdose-sodium-channel-blocker-toxicity/)
・本症例では満たされる特徴もありますが、(そもそも内服がなく)QT延長がないことから考えづらいと思われます
◦高カリウム血症ではQTは短縮するか正常範囲かになる
②心筋虚血
・心筋虚血の可能性はある…特にde Winter patternとの鑑別
・de Winter patternはLAD閉塞を示唆するため、緊急PCIを要する
◦LAD閉塞の2%がDe Winter型心電図を呈する
・特徴は以下
◦V1-6誘導においてJ点が1-3mm低下したupsloping STD
◦通常はaVRでのSTEも見られる(aVRでSTEなしの症例も報告ありますが)
(N Engl J Med. 2008 Nov 6;359(19):2071-3./Am J Emerg Med. 2016 Dec;34(12):2450-2451./Heart. 2009 Oct;95(20):1701-6.)
まぁ、血ガスとればすぐにわかるんですけどね…。
あと、今回の心電図、"右軸偏位"って時点で救急医的にはかなり身構えます。
"右軸偏位をみたらろくでもない疾患を考えること"と研修医には教えています。
例えば肺塞栓/高カリウム血症/側壁梗塞/Naチャネル阻害薬やカフェインなどの薬物中毒なんかが鑑別になります。恐ろしやおそろしや。。。
まとめ
・徐脈の鑑別はひとまず、"DIE"で覚えておこう
・三環系抗うつ薬中毒ではaVR/V1誘導でR波増高、wide QRSになる
・de Winter patternはLAD閉塞を示唆し、aVR誘導でST上昇が通常みられる
・右軸偏位をみたらろくでもない疾患を考えること