心電図の解釈についての症例検討です。
以下の病歴と心電図変化から次のアクションを考えながら読んでみてください!
病歴
・76歳女性・既往歴:胃炎、変形性関節症、うつ病、高血圧・目撃のない転倒後の全身脱力感のためERへ搬入・付き添いの息子によれば、数週間前から体調不良があり1週間前から嘔吐していたという・HR100bpm, BP128/60mmHg, BT36.2℃, RR24/min, SpO2 100%・患者は診察に非協力的であり、腹部のびまん性疼痛を訴えていた
心電図はびまん性のST低下とaVRのST上昇を認めます。
STEMIの定義にも含まれている左冠動脈主幹部病変/三枝病変が濃厚でしょうか。
QT延長やU波に見えるような波形もあるように見えます。
一応、STEMIの定義を確認しておきます。たまに見ておかないと忘れますし。
①STE(連続する2誘導以上)
◦前胸部誘導(V2-3)
‣男性>40歳…STE>2mm
‣男性<40歳…STE>2.5mm
‣女性…STE>1.5mm
◦他の前胸部誘導・四肢誘導…STE>1mm
②STD(2誘導以上)
◦前胸部誘導(V1-4)
③aVR STE + 広範囲STD
④新規LBBBは心筋梗塞は疑わない
※例外としてショック、Sgarbossa's criteriaを満たす場合がある
⑤hyper acute T wave
STEに関してはあまり基準とか覚えなくていいと思いますが、よく忘れやすいのが「前胸部誘導V1-4におけるST低下もSTEMIだし、aVR ST上昇+広範囲ST低下もSTEMI」 というところだと思います。
症状が2週間前からだし、あまりすぐにはAMI!には飛びつかないかも…。
でも、心電図は怪しすぎるので左冠動脈主幹部病変/三枝病変に加え、大動脈解離なんかも考えながら、血液検査/血液ガス、ルート確保、超音波あたりで検索開始しつつ、今日の循環器担当の先生は~なんて考え始めるかも。
病歴の続き
・血液検査…K1.9mEq/L, Na130mEq/L, P1.3mg/dL, Mg1.9mg/dL, Cl99mEq/L, Lac5.3mmol/L, troponin I 0.02ng/mL・患者は4時間かけてK 40mEq静注+K 40mEq内服+Mg 2g静注を受けた・受診から5時間後の検査でK2.7mEq/Lまで改善、腹痛は改善、心電図検査も以下のように変化が認められた・経時的なtroponin検査により0.37ng/mLまで上昇が認められたため入院となった
・入院2日目の心臓カテーテル検査では左前下行枝の一部が70%狭窄、DES留置(今回のイベントとは無関係だが)、翌日退院となった
今回は低カリウム血症による変化だったようです。
カリウム補充により症状と心電図変化が改善したことを確認、経時的に採取したcTnIが軽度上昇したためCAG実施するも今回の病態を説明できる所見はなしでした。
よって、最終診断は以下のようになりました。
最終診断
・低カリウム血症
・宿便性潰瘍による症状により体液量減少→急性心筋梗塞type 2
※いわゆるtype 1がいつも見ているプラーク破綻による心筋虚血で、心筋への酸素需要と供給のミスマッチによるものはtype 2と呼ばれる
aVR ST上昇+広範囲なST低下は 左冠動脈主幹部病変や三枝病変の強力な予測因子として知られています。でも意外と特異的、というわけではなくて以下のような疾患でも同様の心電図所見を認めます。