病歴/身体所見/検査
・3歳男児
・これまでに既往なし
・失神を主訴にER受診
◦遊んでいるときに突然地面に倒れて2分間呼びかけに応じなかった
◦四肢の痙攣/チアノーゼ/眼球上転/尿便失禁などはなかった
・BP82/50mmHg, HR90bpm, RR23/min, BT37℃
・身体所見は明らかな異常を認めず
・血液検査…血糖値89、電解質異常など認めず
・心電図ではV1-3誘導においてST上昇を認め、ある疾患が疑われた。
→不整脈による失神であろうと暫定診断され、1週間後の心臓クリニック受診を指示
・1週間後、小児心臓クリニックでフォローされた
・バイタルサインや身体所見には異常を認めず
・実は、家族は里親であり、真の家族歴については情報が得られなかった
・心電図は前回と同じ所見であった
・procainamide 10mg/kg静注(procainamide challenge)が行われ、心電図が実施され診断が確定された
そのときの心電図は以下
診断
Brugada症候群(Coved型)
・遺伝子検査ではSCN5A遺伝子変異が陽性であった
・ICD挿入が行われ、元気に過ごしている
・Brugada症候群は常染色体優性遺伝疾患
◦最も一般的に認めるにはSCN5A遺伝子変異
(Heart Rhythm. 2010 Jan;7(1):33-46./Future Cardiol. 2013 Mar;9(2):253-71./Circ Cardiovasc Genet. 2009 Dec;2(6):552-7.)
・全世界で突然死の約4-12%を占めている
・診断には、心電図でV1-3誘導における特徴的なST上昇が必須
◦type 1(Coved型)とtype 2(Saddle-back型)があるが、type 1が必須
(Heart Rhythm. 2013 Dec;10(12):1932-63.)
(Dtsch Arztebl Int. 2015 Jun 5;112(23):394-401.)
薬剤投与量を増やしていくにつれて徐々にその波形が顕著に現れます。
・Brugada症候群の症状は無症状~突然死までさまざま
◦典型例…失神と痙攣、それに引き続く死戦期呼吸(VFによる)
◦症状は40歳前後に出現することが多い
◦男性で多く、重症化することが知られている
(J Cardiovasc Electrophysiol. 1998 May;9(5):513-6./J Am Coll Cardiol. 2008 Nov 4;52(19):1567-73.)
・Brugada症候群は小児では非常にまれで、しばしば発熱によりマスクされる
・逆に、発熱によりBrugada症候群の心電図波形が顕著になり、VF/VTを起こしうる
発熱により心電図波形がBrugada型に変化しています
(Eur J Intern Med. 2017 Oct;44:19-27.)
・鑑別診断として以下がある
◦Long QT syndrome
◦拡張型/肥大型心筋症
◦大動脈縮窄症
◦大動脈弁狭窄症など
(Circulation. 2003 Dec 23;108(25):3092-6.)
3歳の失神とか怖すぎます。
今回は特に労作時失神なので心原性失神である事前確率が高まります。
こうやって診断していくんですね。
あれっと思ったときは1肋間あげて心電図を再検していみるとより顕著に、もしくはSaddleback型かと思っていたらCoved型に変化してやばっとなったりもします。
まとめ
・労作時失神をみたら心原性の原因を疑う
・Brugada症候群は常染色体優性遺伝で、男性により多く、突然死の原因となる
・心電図はV1-3誘導における特徴的なST上昇(Coved型)を見逃さないこと
・疑ったら1肋間上げて心電図を再検してみること
・Brugada波形は、発熱によりマスクされることも、逆に顕著になることもある
・治療は植え込み型除細動器