りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

"はぐれSTEMI" = STEMIと同等の危ない心電図波形を見逃すな!

STEMI診断に自信はありますか?

 

知れば知るほど難しいな~と感じる分野ですがいかがでしょう?

 

STEMIなんて見てわかるじゃ~ん、簡単だよ!

なんて聞こえてきそうです。

国家試験の問題とか典型例はそこまで迷うことはありませんが、

実臨床ではなかなかそうはいきません。

 

循環器内科の医師たちは、優れたgestaltと心エコー技術を持ちます。

しかし、非循環器内科医="持たざる者"はそれらでの診断はなかなか難しいのが実情ではないでしょうか。

 

ということで、今回は心電図特集です。

 

一般的にありふれたタイプのSTEMIは誰でもわかると思いますので、

忘れやすい/あまりお目にかかれないがSTEMIと同様に緊急対応が必要な波形

= はぐれSTEMI

について解説したいと思います。

 

見つけて嬉しい、倒して嬉しい、そんな波形です。

ドラクエ知らない人はごめんなさい)

 

専門家には怒られそうですが、小難しいことは後回しにして、

心電図は解剖学だと思って頭に刷り込むのが個人的にはオススメです。

 

 

(第2回屋根瓦塾 in Shizuokaにご参加の皆様、ありがとうございました。

その講義の補完資料にもなっていますのでご参照ください)

 

 

はじめに

「胸痛」の鑑別診断の筆頭として、ACSが挙げられます。

 

ACSは、STEMIとNSTE-ACS (NSTEMI + UAP)に分類されます。

NSTEMIはトロポニン、UAPは病歴がそれぞれ診断に最も重要な因子です。

(こっちに関してはそのうち記事にします)

 

STEMIはACSの30%程度を占めます。診断のポイントは心電図です。

 

でも、初回心電図では診断できないことがしばしばあります。

 

報告によれば、STEMIの最終診断となった患者のうち、最大40%ほどで初回心電図でSTEMIの診断に寄与しないそうです。

つまり、STEMIの半数近くが初回心電図では診断的ではないようです。

 

そのため、経時的に(15-30分毎に)心電図を繰り返す必要があります。

 

心電図が苦手な方の中には、自動解析があるから大丈夫!

なんて思っている方もいるかもしれませんが、アイツはあまり信用なりません。

 

STEMI診断において、初回心電図の自動解析の感度は35%しかありません。

あらゆる冠動脈閉塞診断に対しては感度21%です。

あてにならねー。

だから、自分で探せるようにならないといけません。

 

非専門医であっても心筋梗塞見逃しは裁判沙汰になりますので、

(見逃しや診断遅延は患者の予後を一気に悪化させますし)

当直など含めてERで働く人には心電図読影は必須技能です。

 

ここでSTEMIの定義を確認しておきます。

 
①STE(連続する2誘導以上)
  ◦前胸部誘導(V2-3)
   ‣男性>40歳…STE>2mm
   ‣男性<40歳…STE>2.5mm
   ‣女性…STE>1.5mm
  ◦他の前胸部誘導・四肢誘導…STE>1mm
②STD(2誘導以上)
  ◦前胸部誘導(V1-4)
③aVR STE + 広範囲STD
④新規LBBBは心筋梗塞は疑わない
 ※例外としてショック、Sgarbossa's criteriaを満たす場合がある
⑤hyper acute T wave
(J Am Coll Cardiol. 2013 Jan 29;61(4):e78-140.)

 

➀は定義そのものですので問題ないと思います。

②V1-3誘導のSTDは結構忘れがちです。後壁梗塞のreciprocal changeとして出現します。

③は研修医でもなぜか結構知っている人が多くて驚きます。でもあまり特異度は高くなくて、大動脈解離だったりして治療法が全く異なることもあるのがpitfallです。

④LBBBがあるときにはSgarbossa criteriaを使用します。知ってます?

⑤hyperacute T-wave…診断できますか?閉塞早期の所見なので絶対に拾いたいです。

 

②~⑤は非専門医にはちょっと不安が残るところではないでしょうか。

 

これらは自分のなかで「はぐれSTEMI」と分類して

忘れないように戒めてます。

 

忘れやすい、あるいはあまりお目にかからないけど、

STEMIと同等に扱うべき危ない心電図変化を指します。

見つけて嬉しい、倒して嬉しいやりがいのある心電図波形です。

 

上記を含めて結構たくさんあるので以下にまとめていきます。

 

はぐれSTEMI その1 V1-3誘導のSTD

STEMIの定義自体には含まれていますが、結構忘れがちです。

 

「V1-3誘導のSTDを見たら後壁梗塞」

を疑うこと!

 

AMIのおよそ5%が後壁梗塞です。

でも2012年時点での報告では、診断率は38%しかなかったそうです。

今は教育が進んでもっと診断できるようになっているんでしょうか。

 

V1-3誘導のSTDは、V7-9誘導のSTEのreciprocal changeなんですね。

これがあれば診断は確定的になりますが、

ときにV7-9誘導のSTEに関しては偽陰性になるため注意が必要です。

 

STEの高さはかなり微妙なときがあります。

一般的には1mmをcutoffにして診断しますが、

これだと感度は53%しかありません。

0.5mmのSTEをcutoffにすることで感度94%まで上昇します。

 

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V1-3誘導のSTDがあり、V7-9誘導ではこれでもかというほどにSTEがあります。

こんなに派手になることの方が珍しくて、上記のようにもっと微妙な上がり方のことが多いです。

 

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(Can J Cardiol . 2018 Feb;34(2):132-145.)

もうぱっと見でV1-3誘導がおかしいのはわかるようになってきました。

(その他の誘導もだいぶおかしげですが)

 

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(Can J Cardiol . 2018 Feb;34(2):132-145.)

上の症例と同じですが、V4-6誘導はV7-9誘導を示します。

このくらいわずかなSTEしかないこともありますので、これをSTEなしととらないようにしたいです。

 

 


後壁梗塞の検出には、V1-3誘導のSTD以外に以下の所見を参考にします。

・wide R wave > 1mm
R/S ratio > 1(V1-3でR波が高い!)
・upright T wave(T波が陽転化)
 ◦ふつうは陰性だし、少なくともV6より高いことはない(NTT!)

 

NTTはdocomoのことでもNNTの間違いでもありません。

new tall T-waveの略で、

通常V1誘導のT波は陰転化こそあれ陽性になったりV6誘導よりも高くなることはありません(normal variantの可能性はあります)。

これはいつも探しにいっています。

 

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(West J Emerg Med. 2017 Jun;18(4):601-606.) 

V1-3誘導のSTDに加え、幅広めかつ高いR波があります。

 

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(West J Emerg Med. 2017 Jun;18(4):601-606.)

NTTの一例です。hyperacute T-waveなんじゃないかというツッコミはありますが、

こんな感じでT波の高さがV1>V6誘導になることは普通ありえません。

 

ときに施設を異動して初めて知ったんですが、

わざわざ後壁誘導にシールを付け替えなくてもV1-6誘導の位置のままで、

V7-9誘導 + V4R-V6Rまで表示される心電計があるんですね!

便利な世の中になったものです。

 

はぐれSTEMI その2 hyperacute T-wave

冠動脈閉塞直後または自然灌流直後の所見として知られています。
 
STEの出現前に現れることがあるため、早期発見できれば早期治療につなげられます。
これを見逃さないことは非常に重要度が高いです。

 

高くて太くて非対称であるとされます。

 

虚血を疑う症状+T波の増高

がある場合にはhyperacute T-waveを想起します。

 

T波の増高はたぶんいろいろな定義があると思いますが、

T波の高さが、QRS波の高さの75%程度は欲しいところです。

 

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(Am J Emerg Med. 2007 Sep;25(7):859.e1-7.)

虚血を疑う症状があり、V1-5誘導で幅広かつQRS波の高さの75%以上はあろうかというT波の増高があります。

これはhyperacute T-waveの所見です。

なお、T波の高さがV1>V6となっています。NTTですね。これも虚血を疑う所見になります。

 

もっとマジメに考えたいヒト向けですが、

虚血を疑う症状+V2-4誘導でSTE≧1mmの患者では、

T波高/R波高が鑑別になり、正常:0.7、冠動脈閉塞:3.1という数値が報告されています。

R波増高がしっかりあるときの高いT波はまぁ大丈夫とも言い換えることができそうです。

 

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V2-3誘導でhyperacute T-waveを認めます。
R波増高がなく、T波が高いです。
上記法則に当てはまりそうです。
 

はぐれSTEMI その3 Wellens症候群

数時間~数日で心筋梗塞に至りうる非常にリスキーな状態で、

胸痛と改善を繰り返すことがあります。

大体75%が1週間以内に前壁梗塞に進展すると言われています。

 

胸痛間欠期にV2-4誘導に陰性T波

(深いパターンや二相性パターンがあります)が出ることが特徴的です。

 

胸痛が出現するとSTEが陰性T波と相殺されてnormal (pseudonormalization)に見えることもあるので要注意です。

 
突然のLAD閉塞による一過性の前壁のSTEMIが生じる(患者は胸痛あり)
血栓の自然溶解や抗血小板薬によるLAD再灌流(胸痛改善)
 (心電図はSTEが改善、T波陰転化または二相化)
→LADが開通したままであればT波は二相性から深い陰性T波へ変化
 (このLAD再開通は不安定でいつでも再閉塞しうる)
→再閉塞で最初の心電図変化はT波正常化(pseudo-normalization)
 (hyperacute STEMIととることができる)
→LAD閉塞が持続すれば前壁STEMIとなる
のような機序が想定されています。
 

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(Can J Cardiol . 2018 Feb;34(2):132-145.)
これは胸痛間欠期です。V2-4誘導に深い陰性波があります。
これがWellens症候群を疑う所見です。胸痛間欠期に出現するのが特徴です。
ここから冠動脈が再閉塞するとpseudonormalizationとして普通の波形に見えたり、ちょっとSTEが見えたりします。
 

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 (West J Emerg Med. 2017 Jun;18(4):601-606.) 
これは二相性T波のパターンのWellens症候群です。
 
とにかく胸痛が治まった患者にV2-4誘導のSTDを見たら、
Wellens症候群を疑っておきましょう。
 
 
※ここからははぐれSTEMIを見つけるためのruleをいくつか紹介していきます※
 
 

はぐれSTEMI その4 terminal QRS distortion

これまで早期再分極(early repolarization)と呼ばれていた波形との鑑別を要するSTEMI所見です。

現在はこの正常型STEをnormal variant STEと呼ぶようになっています。

 
このnormal variant STEはSTEMIとの鑑別を要します。
ほとんどの正常な心電図において、右前胸部誘導に最低1mm程度のSTEは存在し、それはしばしば数mmにも達することがあります。
 
terminal QRS distortion正常なnormal variant STEなのかSTEMIなのか判断する方法その➀です。
 
V2またはV3誘導でS波とJ波の両方がない
ことが特徴です。
 
この所見はnormal variant STEでは絶対に(100%!)見られません。
 

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V3誘導はS波はありませんが、J波がありますのでterminal QRS distortionを満たしません。normal variant STEです。
※J波…QRS群とSTの接合部であるJ点が0.1mm以上上がる所見
 

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(Am J Emerg Med . 2016 Nov;34(11):2182-2185.)

これはterminal QRS distortionを示しています。
これがあればSTEMIと診断できます。
 

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(Am J Emerg Med . 2016 Nov;34(11):2182-2185.)

一方で、基線より下にいくS波があったり、J点がぽこっとあがっているJ波があるようだとterminal QRS distortionは満たさず、それだけではSTEMI vs normal variant STEを鑑別することはできません。
 
 

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PMID: 34967919)
V3誘導を見てください。S波が基線より上にあってJ波がありません。
terminal QRS distortionの所見です。
なお、V2誘導はterminal QRS distortionの基準を満たしていませんが、
hyperacute T-waveがあります。R波に対して高く幅広なT波増高が特徴でした。
 

はぐれSTEMI その5 4-variable formula

normal variant STE vs STEMIの鑑別に使えるシステムその②が、

4-variable formulaです。

 

公式に当てはめてSTEMIの可能性が高いかどうか判定します。

 

以下の煩雑な式です。

0.052 × QTc − 0.151 × QRSV2 − 0.268 × RAV4 + 1.062 × STE60V3

この結果が18.2以上の場合には、

STEMI診断において感度88.8%/特異度94.7%/AUC0.9686となります。

 

大変なんでアプリの力を借りましょう。

Subtle Anterior STEMI Calculator (4-Variable) - MDCalc

 

よく前胸部誘導でちょっとST上がってような気がするけどどうなんすか?って思うことありますよね。そんなときに使用してみてください。

 

測定部位は以下の通りです。

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式を日本語に変換すると、

QTcが延長して、V2誘導が低電位で、V4誘導のR波が高くて、V3誘導のST上昇が大きい」ときにはSTEMIの疑いが強くなります。

normal variant STEでは、QTcがキュッとスマートですし、胸部誘導のR波増高が良好なことが多いですよね。それを式にしたものだと思います。

 

実は心筋梗塞を発症した時に一番早く出てくる変化はQTc延長だと言われています。

hyperacute T-waveではないんですね。

発症から1分以内にQTc延長が出てきます。

 

使える症例には制限があります。

Q波なし/STE>5mmなし/STDなし/V2-6誘導のSTEが直線的または凸型ではない/terminal QRS distortionがない症例に適応できます。

 

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(Can J Cardiol . 2018 Feb;34(2):132-145.)
例えば、この症例なんてどうでしょうか?
ぱっと見はあんまり問題なさそうですよね。
下壁誘導でSTDが出始めているような。
胸部誘導のR波増高が不良なところは気になります。
あとはV1誘導でNTTがあるかもしれません、V1誘導のT波はV6誘導のT波より高くなることは原則ないんでしたね。

 

じゃあ、4-variable formulaを当てはめてみます。

QTc 402msec, RAV4 3mm, STE60V3 1.5mm, QRSV2 13.5

→合計19.65 > 18.2

緊急で冠動脈造影を行ったところLAD閉塞が認められたそうです。

原則通り心電図を再検しつつ、トロポニン検査をして…としていくことに比較して、診断までの時間が段違いに早いですね。

 

気になる症状の患者さんには適応があれば調べてみましょう。個人的にはよく使っています。

 

4-variable formulaについては以前も紹介しました。ご参照ください。

appleqq.hatenablog.com

 

はぐれSTEMI その6 aVL誘導のSTD

aVL誘導のSTD(もしくはT波平坦化)を見たら

下壁梗塞のreciprocal changeを想起します。

 

下壁のSTEがaVL誘導のSTDとして先行して所見が出てくるんですね。

 

下壁梗塞の7.5%ではaVL誘導のSTDのみが唯一の初期心電図変化であったという報告があります。

 

また、下壁誘導に変化がなかった下壁梗塞患者を対象にした研究では、

その99%にaVL誘導のSTDを認めたという報告があります。

 
虚血症状があるけどnormal QRSの場合には、
aVL誘導にSTDに常にアンテナを張っておく必要があります。
 
aVL誘導にSTDがある場合には、下壁誘導に変化が出ていなくとも下壁梗塞の可能性を最初から最後まで考えておかなければなりません。
 

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(Can J Cardiol . 2018 Feb;34(2):132-145.)
これはaVL誘導のSTDがあります。虚血症状があれば下壁梗塞を疑う所見です。
(下壁誘導はちょっとSTEが出始めているような印象があります)
 
aVL誘導のSTD、必ずチェックしてください!
結構見逃されてムダに時間経っちゃってること、見かけますよ。
 

はぐれSTEMI その7 LBBBがあるとき~modified Sgarbossa criteria~

まず左脚ブロック(LBBB)の特徴を知らないと話が進みません。

 

典型的なLBBBを提示します。

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V5-6誘導の二峰性R波、I/aVL誘導の幅広R波、V1誘導の巨大Q波なんかがあります。

特徴としては、これらの波形はすべて「上がって下がる」か「下がって上がる」ことです。

 

I/aVL/V5-6誘導をみてください。

QRS波形は上向きで、そのあとST-T部分が陰性化しています。

 

V1誘導ではQ波は陰性で、そのあとST-T部分が陽転化しています。

 

こいつらがLBBBたらしめる特徴です。

この特徴をappropriate discordanceといいます。

 

LBBBがあるときの虚血性変化はappropriate discordanceがないことです。

つまり、「上がって上がる」か「下がって下がる」のパターンになっている場合です。

concordanceと言い、LAD閉塞に特異的な所見とされます。

 

また、後壁梗塞に類似する変化ですが、V1-4誘導で陰性のQ波に引き続いてST-T部分も陰性(concordance)であることも虚血性変化です。

 

これらの発見からSgarbossaらは、LBBBにおけるSTEMI診断のための3つの基準を開発しました。

これがSgarbossa criteriaです

➀いずれかの誘導でconcordant STEを認める…5pts
②V1-3誘導でconcordant STD 1mmを認める…3pts
③いずれかの誘導に著明なdiscordant STE≧5mmを認める…2pts
 ⇒3点以上でSTEMIと診断(特異的だが感度が低い!)
 

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(Ann Emerg Med. 2021 Jun 22;S0196-0644(21)00249-3.)

③(図ではC)のパターンがやっかいです。

これだけではSTEMI診断になりません。

そもそもLBBBの8%はV1-4誘導に少なくとも5mmのSTEがありますし。 
 
そこで、Smithらがmodified Sgarbossa criteriaを考案しました。
3つ目の基準を変更し、discordant STEを呈するいずれかの誘導でST/S比≧25%でSTEMIの診断ができるようになりました。
 
これは、オリジナルより感度が高く精度も高いことが報告されています。
感度80%/特異度99%であり、cutoffを20%にすると感度84%/特異度94%になります。
 
最近では、cutoffを15%にした方が良いのではないかという話も出てきていますが、とりあえず25%を使っていてよいと思います。
ST部分の高さがS部分の高さの1/4としておいた方が視覚的にわかりやすいので。
 
 

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(Ann Emerg Med. 2021 Jun 22;S0196-0644(21)00249-3.)
 
実例を見てみましょう。
 
まずは①いずれかの誘導でconcordant STEパターンです。

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I/aVL/V5-6誘導にconcordant STEを認めます。これはSTEMIです。
 
次に、②V1-3誘導でconcordant STD 1mmパターンを見ていきます。

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きれいなLBBBだと思いきや、V1誘導でST-T部分が陰性化しています。
これは下がって下がるパターンなのでconcordant STDです。STEMIとして対応です。
臨床的にははぐれSTEMI その➀ 後壁梗塞かもしれない、と思っても専門科につなぐことができればあまり問題はありません。
 
最後に、modified Sgarbossa criteriaで出てきたdiscordant STEを見ていきましょう。

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 (Ann Emerg Med. 2012 Dec;60(6):766-76.) 
なんだか怪しげなLBBBがあります。
前胸部誘導にdiscordant STEがあるので、ST/Sを計算してみます。
すると大体0.33 > 0.25となり、STEMIの診断がつきます。LAD閉塞でした。
 
左脚ブロックがあると心電図が正常でも派手になりがちで、
なんとなく虚血性変化なんでないか?と疑いの目を向けてしまいがちですが、
これからは正常と異常を適切に見分けることができそうですね。
 
ちなみに、このcriteriaはペースメーカー調律でも適用可能です。
 

はぐれSTEMI その8 aVR誘導のSTE + 広範囲な誘導のSTD

aVR誘導のSTE + 広範囲な誘導のSTD
は左冠動脈主幹部閉塞の心電図パターンと認識されています。
STEMIの定義そのものですしね!
 
左冠動脈主幹部だけでなく、LADまたは3枝病変であることも多いとされています。
 

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典型的なaVR誘導のSTE + 広範囲な誘導のSTDでLAD閉塞です。
 
「本物」であれば、たいていショックだったり致死的不整脈が出ていてとても不穏な空気が満載になります。
 
でも、心電図波形だけで見てしまうと「偽物」も拾ってしまいます。
例えば、左室肥大、呼吸不全、低カリウム血症、大動脈解離、大動脈弁狭窄症なんかでも同様の心電図パターンを示すことがあります。
 
実際、この心電図波形で「本物」のACSであったのは28%にすぎず、他はベースラインだったり非ACS疾患だったとの報告があります。
よって、特異度は低いと認識しておいたほうが良いと思います。
 
不穏な空気満載の患者のこの心電図波形は「本物」の可能性が高まります。
心電図だけではなく、患者の状態も加味して診断をつける必要があります。
 
過去にもpitfallになりそうな症例を紹介しました。
 
左冠動脈主幹部病変か三枝病変かと思ったら、なんと大動脈解離だったこともありました。怖い怖い。
このパターンの場合には抗血小板薬投与は循環器内科と相談してからの方が安全だなと感じます。
 

はぐれSTEMI その9 de Winter's T-wave

LAD閉塞を表す心電図変化です。

ただし、LAD閉塞の2%程度しかこの波形とならず、結構まれです。

「はぐれ」STEMIの最後を飾るにふさわしい頻度でしょう。

個人的にはまだ数例程度しか対応したことがありません。

 

V1-6誘導でJ点が1-3mm低下したupsloping STD
と表現されます。
通常はaVR誘導のSTEも見られます(ないこともあります)。
 

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(Am J Emerg Med. 2016 Dec;34(12):2450-2451.)
これがde Winter's T-waveです。
V1-6誘導でJ点が下がっているところからスラーのように滑らかにST部分があがっていくのが特徴的です。
aVR誘導のSTEも見られますね。
 
これも循環器内科でなければ臨床的には、V1-4誘導でSTDあり→後壁梗塞と誤認しても問題ありません。
ERにおいては後壁梗塞との鑑別が難しい波形あるあるとして有名です。
覚えておくと心電図を読む/心電図と出逢う楽しみが増えるんじゃないかな。
 
 
お疲れさまでした。
ここまで9つのはぐれSTEMIを紹介してきました。
でもこの分野の深淵はとてつもなく深く、まだまだあります。
はぐれメタルどころではなく、心電図解釈の進化によりゴールデン/プラチナSTEMIくらいこまごましたものもありますので、機会があればまた紹介したいと思います。
 

まとめ

・STEMIはACSの30%程度。初回心電図で診断がつくのは30-40%程度しかない。
・STEMIは常に疑い、来院から10分以内に心電図評価、診断がつかないけど疑いが残る場合には15-30分毎に心電図を再評価せよ。
・忘れやすい/あまりお目にかかれないがSTEMIと同様に緊急対応が必要な波形=はぐれSTEMIについても理解しておくと見逃しが少なくなるかも
「V1-3誘導のSTD」を見たら後壁梗塞を疑え。V7-9誘導をとって0.5mm以上のSTEがあれば確定的。
「虚血を疑う症状+T波増高」ではhyperacute T-waveを疑え。心筋梗塞発症から30分以内に出現する虚血早期の所見。
「胸痛間欠期のV2-4誘導の陰性T波」を見たらWellens症候群を疑え。胸痛発症時にはpseudonormalizationが起き、正常心電図に見えることがある。
・normal variant STEかな?と思ったら2つのルールを思い出そう
 ◦terminal QRS distortionがあればSTEMI!V2-3誘導にS波とJ波がなければコレ。
 ◦4-variable formulaを使ってみよう。QT延長や胸部誘導のR波増高不良があると虚血っぽさがあがる
「aVL誘導のSTD」を見たら下壁誘導のreciprocal changeを疑え。これが唯一の下壁梗塞時の初期心電図変化の可能性あり!
「LBBBをみたらmodified Sgarbossa criteria」を使用せよ。concordantパターンやdiscordant STEでST/S≥25%なら虚血性変化!
「aVR誘導のSTE + 広範な誘導のSTD」を見たら左冠動脈主幹部病変や三枝病変かも!たいていショックや重篤感が強くなるけど、もしそれがなければ偽陽性かも。
「V1-6誘導でupsloping STD」を見たらde Winter's T-waveを疑え。aVR誘導のSTEを伴うことがある。LAD閉塞の2%で見られる所見。