りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

見逃しやすい失神の原因:交代性脚ブロックと二枝/三枝ブロック

ガイドラインには記載がありますが、

意外と認知度が低い心原性失神の原因について共有したいと思います。

 

もしかしたら、ERでは「異常なし」として見逃されているかも⁉

 

ガイドラインを見てみましょう。

 

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、
以下の場合はclass 1でのペースメーカー適応があると記載があります。
(他にもたくさん紹介されているので一度チェックしてみてください)
 
交代性脚ブロックを認める場合
慢性の2枝または3枝ブロックがあり、投与不可欠な薬剤の使用が房室ブロックを誘発する可能性の高い場合
慢性の2枝または3枝ブロックとWenckebach型2度房室ブロックを認め、失神発作の原因として高度の房室ブロック発現が疑われる場合
 
ここに記載されている交代性脚ブロックや2枝/3枝ブロックってなんでしょうか。
 
ピンと来ない場合には、一度本記事を読んでみてください。
心電図を見る視点がより鮮明になると思います。
 
 

定義と実際の波形

 

まず定義と波形から確認します。

 

二枝ブロック

 

二枝ブロック…右脚ブロック/左脚前枝ブロック/左脚後枝ブロックのうち、どれか2つがあると診断される

 

右脚ブロックはわかりやすいと思いますが、左脚前枝および後枝ブロックはあまりなじみがないこともあるかもしれません。

ちなみに、この観点からいくと左脚ブロックは二枝ブロックと考えられます。

 

二枝ブロックの実際の波形を紹介します(UpToDateより引用)。

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 これは右脚ブロック+左脚前枝ブロックです。

 

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これは右脚ブロック+左脚後枝ブロックです。

こちらは、上記左脚ブロックに比較して著しく頻度は落ちるため、そこまで覚えなくてもよいと思います。

 

こんなん覚えられん…と絶望的になりますが、

ERでは、「右脚ブロックに軸偏位を合併することはない」

と簡単に覚えておけばいいです。

失神で来た患者さんの右脚ブロックにヤマを張っておいて、

もし軸偏位を合併していたら教科書と照らし合わせて、左脚○○ブロックがある!

というように診断できれば十分です。

 

右脚ブロックに加えて、

・左軸偏位 → 左脚前枝ブロック

・右軸偏位 → 左脚後枝ブロック

と簡単にふんわり覚えておくことをオススメします。

 

三枝ブロック

 
三枝ブロック…通常は、1度房室ブロックを伴う二枝ブロック
 

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BMJ Case Rep . 2015 Mar 27;2015:bcr2014209180.)

 

上記の復習になりますが、
まず右脚ブロックを探しに行きます。
右脚ブロックがあるときには軸偏位があるのはおかしい!の法則から、
しっかり軸偏位を見てみます→左軸偏位がありそうです。
ってことは、左脚前枝ブロック合併が疑われます。
 
ということで、波形は右脚ブロック+左脚前枝ブロックがあることがわかりました。
 
これにさらにPR時間延長があれば、三枝ブロックの完成です。
…ありますね。めっちゃ延びています。
 
これが三枝ブロックです。
 
 
もう1つ見てみましょう。

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一見、なんの変哲もない心電図に見えませんか?
でも、これも三枝ブロックです。
右脚ブロック+左脚前枝ブロック+1度房室ブロックがあります。
 
ちょっとER診療で見逃していそうではないですか?
 
 

交代性脚ブロック

 
さらにもう一つ、覚えなければならないことがあります。
 
・左脚ブロックと右脚ブロックが交互に現れるブロックも三枝ブロックの一種とされている
 
これを交代性脚ブロックと言い、
完全房室ブロックの前兆所見とされています。
 

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(Circulation . 2018 Mar 13;137(11):1192-1194.)
 
眠気Maxのときに見ると、
「なんかVPCがちょいちょい出てるな~」的な感想しか持てないかもしれません。
 
でも、これが交代性脚ブロックの所見です。
V1誘導が見やすいかもしれません。
右脚ブロック型波形と、VPCと見まがうような左脚ブロック型波形が混在しています。
 
これが完全房室ブロック目前の所見で、リスキーな所見になります。
 
 

マネジメント

二枝/三枝ブロックはたまたま見つけただけであれば、

それほど慌てることはありません。
 
基本的には、失神を起こしたのでなければそれ以上の治療的介入は要しません。
 
無症候性の二枝ブロックや三枝ブロックが完全房室ブロックに進行することはまれです。
 
平均42ヶ月間追跡調査された554人を対象とした研究では、完全房室ブロックに至ったのは1%/年程度であったと報告されています。
 
一方で、失神または前失神などのエピソードがある場合には要注意です。
症候性高度房室ブロックに発展する可能性が高いとされていますので、
その場で循環器内科コンサルトしておいた方が良いと思います。
 
二枝ブロックの患者249人を対象とした研究では、中央値4.5年のフォローアップで57人が高度房室ブロックとなりペースメーカー植込みを要したと報告されています。
その中で、失神や前失神があったことは、二枝ブロックがペースメーカーを要する高度房室ブロックへの進展することの独立した予測因子となっていました。
 
二枝ブロックがある患者が、
説明のつかない原因不明の失神を起こした場合には
ペースメーカー適応です。
Eur Heart J . 2018 Jun 1;39(21):1883-1948./Heart Rhythm . 2017 Aug;14(8):e155-e217.)
 
 
交代性脚ブロックは、
それ自体が完全房室ブロック目前の徴候ですのですぐにコンサルトしておきましょう。
ガイドラインでもclass I の推奨があります。
 

まとめ

・交代性脚ブロック、症候性二枝ブロック/三枝ブロックはペースメーカー適応がある

・交代性脚ブロックは、右脚ブロック型波形と左脚ブロック型波形が交互に出ることが特徴

・二枝ブロックの探し方は、まず右脚ブロックを探すこと。それに軸偏位があるときには、左脚前枝または左脚後枝ブロックが合併しているのではないかと疑う

・二枝ブロックに1度房室ブロックが合併していれば、三枝ブロック