りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

review:救急医療を行う研修医に送りたい10戒

※リライト記事
 
これから救急研修に入る研修医や医療従事者に送りたい10戒を記載します。
上級医の先生は概ねご存知で遵守できていると思いますが、ハッとすることもあるかもしれません。
 
 
Evans CS, Slovis C. Revisiting the Ten Commandments of Emergency Medicine: A Resident's Perspective.
Ann Emerg Med. 2021 Mar;77(3):367-370.
PMID: 33618812.
 
以下の10戒が掲載されていました。
なるほどと感じる項目ばかりで、研修医にも指導している内容とかぶります。
 
 
 
以下、詳述します。
 
 

ABCを安定化させよ、ただしその判断は慎重に

 
・全ての患者に迅速かつ徹底的なABCの評価を行うことは常に必須事項である
・現代では、ABCを確保する方法は救急医学のartとskillを組み合わせたものになっている
・ABCの中で対処すべき要素を特定したら、どれくらいの速さで積極的に介入を開始すべきか、そのような介入をどの順番で行うべきか、初期診断の印象が間違っていた場合の潜在的な有害性についても決定する必要がある
・患者の気道が確保されているかどうかは、常に二項対立的な判断であったり一定の基準があるわけではなく、経時的に変化するものである
・RSIはリスクがないわけではないし、まずは酸素化や血行動態を安定化させてから(20-30分ほど)にしたほうがよいかなどについて決定しなければならない
・輸液蘇生の過不足による潜在的有害性についての理解が深まっており、蘇生に必要な輸液の量と投与時間には特に注意を要する
・ショックであっても不整脈がありcardioversion可能であれば早期の除細動が優先される
・出血の場合には早期の出血コントロールが優先される
・上記のように特定の臨床シナリオにおいてABCに取り組む順序を考える必要がある

 

呼吸不全の患者にはPOCUSを行い気胸が疑われれば、たとえSpO2低下が著明であってもベッドサイドでの胸腔ドレナージを気道確保よりも優先させるでしょう。
 
3つの「て」(低血圧/低酸素血症/低pH)は挿管後に心停止に至る可能性が高い病態として知られています。これらを可能な範囲で補正してから挿管に臨みたいですが、場面によってはそんなのを待てないこともあり、ここがartの分野なんでしょう。
 
救命センターのような大病院には無縁な話ですが、特に前任の中小病院では、RSIだ!と思っても、夜間は薬剤師がおらず、筋弛緩薬を使用できるようになるまでにはタイムラグがありました。
なのであえて時間との兼ね合いからRSIを選択せず他の方法に頼ることもよくありました。
 
敗血症性ショックなどの超急性期には輸液の必要性は高いですが、せいぜい30ml/kg投与したら(もしくはしつつ)輸液反応性を評価して次の一手を考えます。
輸液とともに早期にカテコールアミン投与を行うことで、stressed volumeを増やせるようにもします。
もともと健康な成人であればまだしも、心不全や腎不全がある患者では投与速度にも注意を払わなければなりません。
出血性ショックでは輸液をギリギリまで制限して(橈骨動脈が触れるくらい…permissive hypotension戦略)、輸血+止血処置を急ぎます。ここでも挿管の順序をいつにするか迷うことがありますね。
 
 

Naloxone, Glucose, Thiamineを忘れるべからず

 
・意識状態が変化した全ての患者において、naloxone投与をし、迅速に簡易血糖測定を行い、thiamine投与をすることが最優先事項である
・容易に意識状態の変化を改善させられる原因について介入しつつ、他の原因を検索する時間を稼ぐのに有用である
・悪性腫瘍による悪液質/胃バイパス術後患者を含む吸収不良状態/妊娠悪阻/摂食障害などの患者においてもthiamine 100mg静注は重要

 

片田舎の弘前ではあまり麻薬中毒は遭遇しませんでした。
浜松市でもそこまで麻薬中毒には遭遇しませんけど。
 
意識障害ではまず低血糖の除外から!
これは研修医になれば上級医から何度も指導されることでしょう。
頭部CTを急ぎたくなる気持ちをグッと堪えて、まずは低血糖の除外から行きましょう。
 
ついでに必要な患者にthiamine投与までできれば完璧です。
弘前はお酒がおいしいのかアルコール使用障害患者が他地域よりも多い気がします。
こんな人にも盲目的にビタミンB1投与を考えることは不利益になることはないと思います。
可能であれば糖含有輸液を入れる前にビタミンB1補充をしましょう。
 
 

妊娠反応検査を行え

 
・出産可能年齢の女性には妊娠反応検査を行えという金言は現代でも当てはまる
・生殖技術の進歩に伴い、妊娠検査を受けるべき年齢の上限が拡大した
 ◦特に40歳代中盤以降でも過去に不妊治療を受けたことがある場合には注意
・リソースが限られていたり、画像検査の遅延が予想される環境では、腹部超音波を組み合わせて妊娠関連緊急疾患の評価を行うことが推奨される
・妊娠反応検査の結果が出るより前にFASTをやってしまえ 
 
妊娠可能年齢をネットで見てみると、下は5歳から上は60-70歳代までいるようです。
なので子宮を持つ、全ての女性にいつも妊娠の可能性を考えておく必要があります。
 
よく教科書に載っている「妊娠している可能性はありますか?」はあまり効果がありません。
これまでに遭遇した異所性妊娠の患者の多くは妊娠を初期に否定していました。
怖いこわい。
 
後述していますが、妊娠しているかどうか判断するのは他覚的所見に頼りましょう。
患者の自己申告は無視です。妊娠しているか決めるのはアナタです。
 
 

最悪を想定して動け

 
・救急医の主な役割の1つとして、生命直結性の高い疾患や四肢の機能/視力に関与する疾患を除外していくことがある
・救急医の仕事は正しい診断をつけることではなく、上記のような疾患を除外すること(見逃さないこと)が重要である
・入院医療や外来医療がますます細分化されていく中で、救急医療は致命的な疾患に対する評価を開始するのに最も適した立場におり、他科が「患者が入院したら」生命を脅かす診断の幅広い鑑別を検討するとは思わないことが肝要
・同様に、生命を脅かす診断の可能性が低いと考えてはいるが患者が予想されたように介入に反応しない場合は、さらなる評価が必要な診断漏れの可能性を再検討する機会となるため再受診を歓迎すべし

 

Worst is first.の精神を忘れてはいけません。
 
この項目は特に重要だと思います。
救急の初期対応段階では確定診断が付かないことが多々あると思います(少なくとも私のような臨床家では…)。
そのようなGreyな状況の中でも、アブナイ疾患を除外できていることが重要です。
今回の診療では今すぐに対応しなければならないような悪い病気は見つかりませんでした、と言えることが大切です。
逆にそうでなければ帰してはいけません。
 
以下のような見逃しはあるあるです。
片頭痛?→SAH
・側腹部痛で尿管結石?→大動脈瘤破裂
・偽痛風?→化膿性関節炎
 
この項目でさらに共感的であったのが、「更なる評価が必要な診断漏れの可能性を再検討する機会となるため再受診を歓迎すべし」のところです。
これも大事な考え方だと思います。
「ま~たきたよ、チェッ」なんて言っているといつか痛い目に合うかも⁉
患者さんが再来しやすい環境を作るのも私たちの役目です。
2回目の受診はさらに疑いの目を強くしましょう。
 

不安定な患者をCTに連れて行くな

 
・不安定な患者はERから移動させないこと
・可能であればポータブル単純レントゲンやPOCUSなどで対応する
・診断にCTが必須であることもあるので、その場合には単独で行かせず必ず付き添う

 

むか~しむかし、研修医がうんこショックの人(ショックになると、もしくは重篤な病気だったりするとうんこに行きたいと騒ぐことがよくあります)をトイレに行かせてCPA、トイレでうんこまみれになりながら蘇生をしたなんてこともあります。
頭痛の人を歩いてトイレに行かせて実はその人がくも膜下出血で…(以下略)
 
とにかく不安定、もしくは評価が十分でない患者はERから移動させないことはとても重要です。
えてして患者さんは救急搬入直後にトイレに行きたいということが多いですが、サービスと思って行かせないことです。結構危ないです。
 
話はずれましたが、CTも「死のトンネル」なんて言われてますので要注意です。
 
 

red flagを探せ

 
・緊急疾患を示唆するred flagを認識しておくこと
・バイタルサインの異常に注意すること
 ◦バイタルサインに異常がある患者を帰宅させないこと
・ER受診患者が高齢化しているため特に背中/側腹部/腹部などの疼痛を訴える患者では大動脈病変を積極的に評価すること
・酔っぱらいのように見えても、バイタルサインの異常がある/低血糖がある/薬物的鎮静を要する場合にはそれ以外に疾患が隠れている可能性についても考えること
・最後に、以下の3つのうち1つでもNOであれば一息おいてred flagがあるのではないかと考えること
 ◦以前にもこのような症状がありましたか?
 ◦十分な経口摂取が出来ますか?
 ◦歩行可能か、または普段通りのADLになりましたか?
 

 

まずはバイタルサインが最も重要な入口です。
 
呼吸回数、ちゃんと測定していますか?
慣れるまでは患者さんのおなかに手を置いて30-60秒間しっかり測定する癖をつけましょう。
血液ガスを採取したあと止血するついでにとかでもいいです。
モニターに表示されている呼吸数を信じ切るのはNGです。
精度的な問題と、モニターがないところで頻呼吸を察知する能力が育たないからです。
 
慣れてくれば数秒~10秒程度みただけである程度呼吸が速いか遅いかわかってくると思います。
初期研修医の最初の頃は呼吸回数30回の患者も、呼吸は別にはやくなさそうだな~なんて思っていました。
 
それぞれの主訴ごとにred flagを覚えておくことが重要です。
慣れないうちは、電子カルテに聞くことや確かめることリストを載せておいてもいいと思います。
 
酔っぱらいにはいつも細心の注意を払います。
意識が悪いのはほんとに酒のせいだけでしょうか、低血糖電解質異常、変な酸塩基平衡異常、頭蓋内病変などないでしょうか。
地面で寝ていて救急要請された急性アルコール中毒疑いでも、近くに階段があれば…もしかしたら足を滑らせて転倒して頭を打っているかもしれません。
「めんどくせぇ」とか言って端っこの目の届かないところに置いておくと数時間後に詰めたくなっているかも…。
急性アルコール中毒で外傷を合併していることは結構多いです。
急性硬膜下血腫、頸髄損傷、視神経管損傷で失明、肝損傷などなど。たくさん経験があります。
 
帰宅させる際にはバイタルサインが安定していること、red flagがないことなどと同等に大事なのが、帰宅させてそこで元の生活が可能かどうかです。
嘔吐して食べられないのに無理矢理帰宅させてませんか?
水分摂取もできなければ脱水で帰ってきます。
重篤な疾患を見逃しているかもしれません。
小児だったらDKAとか心筋炎とか。。。
腰痛でほとんど歩くことが出来なくなってしまった独居じいさんを無理矢理帰してませんか?
さらに自宅で転倒を繰り返して外傷性頭蓋内出血、近所の人に見つけられたときにはだいぶ時間が経っていたなんてなるとだいぶ夢見が悪いです。
 
 

誰も信用せず、何も信用するな

 
・初期段階では不完全または不正確な情報の中で対応しなければならないことが多い
・他の施設からの紹介や救急隊の話など、病院外でとられた記録については盲目的に信用しないよう注意する
・可能な場合には患者や家族から適切な病歴を確認し、創でない場合には電子カルテから病歴が一貫していることを確認すること
・患者の話は時間とともに変化する、またはケア中に全ての情報を提供したくない場合もあるため、常に全ての情報を聞くことができるとは考えないこと

 

これもほんとその通りです!
 
人が得た情報はまったく何も信用しないようにしています。
それに診断や判断が引っ張られて落とし穴に落ちることをよく経験するからです。
なので他院からの紹介状や救急隊からの申し送りなどは盲信せず(スイマセン!もちろんこれらに助けられることもたくさんあります!)、自分で確かめた情報のみを評価基準に使うようにしています。
紹介状で見ておく部分は既往歴と内服薬くらいです。
内容は自分で聴取して病歴を作り上げてください。
聞いているうちに患者さんも頭の中が整理されてきて、そういえば…と重大なことをぽろっと話してくれることがあります。
 
研修医と上級医が聴取した病歴が全然違う!なんてことはよくありますよね。
患者も話しているうちに情報がまとまってきて有用な情報をいうこともあります。
逆に年や性別が近い研修医には話してくれたりして(逆もまたしかり)なんてこともあります。
 
そして、「妊娠は絶対していない」という自己申告に何度騙されそうになったことか…。
これは他覚的に確かめなくてはなりません。
「あー、そうなんですね」と言いつつ、しれっと妊反を検査することで自分と患者を守れます。
 
 

自己の過ちから学べ

 
・救急医としてのトレーニングの如何なる段階においてもミスすることはよくある
・エラーを減らし、安全性を向上させるためには、その重大さに関係なく、ミスから学ぶ姿勢をとらなければならない
・特に重大な結果を招いた場合には、信頼できる同僚やメンターを事前に特定して報告し、建設的にエラーを処理する必要がある

 

自分が見た症例は全てメモしておいて転帰を最後まで確認する習慣をつけると良いと思います。
初期診断と最終診断が異なることなんてごまんとあるし、どうやって治っていくのか、どうやって悪化していくのか、臨床コースを知っておくことも重要です。
こうやって悪くなってしまうことがあるんだとわかると、初期診療の段階でも伝えられることが増え、無駄な紛争を防げることがあります。
例えば、脳梗塞を入院させるときには治療にも関わらず神経所見が悪化する可能性なんかをERで伝えておかないと、病棟で悪化したときに印象が悪くなるでしょう。
 
そして、ミスをすることは誰にでもあると思います。
知識の欠如だけではなく、その日の疲れ具合やERの混雑具合、おなかが空いていたってことだって時としてミスにつながります。
それを後から振り返って、自分はどんな状況でミスしやすいか、施設としてミスを防げるようにシステムとして変われるところはないか検討するとよいでしょう。
 
自分のミスのパターンを認識しておけば、ミスしやすい状況に陥ったときに慢心せず他覚的所見を増やすように再度病歴と身体所見を取りなおしたり、検査を追加するなどの対策がとれます。
 
あと、自分のしたミスを共有してくれる上級医は大切にしましょう。
個人的にはうまく診断できたことより、こんな見逃しをしてしまったという経験を後輩と共有するようにしています。
ミスの数ならミス日本を名乗れるくらいミスってます。
医者を何年もやっていると、どんな優秀な人でも誰にも言いたくないスネの傷があるものです。
失敗から学べることは多いので、同僚とも積極的にミスを共有しましょう。
 

自分の家族にやるように患者にも対応せよ

 
・ERでは自分の家族にどのようなケアをするか考えながら全ての患者の対応に当たること
・ERに搬入される全ての患者対応に誇りをもって対応すべきだがそれはかなり難しい
・対応困難な患者と遭遇した場合にはより多くの評価を行い、常に共感を実践すること

 

自分だったら、自分の家族だったらどうやって対応してもらえたら嬉しいか、そこはサービス精神をもって対応する部分かなと思います。
正論をもって追い返すことも可能ですが、必要に応じて患者の希望も聞きながら対応するってのも患者満足度が上がり、患者との関係を作るのに良いと思うことはしばしばあります。
そして困ったちゃん対応がなかなかむずかしい。
できた人ならいいのでしょうが、私は常にできているとは思えません。
困ったちゃんな患者こそ、「徳を積ませていただいている」「救急の神様がおりてきている」と考えて対応しなさいと教わりましたが、う~ん、まだ難しいです。
夜中にやってくる急性アルコール中毒ににっこり対応できれば一人前なんて聞きますが…。
日々修行ですね。。。
とりあえず陰性感情が自分を支配するようになったら、鏡の前でにっこり、無理矢理口角を上げてみましょう。
 
 

不確実性がある場合には常に患者の側に立つこと

 
・救急医療の守備範囲は非常に広く、不確実な事象の管理が救急医療における意思決定の中心となる
・救急医療の実践には必要な情報が非常に多く、外来フォローアップなども選択肢が限られたりなど、システム的にも患者の対応が難しくなっている
・その中でも、我々は常に患者にとって最善の方法を提案しなければならない
・たとえ問題を完全に解決できなくとも、苦痛を軽減するためにできることを常に行うこと
・不確実性に直面したときには、常にそのことを患者に伝えて考え、患者が悪化した場合にはどのくらいERに戻ってこられる可能性があるのか自問すること

 

ERを受診する患者の大半は、痛い/苦しいなど何らかの苦痛を抱えてそれを取り除いてほしいと思って受診します。
私たちの、診断を付けたい、という考えとは裏腹に。
 
よくみるのが側腹部の激痛を訴える患者に対してゆっくり検査をして忙しい合間に結果をみて、確定診断:尿管結石をつけて、それから鎮痛に入る、なんてシーンがまだ見かけられますが、これは良くないです。
なるはやで鎮痛をしちゃってから考えましょう。
患者の立場に立って診療ですね。
 
そして、フォローできない患者は帰さないのも大事なことです。
ちゃんとフォローアップできるのであれば外来治療でよいけど、もう二度と来ないだろうな…という患者には入院を勧めたり暫定的にER受診をしてもらって専門医に紹介する機会をうかがうか、こちらから受診のための電話掛けをするなどの工夫が必要です。
喘息急性増悪などは良くなったらはい帰宅、で大多数は良いのですが、適切な内科フォローを受けられないだろうなと話していて感じる人には入院を勧めたりします。
 
 
最後にもう一度、10戒をまとめておきます。
 
➀ABCを安定化させよ、ただしその判断は慎重に
②Naloxone, Glucose, Thiamineを忘れるべからず
③妊娠反応検査を行え
④Worstを想定して動け
⑤不安定な患者をCTに連れて行くな
⑥red flagを探せ
⑦誰も信用せず、何も信用するな
⑧自己の過ちから学べ
⑨自分の家族にやるように患者にも対応せよ
⑩不確実性がある場合には常に患者の側に立つこと
 
 
研修のはじめに読んで、
研修に慣れてきたときに読むとさらに深みが増します。