りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

review:高カリウム血症のマネジメント

特に緊急度が高い電解質異常であり、

かつ日常的に遭遇頻度の高いカリウム血症のマネジメントについて

まとめてみます。

 

具体的にどう動けばよいかスッキリすると思います。

 

 

カリウム血症の治療原則

教科書を紐解くと、高カリウム血症の治療については似たような方法論が並んでいますが、実はエビデンスに基づく確固たる治療戦略は存在していません。
 
カリウム血症の治療は主に小規模な研究に基づいており、緊急治療を行なうべきカリウム値を示すエビデンスさえもありません。
 
ただし、一般的にはK>6mmol/Lや心電図変化がある場合には治療開始の基準とされています。本reviewもそれに則って進めていこうと思います。
 
当直をしていると、または施設を移ると高カリウム血症の治療方針や使用する薬剤が全く異なることを経験すると思います。
 
それもそのはず。
どの薬剤を選択するかについても治療する医師や地域の方針に左右されることが多いことが知られています。
米国の14のERで203人の高カリウム血症患者を対象にしたPeacockらによる2018年の研究では、43通りの治療方法が使われていることが明らかになっています。
その中でも有名なGI療法は64%に試された最多の方法で、β-agonist, 炭酸水素ナトリウム, 透析などが組み合わせられていました。
多くのバリエーションがあり、「コレ」という定まった治療戦略がないことは覚えておくと戸惑いが少ないと思います(ある程度の定まったベクトルはありますが)。
 
なんやかんやでERではそれなりの頻度で高カリウム血症に遭遇します。
Singerらのretrospective studyによれば、ERにおけるカリウム正常化戦略が死亡率を50%減ずることが示されており、ERにおける治療の重要性は高いと考えられます。
適切にマネジメントできるようにしておいて患者を失うことがないようにしたいものです。
 
治療方針は大きく3つに分けられます。
➀致死的不整脈を予防するための心膜電位の安定化
②細胞外から細胞内へのカリウムの移行
カリウムの排泄

 

以下、それぞれについて解説を加えていきます。

 

心電図変化がある場合

カルシウム(塩化カルシウム/グルコン酸カルシウム)

これはびっくりなんですが、カリウム血症の治療にカルシウム塩を投与することの有益性を示した研究はないらしいです。。。でもいまさらこれを投与しない試験なんて非倫理的でできません。
 
基本的には、心膜安定化のために広く推奨されている治療法であり、緊急避難になるためしっかり用法用量についても暗記しておきたいところです。
 
カルシウムは心膜を安定化させ、高カリウム血症による不整脈のリスクを軽減する効果があるとされています。
ご存知の通り、カリウム値を低下させる効果はないことには注意が必要です。
あくまで心電図変化(テント状T波など)がある場合に投与され、不整脈を防ぐ目的になるためカリウムを下げる治療は(カルシウムの薬効があるうちに)別に行わなければなりません。
 
 
心電図変化について簡単にまとめておきます。
 
・高カリウム血症だからと言って心電図変化が必ず出現するわけではない
 ◦テント状T波はたった32%の症例にしか見られなかった
 ◦その他の心電図変化を合わせてもせいぜい52%の症例にしか心電図変化が現れなかったという報告がある
・別のretrospective reviewでは、カリウム値が6.0-6.8mEq/Lでは心電図変化を認めたのはたった43%、6.8mEq/L以上でも55%にとどまったとされている
カリウム血症の程度と心電図変化は相関しない
 ◦血清カリウム値が高ければ高いほど心電図変化が出やすいというわけでもない
初回心電図では以下の所見がみられたとの報告もある
 ◦テント状T波…34.5%
 ◦非特異的ST変化…33.3%
 ◦STE…4.2%
 ◦1度房室ブロック…16.7%
 ◦心室内伝導障害(bizarre appearance)…11.3%
 ◦脚ブロック…6.0%
 ◦徐脈…4.2%
 ◦洞停止…1.8%
 
カリウム血症が判明した場合には必ず迅速に心電図検査を行うべきですが、必ずしも心電図変化があるわけではなく、また高カリウム血症の程度と心電図変化の重症度は相関しません。
 
典型的には以下のような心電図変化を伴います。

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テント状T波

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P波の消失、QRS延長

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sine wave
 
 
さて、話を戻して…
上記のような心電図変化がある場合には、塩化カルシウムまたはグルコン酸カルシウムの投与が推奨されています。
 
施設によって採用されている薬剤が異なると思いますが、当院ではグルコン酸カルシウム(カルチコール)が採用されています。
 
どっちがいいか論争はありますが、どっちでもいいです。
とりあえず可及的速やかに投与することが重要です。
一応以下のような違いがあります。
 
塩化カルシウム vs グルコン酸カルシウム
 ◦塩化カルシウムはグルコン酸カルシウムに比して、3倍のバイオアベイラビリティ
  ‣塩化カルシウムはカルシウム含有量が多いが、血管外漏出した場合に組織壊死するリスクが高い
 ◦グルコン酸カルシウムは組織障害のリスクが少なく、急速静注が可能である
 
投与直後から作用発現することが知られており、効果は30-60分間持続します。
心電図に変化が起きなかったり、初期投与による改善後に異常が再燃した場合には5分後に再投与可能となっています。

このカルシウム塩の効果が出ているうちに以下で解説するカリウムを低下させる戦略を急がなければなりません。

 

高カルシウム血症合併やジギタリス製剤を内服している場合

高カルシウム血症ジゴキシン過量投与がされている際には、一般的にはカルシウム塩の投与は推奨されていません。
 
まあ別にいんじゃね?という研究結果もあります。
2011年のLevineらによる研究では、ジゴキシン中毒と診断された123人の患者のうち、カルシウム投与を受けた23人の患者を解析しています。
‣投与後1時間以内に生命を脅かすような不整脈は発生せず
‣死亡率はカルシウム静注を受けた患者と受けなかった患者とで同程度であった
 
上記のような研究もありますが、ジギタリス内服中にカルシウムを投与すると心毒性が強まり不整脈を誘発することがあることが指摘されており、コンセンサスが得られていない分野と考えられます。
 
どうしてもカルシウム塩を投与したい場合には、20-30分ほどかけて緩徐に投与することも許容されるとは思いますが、少し危ない橋を渡ることになるかもしれません。
 
別の方法を紹介しておきます。
「高張食塩水」の投与が膜安定化をもたらすとも報告されています。
高張食塩水の投与は、心筋細胞による活動電位の立ち上がり速度を増加させることで心膜電位の安定化剤として作用します。
 
 
以下のように高張食塩水を投与することが提案されています。
‣20%NaCl10-20ml5分間で投与(10%NaClを倍量投与でよいかも)
‣8.4%炭酸水素ナトリウム100ml投与(メイロンは6%生食!)
 
より詳しくは以下を参照してください。

appleqq.hatenablog.com

 

細胞外から細胞内へカリウムをシフトさせる

上記カルシウム塩投与により心膜安定化が達成されたのちに、血清カリウム値を下げる治療を行います。
 
特に、インスリンやβ-agonistsはNa-K ATPaseを活性化し、血清カリウムを細胞内へシフトさせる働きがあり、これらはエビデンスの確立された治療として知られています。
 

GI療法(グルコース+インスリン

インスリンは血糖降下作用とは無関係にNa-K-ATPポンプに作用して血清カリウムを低下させます。
 
以下のような研究がされてきました。
 
・Allonらはインスリン10単位+グルコース25g bolus投与により、
 ◦15分後に血清カリウム値が0.6-1.0mmol/L低下
 ◦30-60分後に最大効果が得られ、4-6時間持続する
 
・HarelとKamelは、SRにおいてインスリン10単位と20単位ではカリウム値の低下に差はなかったが、20単位投与では低血糖発症率が高かったことを報告している(そりゃそうだろ)
 
・McNicholasらは慢性腎臓病を対象としてretrospective studyで10単位 vs 5単位を比較
 ◦カリウム低下には有意差なし
 ◦5単位投与群では低血糖が少なかった
 
 
インスリン投与量を変化させてもあまりカリウム低下作用には影響がなく、投与量を減らせば減らすほど低血糖リスクが減るようです。特に腎不全ではインスリンを加減したほうがよさそうです。
 
ここで、低血糖リスクについてはしっかり知っておきたいところです。
おそらくどの施設でも頻繁に発生しているものと思われますが、たぶん過小評価されています。
 
インスリンによる低血糖は、投与後1-3時間してから遅れて出現することがあり、最大7.5時間ほど低血糖が持続することが報告されています。
そのため、可能であればインスリン投与後4-6時間ほど経過するまでは1時間に1回の血糖チェックはしておいた方が無難と考えます。
 
ちゃんと血糖チェック、してますか?
思わぬ合併症で患者さんを失うことがないようにしたいものです。
 
 
上記低血糖リスクを避けるためのGI療法のレジメンとして以下が提案されています。
 
血糖値<150mg/dLまたは以下のうち2つがある場合にはGI療法による低血糖リスクあり
①AKI/CKD ②糖尿病既往なし ③体重≺60kg ④女性
↓ 上記を満たす場合には以下の3つの治療のうち1つを選択する
インスリン5単位+ブドウ糖25-50g
インスリン0.1単位/kg(max10単位)+ブドウ糖25-50g
インスリン10単位+ブドウ糖≧50g
血糖値≧250mg/dLの場合にはブドウ糖の投与は不要
ブドウ糖投与については静注でも持続投与を併用して行ってもよい
 例)50%ブドウ糖液50ml静注に引き続き10%ブドウ糖62.5ml/hrで4時間投与
低血糖発症は通常2-4時間程度だが最大7.5時間まで観察される
 →インスリン投与後4-6時間は1時間に1回の血糖測定をした方がよい
 
 
これについてもより詳しくは以下の記事を参照してください。

appleqq.hatenablog.com

 

β-agonist吸入

これもインスリンと機序は同じです。
Na-K-ATPポンプを刺激することにより、カリウムが細胞内に輸送されます。
 
投与後30-60分で作用はピークに達し、その効果は約2時間持続します。
 
 
β-agonist吸入についても研究を少しつまんでみます。
 
・Mahoneyらによる2005年に高カリウム血症に対する緊急介入に関するCochrane review
 ◦小規模な研究ベースだが、β-agonist吸入は静脈内投与と同等の効果があると報告
  ‣60分で約1mmol/Lのカリウム低下効果
 
・Allonらは、β-agonist吸入は10mgよりも20mgが効果的であると報告
 
カリウム低下のピーク時間にもsalbutamol使用量が影響している
 ◦salbutamol 10mg吸入…カリウム減少のピークは120分後
 ◦20mgに増量することでピークは90分後になる
 
副作用として頻脈/振戦/不安/動悸などが報告されています。
特に、心疾患がある患者への投与は注意を要します。
 
大体高カリウム血症を呈する患者さんは心臓も悪かったりするので、特に体の小さな高齢者であったりする場合にはsalbutamolは10mgで十分かもしれません。
 
なお、β-agonistを単独で使用すべきではないという意見もあるようですが、これは透析患者で報告されているβ-agonist耐性を基にした意見であるため注意します。
血液透析患者を対象とした2つの研究では、40%の患者がsalbutamolへの治療抵抗性を示したと報告
 

インスリンとβ-agonistの相乗効果

Allonnらによれば、β-agonist 20mgとインスリン10単位+グルコース50gを併用することで、60分後の血清カリウム値が1.2mmol/L減少することが報告されました。
これはそれぞれ単独投与するのに比較して有意にカリウム値を減少させました。
さらに、β-agonist投与により低血糖リスクも軽減できることがわかりました。
 
上記研究をもとに、KDIGOからの声明でもインスリンとβ-agonistの併用は相乗効果があると言及されています。
 
GI療法とβ-agonist吸入は併用可能であり、特に相補的であることから国際的な推奨があることを覚えておきましょう。
使うときはなるべく併用したほうが良いです。

 

炭酸水素ナトリウム

このへんからはあまり積極的に使うテンションが湧いてきません。

状況によってはいいかも!くらいのノリです。

 

少なくとも炭酸水素ナトリウムは高カリウム血症治療におけるルーチン使用はエビデンスがありません。
一応、上記2種類の方法と同様にカリウムを細胞内にシフトさせる働きがありませす。(細胞内からのH+流出を促進しKを細胞内に押し込める作用がある)
 
8.4%炭酸水素ナトリウム50mlを5-15分間かけて投与します。
せいぜい0.4mEq/Lの血清カリウム値低下がみられる程度だと報告されていますが、全く効果がないと報告する研究もあり、矛盾したデータが散見される分野です。
 
 
恩恵を受ける可能性がある患者群は以下だと思います。
‣循環血液量減少
代謝性アシドーシス
 
特にうっ血性心不全の患者では体液過剰による二次的な急性肺水腫発症の危険性がある
ため禁忌肢になります。
 

カリウムを体外へ排出する

透析

GI療法やβ-agonist吸入など第一選択薬使用後の難治性高カリウム血症、またはカルシウム塩投与後の難治性心電図変化を伴う高カリウム血症では緊急透析を考えるべし!
 
特にカリウム血症に急性腎不全が合併している場合には検討する価値が高い患者群です。
 
透析開始には時間がかかるため、基本的にはsecondline therapyに分類されており、ERにおける優先順位は心膜の安定化→細胞内シフトなどに引き続いて考慮されます。
 
透析後2時間で多くのカリウムが体外に排泄されるため最も有効性の高い治療法です。
一方で、透析は細胞外にあるカリウムを排泄する作用しか持たないため、細胞内に貯留されているカリウムにはほとんど影響を及ぼさず、結果的に6時間以内に血清カリウム値は透析前値の70%に戻ってしまうこともあると報告されています。
 
難治性高カリウム血症、難治性心電図異常、腎不全では必ず適応を考えます。
 

腎排泄

ループ利尿薬は尿産生能力のある患者に対しては限定的に有効とされています。
 
使い方は様々な流儀があると思います。
・普段飲んでる量の2倍量を静注、その後その投与量を1日で持続静注
・1-2A静注→効果がなければ倍々投与など
 
ループ利尿薬はよく使用されている薬剤とは思いますが、その一方でカリウムの腎排泄に及ぼす影響に関するデータはあまりありません。
特に心不全を合併した高カリウム血症に用いられるくらいにしておくとよいです。
 

消化管排泄

イオン交換樹脂は、ナトリウムを消化管に含まれるカリウムと交換することにより作用を発揮します。
 
でも、基本的には慢性高カリウム血症に対する治療であり、急性高カリウム血症では出番がありません(救急外来で投与することはまずありません)。
 
有名なポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、有効性が非常に不安定で、作用発現が遅く、予測も難しいことが知られています。
2015年のSRではカリウム減少は0.14mmol/Lであり、不適切な治療と報告されました。
さらにイオン交換樹脂使用による腸管壊死の発生が報告されており、特に慢性腎臓病患者や高齢者では重度の消化器系副作用リスクが高いことが知られています。
 
ということからも、ERにおける急性高カリウム血症のマネジメントにイオン交換樹脂を使用することは推奨されず、慢性高カリウム血症の管理にとどめておくべきです。
 
新規に発売されたpatiromerやsodium zirconium sylicosate (SZC)は臨床試験がされてきているそうです。
・Rafiqueらはpatiromerが2時間でカリウム値を低下させたが、6時間後には有意な低下がなかったと報告
・Peacockらは、GI療法に加えてSZC使用により、2時間後にはplaceboとの比較でカリウム低下が有意であったが、4時間後にはその差はなくなっていたという報告
 
う~ん、やっぱり現時点ではこれらの新しい治療法の費用対効果を支持するほどの研究はありませんので忘れてしまってもよいかも…。
 

まとめ

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・高カリウム血症は致命的な不整脈リスクがあり、緊急性が高い病態である
・高カリウム血症の治療についてはエビデンスが不足しており、施設内外でも患者毎にでも対応方法が異なる
・高カリウム血症の程度と心電図の重症度は相関せず、全く心電図変化のない高度な高カリウム血症も存在する
・心電図変化を認める高カリウム血症に対しては迅速にカルシウム塩静注を行うこと
・心電図変化あり+高カルシウム血症合併やジギタリス製剤を内服している場合にはカルシウム投与速度を緩徐にするか、高張食塩水投与が有効である可能性がある
カリウムの細胞内シフトにはインスリンやβ-agonistが有効性が高い
インスリン投与量は腎不全では5単位に減量したほうがよい
インスリン投与後の血糖値のモニタリングも併せて忘れずに行うこと。4-6時間は1時間に1回の血糖測定をしておいた方がよい
インスリンとsalbutamolの併用は相乗効果があり、低血糖発症リスクを減ずる
・治療への反応性は薬剤の作用発現時間から30-60分後に出現することを考慮して、1時間後にチェックすべし
・高カリウム血症+循環血液量減少または代謝性アシドーシスがある場合には炭酸水素ナトリウム投与も考慮される
・ループ利尿薬は尿産生能力のある患者(特に心不全合併)には用いられる
・イオン交換樹脂の使用は少なくとも救急外来では考えなくてよい
カリウムを細胞内へ移行させる薬剤の投与後3時間以内にカリウムのリバウンドが起こる可能性があるため、3時間後にも再検せよ
 

主な参考文献

➀Lemoine L, et al. An Evidence-Based Narrative Review of the Emergency Department Management of Acute Hyperkalemia.
J Emerg Med. 2021 May;60(5):599-606.
PMID: 33423833.

 

②Medford-Davis L, Rafique Z. Derangements of potassium.
Emerg Med Clin North Am. 2014 May;32(2):329-47.
PMID: 24766936.

 

③Clase CM, Carrero JJ, et al; Conference Participants. Potassium homeostasis and management of dyskalemia in kidney diseases: conclusions from a Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Controversies Conference.
Kidney Int. 2020 Jan;97(1):42-61.
PMID: 31706619.

 

④Moussavi K, et al. Management of Hyperkalemia With Insulin and Glucose: Pearls for the Emergency Clinician.
J Emerg Med. 2019 Jul;57(1):36-42.
PMID: 31084947.