今回の症例は、
心筋梗塞なのか早期再分極なのか?という疑問についての心電図クイズです。
病歴/身体所見
・40歳男性
・高血圧既往あり、喫煙者である
・2時間持続する重度の左胸痛のためER受診
検査
・受診時にECGが実施された
V1-5誘導にてST上昇あり、II/III/aVF誘導ではreciprocal changeあり
V4-5誘導でsmily face型のST上昇+QRS終末にnotchがあり早期再分極も疑われた
さて、STEMIとしての対応がよいのだろうか…
診断
早期再分極を持つ患者に発症した急性前壁梗塞
・aspirin, nitroglycerin, fentanyl, heparinが投与され、緊急CAGが実施された
・LAD近位部に90%狭窄を認め、ステント挿入された
・prasugrelとaspirinがこれまでに処方されていた薬剤に追加され、禁煙指導をされた後に退院となった
・ST上昇していてもそれが虚血を示していないことはよくある
◦早期再分極や心膜炎などが鑑別に挙がる
・早期再分極の特徴は以下
①胸部誘導(V2-6)+αで広範囲のSTE(四肢誘導のみはSTEMIを考える)
②下に凸のSTE±ノッチ
◦下に凸でも心筋梗塞の患者が43%いたという報告もあり
③STEの高さ…Ⅱ誘導>Ⅲ誘導
④ST/T比≺0.25
⑤T波の増高…非対称性の高いT波
⑥R波増高(V2-4でのR波増高平均が>10mm)
⑦reciprocal changeなし
⑧QT時間が短い
※一部の早期再分極にはJ波を伴うがなくてもよい
(J Emerg Med. 2006 Jul;31(1):69-77.)
・STEMIとの鑑別には、以下の4つを用いたスコアリングが有効(4-variable formula)
◦V2誘導のQRS高
◦QTc
◦V3誘導におけるJ点から60msec後のST高
◦V4誘導のR波高
(J Electrocardiol. Sep-Oct 2017;50(5):561-569./Ann Emerg Med. 2018 Jun;71(6):795-796.)
※本症例では17.70であり、STEMIを閾値には達しなかった
(早期再分極の可能性が示唆された)
・症状と検査前確率が高い場合にはスコアリングだけで判断することはしてはならない
ちょっと今回の症例については、イマイチな症例報告と思いました。
ぱっと見で、STEMIやんけ! と思います。
前胸部誘導にSTEがあって、下壁誘導にSTDがあるのでSTEMIとして対応することで間違いないでしょう。
有用性があるとすれば、
前胸部誘導にST上昇があったとき、それが早期再分極なのかSTEMIなのか判断するためのスコアリングが紹介されていることでしょうか。
このスコアリングは、MDCalcというアプリのお気に入りに入れていて頻用しています。
でも、こういったスコアリングを使うときは除外項目に気を付けなければなりません。
今回でいえば、reciprocal changeがあるためそもそもこのスコアリングは使えません。
詳しくは上記サイトを確認してみて下さい。
ちょっと練習問題です。
以下の心電図は早期再分極か、それともSTEMIか?
①
②
(J Emerg Med. 2006 Jul;31(1):69-77.)
①は早期再分極、②はSTEMIでした。
※②に関しては 4-variable formula value = 19.7で、LAD閉塞です
まとめ
・ST上昇を見た時はSTEMI以外にも心膜炎や早期再分極などが鑑別に挙がる
・前胸部誘導でSTEを見た時には、それが早期再分極なのかSTEMIなのか判断するためのスコアリングがあるが、reciprocal changeなどの除外項目に注意して使用する
Subtle Anterior STEMI Calculator (4-Variable) - MDCalc
・症状や既往歴などから検査前確率が高いときには、スコアリングだけで対応を決めてはならない