胆嚢炎や胆管炎は、色々な病気や病態のmimickerになることが知られています。
胆嚢炎や胆管炎で、虚血を疑う心電図変化が出ることを知っていますか?
黄疸があると、敗血症でも頻脈がマスクされてしまうことを知っていますか?
これらを知らないと、胆嚢炎や胆管炎なのに、
・循環器内科コンサルトして満足してしまう
→敗血症で状態悪化
・徐拍化していわゆる "ショックバイタル" にならない
→循環の破綻を見逃してこれまた状態悪化
な~んてことになってしまうかも⁉
胆嚢炎はSTEMI mimics
心窩部痛のためERを受診した患者を想定してください。
「心窩部痛」と聞けば、条件反射的に心電図は検査することと思います。
臍より上の不快感はすべてACSを疑うことからはじまります。
心電図をとってみると、以下のような所見がありました。
(Am J Emerg Med . 2018 Jul;36(7):1323.e1-1323.e6.)
微妙な所見があります。
特にV1-3誘導の陰性T波(二相性T波)は気になるところでしょうか。
さらに徐脈もあります。
読者の中には、二相性T波と聞くとWellens症候群じゃね⁉
なんて思う方もいるかもしれません。
実際には、Wellens症候群でみられる二相性T波や巨大な陰性T波は、疼痛間欠期にみられます。
なので、症例は有症状でありそれっぽくはないですが、急いでいるシーンであれば頭がACSよりに偏るかもしれません。
入院後、さらに心電図変化は激化します。
(Am J Emerg Med . 2018 Jul;36(7):1323.e1-1323.e6.)
新規発症の左脚ブロックが出現しました。
修正Sgarbossa基準は満たしませんが、虚血なんじゃないかとヒヤヒヤしますね。
…実はこれらは急性胆嚢炎で入院となった患者さんの心電図変化です。
入院から4日後に胆摘を実施してからCAGをしていますが、有意狭窄はありませんでした。8カ月後にはbaselineの心電図波形に戻ったそうです。
こういった複雑な変化の他にも、急性胆嚢炎はSTEMIのような心電図波形を呈することがあります。
さらに、三枝ブロックやBrugada症候群のような波形になることもあります。
振り回されないように注意が必要ですね。
胆管炎では徐脈になることがある
胆管炎、正確に言うと黄疸を呈している場合には徐脈になることがあります。
急性閉塞性胆管炎または悪性腫瘍などによる閉塞性黄疸とまで判断しても、
そこまで頻脈でもないし、あんまり感染/敗血症は伴っていないんじゃないかな~
重症じゃないんじゃないかな~
なんて思っているとやられることがあります。
なんでもビリルビンは構造的にジギタリスと類似しているようで、
それが洞房結節に働きかけて徐拍化を起こす原因になるそうな。
(S Afr Med J. 1983 Sep 28;64(14):548-51.)
徐脈だけではなくて、そのほかの不整脈の原因にもなります。
・ビリルビンは洞性徐脈/心房細動/房室ブロックなどの様々な不整脈を引き起こす
・重度の場合には心停止を起こす
胆管炎では黄疸の影響で徐脈になることがあると覚えておきましょう!
頻脈がマスクされてしまい、重症度を低く見積もってしまうことにつながるかもしれません。
まとめ
・急性胆嚢炎はSTEMI mimicker!STEMIのような波形になることがある
◦Wellens症候群、三枝ブロック、Brugada症候群のような波形になることもある
・胆管炎/閉塞性黄疸では徐脈になってしまい、頻脈がマスクされることがある