病歴/身体所見/検査所見
・71歳女性
・飲酒歴なし、喫煙歴なし
・1か月前に突然右季肋部痛を発症し受診
◦7カ月前のCTでは認めなかった右肝嚢胞破裂の所見が出現
→入院となった
a:7カ月前の腹部CT…胆嚢結石、肝臓および左腎に多発性嚢胞
b:初回入院時CT…肝右葉の嚢胞破裂
・入院中はベッド上安静とCMZ点滴静注を行い、1週間後に退院
・退院後1か月後に両下腿浮腫/腹部膨満感/全身倦怠感を自覚
◦腹部CTで大量腹水が検出されたため再入院となった
c:2回目の入院時CT…縮小した破裂嚢胞と大量腹水
・BP114/73mmHg, HR94bpm, SpO2 97%
・腹部は圧痛なしだが膨満感あり、両下腿にpitting edemaを認めた
・血液検査…Cre5.2mg/dL, ALP1992U/L, γGTP355U/L, T.bil3.1mg/dL, CA19-9 5006U/mL
・腹腔穿刺…橙色透明な腹水でbil13.3mg/dL, CA19-9 244700U/mL
◦培養や細胞診は陰性であった
d:腹腔穿刺…琥珀色の透明腹水採取
診断
肝嚢胞破裂による胆汁性腹膜炎
・CKD増悪のため血液透析開始
・保存的治療で改善せず11日目から腹水ドレナージ開始
・Drip infusion cholangiography (DIC)-CTでは肝右葉の破裂嚢胞が造影され、破裂嚢胞と肝内胆管との交通が確認された
e:CT胆道造影…破裂肝嚢胞が造影されている
f(正面:CT胆道造影(3D)…破裂嚢胞と肝内胆管との交通が認められた
・24日目に炎症反応高値となったためセフジトレンピボキシル(!)経口投与開始
・31日目に腹水培養でEnterococcus faecalisが陽性となり、手術治療に切り替えた
h:胆汁漏により肝表面が黄色となり、肝右葉に破裂した壊死性嚢胞を認めた
i:壊死部分を除去し、開口部を確認
・術後1か月の腹部CTでは腹水は認めず、49日目に退院となった
・常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の腎外症状として、多発性肝嚢胞(PLD)/頭蓋内動脈瘤/僧房弁逸脱症/大腸憩室症などがある
◦ADPKDによるPLDは基本的には無症状だが感染/出血/捻転/破裂などの急性合併症も起こり得る
・肝嚢胞破裂はまれな急性合併症である
◦多くは無症状
◦周囲臓器圧迫(胆道/血管/消化管/肺)…3-9%
◦嚢胞内出血…2-5%
◦腹腔内外嚢胞破裂が上記よりさらにまれ
・Marionらの報告によれば出血性肝嚢胞破裂11例のうち4例がADPKD患者であった
・本症例では初回腹水培養は陰性であったが、腹腔内に胆汁が存在すると二次的な細菌感染リスクが高まる
・肝嚢胞破裂に伴い、肝嚢胞と肝内胆管の交通により胆汁性腹膜炎を発症する可能性があるため、肝嚢胞破裂が疑われる場合にはDIC-CT実施が推奨される
・手術を選択する場合には破裂嚢胞の開口部閉鎖が目標だが、肝移植の適応も症例によってはあり得る
◦特に肝胆道との交通がありそれによる反復性胆汁性腹膜炎を起こすような場合
前回の記事でSBPについてレビューしました。
治療の分野で目新しいことがないか確認したかったこともありますが、二次性細菌性腹膜炎についても見逃さないように刷り込みをしたかったという目的もありました。
今回はまさに二次性細菌性腹膜炎の症例でした。
肝硬変+腹水がありそうな人が腹痛を発症しているならSBPと考えて
はい、終わり~
…ではなくて二次性細菌性腹膜炎も考えて対応しないといけない症例です。
今回は1回目の入院があったからわかりやすいけど、
初診で2回目の入院エピソードのような病歴で受診されたときに正しく動けるかが今後の自分の中の課題です。
腹水中好中球>250ならSBPの診断が成り立ちますが、
SBPかな?と思って腹腔穿刺を行うと10000を超えていたことなんてこともありました。
こんなときは特にSBPではないのではないかと疑いの目を向けないといけません。
本症例では腹水好中球数が記載されていませんでしたがどのくらいだったのか気になるところでした。
まとめ
・肝嚢胞破裂はまれな合併症だが、鑑別にあげておくこと
・特にSBPかな、とおもったときには二次性細菌性腹膜炎の可能性を常に考えておく