個人的にはERで便潜血検査(Fecal occult blood testing : FOBT)を行うことはまずありません。
これによって、治療方針が変わることがないからです。
それについて解説したreviewがありましたので紹介します。
さあ、明日からERでFOBTするのはやめましょう!
Drescher MJ, et al. A Call for a Reconsideration of the Use of Fecal Occult Blood Testing in Emergency Medicine.
J Emerg Med. 2020 Jan 8:S0736-4679(19)30809-1.
PMID: 31926780.
J Emerg Med. 2020 Jan 8:S0736-4679(19)30809-1.
PMID: 31926780.
一般論
FOBTは、結腸直腸腫瘍スクリーニングとしては非常に有用です。
これについて否定するつもりは毛頭ありません。
消化管腫瘍からのoccult bleedingを検出でき、健診のスクリーニングとして実施することで結腸腫瘍による死亡率を低下させることが示されている重要な検査です。
ただし、検査の仕方が特殊です。
基本的には食事と薬物使用に関する特定の制限をされた上で、患者の自宅で実行されることが想定されている検査です。
以下の食物や薬物は最低3-7日間摂取しないことが推奨されていて、これが守れない場合には偽陽性が出るとされています。
・食物…赤身肉や多くの野菜
・薬物…NSAIDs、SSRI、抗血小板薬、抗凝固薬
さて、ERでFOBTを行うことを考えてみましょう。
ERには多くの患者がこれらの制限をできずに受診します(そりゃそうだ)。
さらにERでの単回FOBTの感度は低く、エビデンスがないとされています。
通常、結腸腫瘍のスクリーニングとしては信頼性のために3回のFOBTを要します。
が、単回FOBTでは進行がんの場合でも感度は5%にすぎません。
ERでの単回FOBTで陰性だったからといって安心して、その後の健診を受けなくなるようなことがあれば逆にリスクが高くなります。
文献的には、急性疾患での入院においてFOBTを施行された患者のうち…
・たった2%しか適切な食事制限ができなかった
・66%が1つ以上の禁忌薬内服があった
とされています。
なので急性期においてはFOBTに信頼性を求めるのはだいぶ難しいです。
FOBT陽性となった場合、なにかERでのマネジメントが変わるでしょうか?
結論から言えば、マネジメントが変わることはありません。
以下、4つのsituationについて検討します。
外傷の場合
「FOBTの結果は、外傷に対する患者のマネジメントを変えない」
・FOBT陽性であることが、便色異常がなく血行動態が安定している患者の評価を変えるエビデンスなし
これは、バイタルが安定している患者の顕微鏡的血尿ではさらなる泌尿器科的画像検査を要さないというpracticeに似ています。
・ショックを呈している場合でも、見た目が普通の便色である場合にはFOBTの結果によってその後の方針が変わることはない
・上部消化管からのoccult bloodはバイタルサインを変化させるほどの出血であることはない
・ER受診する直腸外傷を疑う患者であっても、感度と特異度がpoorすぎてrule outするには不正確すぎて役に立たない
・外傷における直腸診は特殊な状況を除いては外傷検索に有用ではないとされている
個人的に外傷において直腸診を考慮するのは以下の3つの場合だけです。
・脊髄損傷…sacral sparing
・骨盤骨折…直腸に骨片が飛び出ていないか
・腹部刺創…直腸内に出血がないか
みなさまはいかがでしょうか?
貧血の場合
「FOBTの結果は、急性または慢性出血に対する患者のマネジメントを変えない」
・上部消化管出血に対するFOBTは感度が低い(25%程度)
・偽陽性率が高いため、肉眼的に正常な便色のときにはFOBT陽性であっても急性出血の原因として説明することはできない
・慢性貧血の場合にはFOBTの結果によらず上下部消化管検索を行うべき
・British Society of Gastroenterology guidelineでは、「鉄欠乏性貧血の精査においてFOBTは感度も特異度も高くないためno benefitである」と記載されている
低血圧/失神の場合
「FOBTの結果は、低血圧/失神に対する患者のマネジメントを変えない」
・便色正常である場合には急性消化管出血の可能性は低い
消化管内で真に出血してはいる状況であっても、便色が変化していない場合にはFOBTも陽性化するわけがありません。
・ERにおいては低血圧/失神のtreatment/workupはFOBTの結果によらず行われることが要求される
実際、FOBTの結果だけに基づいて鑑別を除外すると大きな見逃しにつながることが指摘されています。
抗凝固薬投与前の場合
「FOBTの結果は、抗凝固薬投与前の患者のマネジメントを変えない」
・FOBT陰性であれば安心材料
・FOBT陽性であっても便色が正常であれば抗凝固療法をしないという選択肢にはならない
・VTEへの抗凝固療法において、FOBTの陰性的中率は99.02%だが、陽性的中率はわずか30.77%しかない
・FOBT陽性であったが、それが抗凝固療法開始後にわかるような臨床的に重大な消化管出血の前兆であったという証拠になる論文はない
まとめ
・ERでFOBTを行うことには論理的/臨床的根拠はない
・ERでのFOBTは信頼性に欠け、かつ重要性も低い検査である
・FOBT陽性であっても便色が正常であればそのmanagementが変わることはない
・外傷、貧血、失神/低血圧、抗凝固療法投与前のルーチン検査として使用されるべきではない
ERからはFOBT撤去しちゃってもよさそうですね。
ただの慣習で無意味なことを続けることから少しずつ脱却したいですね。