最近は感染対策と言えばもっぱらCOVID-19ですが、
結核、麻疹、水痘といった空気感染対策を要する疾患も忘れてはなりません。
「ケツに麻酔」って覚えるんでしたね。
帯状疱疹で空気感染対策を要する場合ってどんなだっけと思い返すきっかけとして
備忘録がてら書いてみます。
病歴/身体所見
・57歳男性、腎移植後
・4日前からの無痛性で掻痒感のない皮疹のためER受診
◦当初は右前胸部に限局していたが、徐々に胸部全体/四肢/頭皮に拡大
・発熱なし、バイタルサインに異常はなし
・新たな投薬やsick contactなし
診断
播種性帯状疱疹
・アシクロビル静注で治療開始となり入院となった
(J Am Acad Dermatol. 1999 Jul;41(1):1-14; quiz 15-6.)
・免疫不全の結果、ウイルス血症に起因した遠隔病変を起こしていると考えられている
◦10%に臓器障害(肺/肝臓/脳)を合併する
(J Am Acad Dermatol. 1999 Jul;41(1):1-14; quiz 15-6./Clin Infect Dis. 2007 Jan 1;44 Suppl 1:S1-26.)
・発症/重症化リスクが高いのは以下の患者
◦臓器や造血幹細胞移植を受けた患者
◦免疫抑制療法
(N Engl J Med. 2013 Jul 18;369(3):255-63.)
・播種性帯状疱疹を発症した成人腎移植患者の約2/3が臓器合併症を発症する
◦播種性血管内凝固、肺炎、肝炎、膵炎、髄膜脳炎など
◦死亡率は高く、播種性帯状疱疹を発症した時点で死亡率は17%
(Transplant Proc. 2012 Nov;44(9):2814-7.)
・免疫不全患者の播種性帯状疱疹の治療はアシクロビル静注
(Transplant Proc. 2012 Nov;44(9):2814-7.)
※アシクロビル静注治療の適応
◦1つ以上のデルマトーム/三叉神経領域/播種性帯状疱疹の場合
◦重度の免疫不全(特に、同種造血幹細胞移植患者、幹細胞移植かつ中等度以上のGVHD患者、積極的な抗拒絶反応療法中の移植患者)
◦合併症(眼、耳、神経合併症、肺臓炎、肝炎、膵炎など)
・びまん性小水疱性皮疹の患者で考慮すべき代替疾患
◦播種性単純ヘルペス
◦ウイルス性発疹(特にエンテロウイルスによる)
※本症例の患者では明らかな粘膜病変がなく上記診断の可能性は低いと判断された
(Clin Transplant. 2019 Sep;33(9):e13526/Curr Opin Pediatr. 2015 Aug;27(4):486-91.)
●感染対策
・CDCガイドラインでは以下の推奨がある
◦免疫正常者でかつ被覆可能な限局した病変の場合にのみ標準予防策
◦それ以外の場合には、すべての病変が痂皮化するまで空気感染対策+接触感染対策
‣播種性帯状疱疹の全患者、免疫不全患者の限局性病変は播種性でないことが確認できるまで
(https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines-H.pdf/Am J Infect Control. 1984 Feb;12(1):2-5.)
・限局した病変であっても空気感染を起こした報告がある
◦免疫不全者や免疫のない医療従事者から可能な限り隔離すること
◦外来管理の場合には水痘に対する免疫がない人や免疫不全者、妊婦との接触を避ける
(Scand J Infect Dis. 2010 Aug;42(8):620-2)
意外と忘れてしまいがちだったのでまとめてみました。
なんかコロナじゃなければいっか~みたいな雰囲気になりがちですが、自戒を込めて感染対策に取り組みたいと思いました。
まとめ
・播種性帯状疱疹(disseminated herpes zoster)とは、原発巣とその隣接するデルマトーム以外で、少なくとも20個の小水疱病変を認める状態と定義される
・帯状疱疹でアシクロビル静注を要する患者群を覚えておくこと
・播種性帯状疱疹では空気感染対策を要する