病歴/身体所見
・顔から血液を流して倒れている高齢女性が発見され救急要請された
◦おそらく転倒によると考えられた
・救急隊接触時、頻脈/頻呼吸を呈しGCS5
→ketamine+succinylcholineによりRSI実施、3回の挿管に失敗しi-gelが挿入された
◦挿管と挿管の合間にはBMVがされ、1回食道挿管もされている
→その後、別の医療者により1回で気管挿管された
・ER到着時、顔面~胸部にかけてびまん性に捻髪音を触知
検査
・CTで原因検索が行われた
◦頸部/胸壁/縦隔/心膜/腹壁に広範な皮下気腫と気胸/気腹が認められた
皮下気腫
皮下気腫、縦隔気腫
皮下気腫、縦隔気腫、心膜気腫、気胸
診断
気管挿管手技に伴う肺圧外傷/皮下気腫
・救急隊による挿管手技やBMVにより肺圧外傷を発症した可能性が考えられた
・病院到着後の気管支鏡/上部消化管内視鏡では気管内/食道損傷を認めなかった
・皮下気腫は徐々に自然に改善した
・肺圧外傷は空気の肺胞外漏出を引き起こす可能性があり、それが胸腔/縦隔/腹膜に向かって解離し、気胸/縦隔気腫/気腹/皮下気腫へと進展する
(Crit Care Med. 1995 Feb;23(2):223-4./Arch Intern Med. 1984 Jul;144(7):1447-53./Crit Care Med. 1993 Jun;21(6):941-3.)
・縦隔気腫の原因として以下を考える
◦食道穿孔(BMVや食道挿管の結果としてありえる)
◦縦隔炎
◦コカイン使用
◦喘息/COPD
(West J Emerg Med. 2008 Nov;9(4):217-8.)
・気腹の原因として以下を考える
◦消化管穿孔
◦腹腔穿刺
◦胃瘻造設
◦細菌性腹膜炎
◦腹膜透析
(AJR Am J Roentgenol. 2013 Apr;200(4):921-31.)
1発目の挿管がうまくいかなくて焦っているうちにこんなことになってしまったんでしょうか。
焦ると判断能力は低下するし、手技もさらに成功率が下がります。
緊急事態には人を集めるというのが大事です。院外ではなかなかそれができないために難しいと思いますが、今回みたいにi-gelで"逃げる"のは良い手かなと思います。