りんごの街の救急医

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review: 食道胃静脈瘤破裂への急性期対応

特に新型コロナウイルス感染症が出てきてからアルコール使用障害での救急受診が増えてきているように感じています。

 

肝硬変+吐血患者の搬入も多くなっているような。

 

ということで、今回は食道胃静脈瘤破裂の急性期管理についてまとめます。

 

主に以下を参照してまとめました。

➀Zanetto A, et al. Recent Advances in the Management of Acute Variceal Hemorrhage.
J Clin Med. 2021 Aug 25;10(17):3818.
PMID: 34501265; PMCID: PMC8432221.

②O'Leary JG, et al. AGA Clinical Practice Update: Coagulation in Cirrhosis. 
Gastroenterology. 2019 Jul;157(1):34-43.e1.
PMID: 30986390.

 

 

 

疫学

・消化管出血は肝硬変で2番目に頻度の高い合併症
 ◦特に胃食道静脈瘤は最も頻度の高い出血源
・胃食道静脈瘤破裂に対する医学的管理は進歩しているが、6週間後の死亡率は15-20%と高い
・静脈瘤破裂後の再出血リスクは基礎となる門脈圧亢進症の治療に影響され、門脈圧低下療法を行えば1-2年で30%程度
 ◦未治療であれば1-2年以内に60%の再出血率
 

出血のコントロール

・急性上部消化管出血を呈した肝硬変患者に対する治療目標は2つ
 ➀出血を抑えること
 ②早期の再出血と死亡を予防すること
 

一般的な対応

・他の上部消化管出血と同様に対応する
 ◦ABCの安定化
 ◦PPI静注
 ◦肝硬変では輸血制限戦略と予防的抗菌薬が追加
 ◦凝固障害に対する介入
・即時かつ持続的にアルコール摂取を中止させること
 
・静脈瘤からの出血はその名の通り静脈からの出血のため、CVPを上昇させないように対応する必要がある
 ◦特に肝硬変患者は低血圧で普段から生活していることが多いため大量の輸血による蘇生は有害かもしれない
 

輸血戦略

「著しい門脈圧亢進症」が食道静脈瘤破裂の主要因
・ある意味では、出血による血管内容量の急激な減少は、活動性出血の自然な改善につながる可能性がある
・対照的に、血管内容量を急激に改善させると門脈圧の反跳性上昇を誘発し、これが止血の失敗や早期再出血につながりうる
 
・輸血閾値「輸血制限戦略」を用いる
 ◦これまでのRCTにより輸血閾値7g/dL(目標7-9g/dL)は自由戦略に比較して生存率が高くなることがわかっている
 
・血管内容量減少に対し、太い末梢ラインを確保してRBC輸血をすること
 
水分と電解質の補充は腎前性急性腎障害を防ぐために重要
 ◦特に消化管出血を伴う肝硬変では多く、これが起きると死亡率が増加する
 
NASIDsや非選択性β-blocker(NSBB)/降圧薬などの腎毒性のある薬物は急性期には使用を中止してよい
 
希釈性凝固障害を是正する目的でのみ凝固因子補充を考慮してよい
 ◦PT-INR延長や血小板低下を予防的に是正することは適応がない
 

予防的抗菌薬投与

・現在の推奨としては肝硬変のChild分類によらず肝硬変+静脈瘤破裂患者全例に抗菌薬の予防的投与を行うこと
 
・細菌感染は消化管出血で入院した肝硬変患者の最大50%に認められる
 ◦止血の失敗/早期再出血/死亡率上昇リスクと関連
・抗菌薬の予防的投与とプラセボまたは無介入を比較した12研究を含むMAによれば、抗菌薬投与が良好な予後と関連していることが示されている
 ◦全死亡率…RR: 0.79, 95% CI: 0.63–0.98
 ◦感染による死亡率…RR: 0.43, 95% CI: 0.19–0.97
 ◦細菌感染リスク…RR: 0.35, 95% CI: 0.26–0.47
 ◦再出血…RR: 0.53, 95% CI: 0.38–0.74
 ◦入院期間…mean difference -1.9days, 95% CI:-3.8-0.02
・したがって、肝硬変+静脈瘤破裂患者の管理にはタイムリーな予防的抗菌薬投与が重要
 ◦受診後にはできるだけ早く、上部消化管内視鏡前に投与
 
・肝硬変の重症度が予防の重要性に影響を与えるかはわかっていない
 ◦Child B-Cにおいては予防の役割は議論の余地なし
 ◦Child Aでは、そもそも予防を行わない場合の感染リスク自体が低く、抗菌薬投与による死亡率改善はなしとのretrospective studyがある
 
セフトリアキソン 1g/24時間 7日間投与することが第一選択
 ◦特にChild B-C/キノロン予防投与を受けていた患者/キノロン耐性菌が多発している病院など
・上記以外ではノルフロキサシン 400mg1日2回投与でもよい
・予防的抗菌薬の投与期間は最大7日間として、退院後まで使用を延長すべきではない
 ◦入院から7日以内に退院した患者では、7日間の治療を終えることを目標に経口抗菌薬への変更を考慮
 
・静脈瘤破裂のために入院した肝硬変1656人を含むスペインの研究によれば、推奨される予防策をしていても20%で細菌感染(特に呼吸器感染症)を発症していたと報告
 ◦感染症発症は入院後早期…中央値3日
 ◦Child C…OR: 3.1; 95% CI: 1.4–6.7
 ◦入院時点の肝性脳症Grade III-IV…OR: 2.8; 95% CI: 1.8–4.4 
 ◦気管挿管…OR: 2.6; 95% CI: 1.8–3.8
 ◦経鼻胃管留置…OR: 1.7; 95% CI: 1.2–2.4
 ◦SGチューブ留置…OR: 2.4; 95% CI: 1.2–4.9
 
・可能であれば上記のようなリスクの高い処置は最小限にとどめ、臨床症状が悪化した場合には積極的に呼吸器感染症をはじめとした感染症のスクリーニングを行うこと
 

凝固異常への対応

「凝固機能障害の是正は必要ない」
 
・非代償性肝硬変の入院患者は基本的に重度の凝固障害を有している
PT-INR延長は肝硬変患者の出血傾向の増悪を反映していないため、FFPによるINR補正は行うべきではない
INR延長を補正可能なFactor VII製剤の投与は複数のRCTを含むMAにおいて、標準治療と比較して利益なしであった
・出血を伴う肝硬変の凝固障害を是正するためのFFP投与は一般的に行われるが、効果がないだけでなく有害となる可能性も高い
 ◦多施設コホートにて、静脈瘤破裂を伴う肝硬変にFFP投与することで有害なアウトカムが認められた
  ‣42日死亡率上昇…OR: 9.41, 95% CI: 3.71–23.90
  ‣5日目の再出血…OR: 3.87, 95% CI: 1.28–11.70
  ‣入院期間延長…adjusted OR: 1.88, 95% CI: 1.03–3.42
 
・例えば、以下の症例報告は肝硬変で凝固系の異常と持続的出血があったためにFFPやPCCなど投与しても出血が止まらなかった症例です
BMJ Case Rep . 2016 Dec 14;2016:bcr2016218294.)
 
・PCCは投与量が少なく、静脈瘤破裂の場合には有用かもしれない
(Anesth Analg . 2017 Aug;125(2):609-615.)
静脈瘤破裂時の重度の血小板減少症の管理については現時点では特定の推奨はない
 ◦一般的には血小板数≺50000が血小板輸血の閾値だが、進行した肝硬変患者では適応できないことが示唆されている
・デスモプレシン使用による出血時間短縮が古い研究で報告されていたが、その後のRCTで有意な改善はないことが報告されている
 
 
~どうしてこんなことがおきるのか?~
 
・肝臓ではもともと血液凝固因子と抗凝固因子の両方が合成されている
・肝硬変になると原則的にはこれらの産生が両方とも低下しバランスのとれた凝固状態になるはずだが、腎障害や感染症などの併発などの要素でバランスは不安定になり不明瞭
 ◦結果として凝固に傾いたり、出血に傾いたりといったことが起きる
 
・INRは凝固因子との関連があるが、全体の半分程度の評価しかできていない
 ◦INRと出血の関連性が予測できない
 ◦INRが延長していても血栓症を発症しうる
 
・肝硬変では「不適切な凝固」が認識されており、止血バランスに変化がある
 ◦早期の血餅溶解または線溶系亢進の要素を伴うことが多い
 →accelerated intravascular coagulation and fibrinolysis (AICF)と称される 通常の患者とは異なる凝固系
 
・不適切な凝固は、特に門脈血栓症や腸間膜血栓症、DVTなどとの関連がある
 ◦抗凝固療法や予防的対応が考慮されることになる
 
・とはいえ、肝硬変では線溶系が亢進することが多く、フィブリノゲンが低下していることが多い
 ◦従来のPT/APTTによる出血リスク予測は有用ではない
 ◦止血における血小板の機能障害が考慮されていないために、肝硬変患者の出血管理には不十分であることが多い
・AICFとは肝硬変に起因する重大な線溶亢進状態であり、DICと類似している(が異なるもの)
 ◦DIC:凝固の過剰な活性化(トロンビン過剰産生)
 ◦AICF:線溶が過剰
・臨床的には持続的な出血で見つかることが多く、通常治療に反応しないことが特徴
・診断基準は存在しないことや検査法が限られていること、出血患者にはすでにさまざまな血液製剤が事前に投与されていることが診断を難しくしている
D-dimerの著明な上昇、フィブリノゲンの著明な低下、DICに比較して血小板低下が軽度であることは特徴
・治療はフィブリノゲンの改善(FFPやPCCの使用)
 ◦目標値150-200mg/dL程度だが一定の見解はない(>120でもよいとの報告もある)
外傷用量のトラネキサム酸を投与することも考慮
 ◦線溶が亢進しているため
 ◦場合によってはより高用量で投与することも考慮してよいかも
 
・肝硬変患者ではビタミンK欠乏症を発症していることがあり、これがINRとAPTTの延長の原因となりえる
ビタミンKチャレンジが診断的治療になることがある
 ◦ビタミンK10mg点滴静注して翌日の血液検査でINR改善してれば診断になる
 ◦これで改善がなければINR上昇が別の原因がある
・他の原因でINR上昇があるような患者にも有効なアプローチとなる
 
・一方で、肝硬変ではDVTリスクが高いと認識しておくこと
「肝硬変ではINR延長のためDVT予防は必要ない」というのは誤った認識である
(Thromb Haemost . 2017 Jan 5;117(1):139-148.)
・肝硬変の重症患者では他と同様に化学的DVT予防策を行うべき
 ◦活動性出血や血小板≦30000、コントロール不良の線溶亢進(フィブリノゲン<80md/dL)、病的に延長されたR-timeを示すTEGでは禁忌となる可能性がある
 
(Gastroenterology . 2019 Jul;157(1):34-43.e1.)には以下の10点(ほんとはもう少しありましたが…)がbest practice adviceとしてまとめられていました。
➀TEGなどの血栓形成に対する検査は、肝硬変患者の血栓形成の評価に一定の役割はあるかもしれないが、現時点では有効な目標レベルは設定されていない
②肝硬変+凝固異常のある患者において、治療的介入前に血小板減少や凝固異常をルーチンに補正してはならない
血液製剤は門脈圧を上昇させ出血助長の可能性、TACO/TRALI/感染症/免疫反応などのリスクになるため使用は控えめにすること
④活動的出血またはリスクの高い処置の管理のための以下の輸血閾値を進行した肝疾患においては有効かもしれない
 ◦Ht≧25%, Plt≧50000, フィブリノゲン≧120mg/dL
⑤トロボポエチン受容体作動薬は血小板輸血の代替手段となるが、血小板増加には約10日間を要する
FFP使用については、INR目標を達するために大量に必要になること/通常の目標値は限界があること/トロンビン生成への影響が少ないこと/門脈圧への悪影響から使用は大きく制限される
⑦PCCはより低用量投与で乱れた止血システム是正に有効ではあるが、肝硬変での治療経験は限られている
⑧抗線溶療法は粘膜からの持続的な出血がある患者では検討されることがある。ε-アミノカプロン酸とトラネキサム酸はともに血栓溶解を阻害する
⑨デスモプレシンはvon Willebrand因子を放出させ止血をする。肝硬変で上昇してうるため使用することはエビデンスに乏しい(が、腎不全併発では有用かもしれない)
⑩症候性深部静脈血栓症/門脈腸間膜静脈血栓症に対してはヘパリン全身投与が推奨される

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PPI投与

・消化性潰瘍は、消化管出血を呈する肝硬変患者の約30%で出血源となるため、初期治療ではできる限り早く投与すること
 
内視鏡検査で静脈瘤破裂が指摘された場合にはPPIの有効性はないため、使用を中止してよい
・非代償性肝硬変に対するPPI投与は肝性脳症/細菌感染/30日後再入院リスクを増大させることがわかっている
 ◦肝性脳症増加…OR: 1.88, 95% CI: 1.21–1.91
 ◦SBP発症増加…OR: 1.72, 95% CI: 1.10–2.69
・追跡期間を延長した最近のデータによれば、PPI常用はSBPリスクとなるだけでなく、MELD/Child分類によらず肝臓関連死亡のリスク因子となることがわかっている
 ◦退院後の漫然使用をしないこと
 

食道静脈瘤破裂への特異的治療

・標準治療として内視鏡的止血や脾血管収縮剤静注などがある
 
気管挿管は、大量出血した患者において気道保護のために検討されることがある
 ◦ただし、本当に保護的か、呼吸器感染症リスクを増やす可能性もありすべての患者に推奨されるわけではない
 

脾血管収縮薬(splanchnic vasoconstrictors)

脾血管収縮薬の静脈内投与は診断的内視鏡前にできるだけ早期に開始し、3-5日間投与することが推奨されている
 
脾血管収縮薬としてterlipressin, somatostatin, octreotideがある
・投与により脾臓血流減少→門脈圧低下による作用が発現する
・脾血管収縮薬の効果は非常に高い
 ◦MAにより、これらの薬剤使用が止血可能性を有意に高め、7日間死亡率を低下させることが明確に示された
脾血管収縮薬投与単独で80%以上の患者の止血ができたと報告もある
・最近の静脈瘤破裂による死亡率が低下しているのは、一般的な治療が最適化されたことと脾血管収縮薬の使用が一般的となったことによると考えられている
 
可能な限り早期に投与すること
 ◦早期投与は生存率上昇と関連
  ‣救急車内での投与により止血率上昇/生存率上昇がRCTで示されている
 
・いずれの薬剤を使用するかは地域での入手可能性とコストにより考慮すること
・terlipressinの使用
 ◦推奨用量…初期48時間:2mg/4hrに引き続き1mg/4hr
・terlipressinが禁忌→somatostatin
 ◦推奨用量…250mg bolusに引き続き250mg/hr(最大500mg/hrまで増量可能)
・octreotideの使用
 ◦推奨用量…50mg bolusに引き続き50mg/hr持続静注
※ただし、保険適用外使用
 
・脾血管収縮薬は重篤な有害事象を引き起こしうるため、投与期間は短縮する流れがある
 ◦MAでは、42日死亡率は1-3日間 vs 5日間で有意差なし
  ‣ただし、リスク層別化は出来ていなかった
 ◦Child Aではより短縮してよいかも
 ◦それ以外の患者は5日間必要かもしれないがさらなる研究が必要な分野
 

 内視鏡

ガイドラインでは、血行動態安定から可及的速やかに(発症後12時間以内)内視鏡検査を実施することが推奨
 
・血行動態の安定化が得られたら、上部消化管内視鏡を行う
イベント発症から12時間以内の内視鏡検査が出血の再発率および死亡率の低下と関連している
・肝硬変+静脈瘤破裂患者1373人を含む大規模な多施設共同研究では、入院から24時間以内の内視鏡により死亡率低下が示された
 ◦Child A-B…OR: 0.38, 95% CI: 0.16–0.86; p = 0.020
 ※Child Cを含めた解析では有意差なし
 ◦SBP≦90mmHg…OR: 0.053, 95% CI: 0.006–0.51; p = 0.011
 
・治療はEVLが硬化療法に比較して効果的かつ副作用が少ない
 
・出血がコントロールできない場合にはバルーンタンポナーデ(SBチューブまたはMinnesotaチューブ)の留置が推奨
 ◦特に呼吸器感染のリスクが高くなるため、TIPSへの一時的なつなぎとしてのみ考慮すること(最大24時間)
 
・最近では自己拡張型食道金属ステントの留置がバルーンに比較して出血抑制効果が高く有害事象が少ないことが示唆されている
 ◦最長で7日間留置可能で、最終的な治療決定までの時間確保ができることも特徴
 
なお、胃静脈瘤については内視鏡的治療はしばしば不成功に終わるためIVRになることが多いです。
 
 

rescue TIPS(Transjugular Intrahepatic Portosystemic Shunt: 経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術)

・予防的抗菌薬、静脈内脾血管収縮薬、EVLを用いた治療などにも関わらず、10-15%の患者で持続的出血または早期再出血が起こり死亡リスク増大と関連している
以下の患者では、特に止血失敗/早期再出血のリスクが高い
 ◦肝静脈圧較差(HVPG)>20mmHg(重度の門脈圧亢進症)
 ◦入院時のSBP<100mmHg
 
軽度または中等度の再出血では結紮を用いた2回目の内視鏡治療を試してみてもよい
 
・持続的または重度の再出血を有する患者ではrescue TIPSが選択肢になる
 ◦高圧な門脈系を正常血圧の下大静脈系に接続することで、速やかに門脈圧が低下し出血が解消される
 
・考慮すべき問題の1つとして患者が移植を受ける資格があるかどうか
 ◦もしくは、臓器不全の数と重症度なども考慮
 ◦acute on-chronic liver failure(ACLF)を発症していること自体は禁忌にはならない
・急性腎不全またはACLFを発症し、コントロール不良の静脈瘤出血を有する174人を含む多施設共同研究では、rescue TIPS導入は42日生存率を改善させる独立した予測因子であった
無益性の予測因子は…
 ◦乳酸12mmol/L and/or MELD score≧30では死亡率90%以上
 ※乳酸2.5mmol/L and/or MELD≦15では6週間生存率85%以上
 ◦Pugh score>13
 
 
Preemptive TIPS(治療失敗が予測される高リスク群に対する事前TIPS導入)は記載がありましたが専門外であり省略。
 
 

再出血予防策

・現行のガイドラインでは、静脈瘤破裂後にTIPS導入した患者は二次予防のためのさらなる内科的/内視鏡的治療を必要とせず、肝硬変併発の場合には肝移植の評価を受けるべきとされている
※TIPSの開存性は肝細胞癌スクリーニングとともにドップラー超音波により定期的に評価すること
 
・再出血の予防には非選択性β-blocker(NSBB: プロプラノロールなど)とEVLの併用療法が第一選択となる
・現行のガイドラインでは、腹水/難治性腹水や肝硬変の他の合併症の有無にかかわらず、静脈瘤破裂の再発予防のためのfirst line therapyとしてNSBB+EVLの併用療法が推奨されている
 
※この界隈の詳細は本文参照
 
・ただし、リスク層別を行うことでTIPSなどの積極的なアプローチがfirst lineとすることが有効な高リスクの患者を特定できる可能性がある
・高リスク群は静脈瘤破裂に加えて以下のいずれかの所見がある患者と考えられている
 ◦腹水または肝性脳症
 ◦HVPG≧16mmHg
 ◦NSBBへの反応性が乏しい
 ※今後前向き研究での検証を要する
 
・これまでの研究によれば、Preemptive TIPSの候補とみなされていなかった患者にHVPGガイド下治療を行うことで、効果の乏しい治療による無駄なコストと合併症を減らす二次予防の管理が改善できていることが示唆されてきている
 
TIPS周辺のことがいろいろ書かれてましたが、専門外でありあまりよくわからないため今回は省略していますので、興味があれば本文をご参照ください。
 
あとは個別に肝性脳症予防治療なども入ってくると思います。
 
 
肝硬変+消化管出血では、通常の消化管出血治療と比較して少し毛色が異なる部分があります。
抗菌薬投与とか輸血(特に凝固機能障害に対してのFFPとか)とかは注意していないとふと忘れてしまうかも。出血が治まればDVT予防もしておかないと今度は血栓症が危惧される状態になることもpitfallと思いました。
 
 

まとめ

・食道胃静脈瘤破裂は肝硬変患者における消化管出血の原因として最多
・初期治療でCVPを上昇させない対応を心がけること
・輸血は一般的な制限戦略を用い、特に希釈性凝固障害を是正する目的以外での凝固因子補充は適応がない
・肝硬変のChild分類によらず肝硬変+静脈瘤破裂患者全例に内視鏡前の早期に抗菌薬の予防的投与を行うことが推奨され、通常セフトリアキソン7日間
・凝固機能障害に対してルーチンでのFFPやPCC投与による是正は効果がないばかりか有害になる可能性もあるため注意
・血小板についての明確な指標はないが、50000以下では輸血を考慮
・肝硬変ではaccelerated intravascular coagulation and fibrinolysis (AICF)が起き、線溶系が亢進していることがある
・AICFではフィブリノゲン低下が特徴となり、その場合にはFFPやPCC/TXAなどの治療を考慮することがある
・持続的または重度の再出血を有する患者ではrescue TIPSが選択肢になる
・PT/APTT延長がある場合にはビタミンK欠乏症も視野にビタミンKチャレンジをしてみてもよい
・肝硬変は実はDVTリスクが高いため、禁忌がなければ通常通りの化学的DVT予防を行うこと
・消化管出血の初期治療としてPPI静注は行うが、静脈瘤破裂であることが証明されればPPIは有害になる可能性があるため漫然使用はしないこと
・脾血管収縮薬の静脈内投与は診断的内視鏡前にできるだけ早期に開始し、3-5日間投与することが推奨されている
・血行動態安定から可及的速やかに(発症後12時間以内)内視鏡検査を実施することが推奨