りんごの街の救急医

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case 130:全身に急激に紫斑が出現しショックになった19歳男性 (N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):953-963.)

今日はCASE RECORDS OF THE MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALから。

 

長い病歴をかなり端折って記載すると以下のようになります。

 

鑑別疾患を思い浮かべながら対応したいと思います

(もはや一択だろという感じもしますが)

 

症例

・19歳男性
・受診の20時間前までは元気であった
・レストランで食事を摂った後から腹痛と嘔気/嘔吐を発症
・それに引き続き、悪寒、全身倦怠感、筋肉痛、胸痛、息切れ、頭痛、項部硬直、視力障害を発症
・受診5時間前に皮膚に紫色の変色が出現、友人とともに前医救急科を受診し評価された
 ◦びまん性筋肉痛を訴えていた
 ◦意識は清明, 37.4℃, HR147bpm, BP154/124mmHg, RR24/min, SpO2 97%
 ◦皮膚は暖かく乾燥しており、網状皮斑が出現していた
 ◦各種検体採取された
・前医では蘇生が行われた
 ◦薬物投与…ondansetron, ceftriaxone, vancomycin, piperacillin–tazobactam, norepinephrine, epinephrine, vasopressin, dexamethasone, 生食2L, 炭酸水素ナトリウムなど
 ◦気管挿管、人工呼吸器装着
 
・上記実施後、ヘリ搬送されPICUに入室した
 ◦40.8℃, HR166bpm, BP120/53mmHg, RR28/min SpO2  95%(FiO2 50%)
・CVC挿入部からはじわじわと出血が認められた
・びまん性の網状紫斑性発疹が顔面/胸部/腹部/背部/四肢に認められたが、手掌や足底には皮疹を認めなかった

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・血液検査…血小板減少と凝固異常、高乳酸血症、腎機能障害、CRP上昇/ESR変化なし

 

さらにまとめると以下のようになります。

・若年であり、敗血症のリスク因子がない患者に発症したSIRS/乳酸アシドーシス/呼吸不全/腎不全
・skin mottling/四肢末端で急速に進行する網状皮斑
・著明な凝固機能障害
・急速な病状の進行…24時間以内に進行
 
NEJMに沿って鑑別を挙げてみます。
 
■皮膚壊死
・以下の疾患は病初期に網状皮斑が見られうる
●calciphylaxis
病変は脂肪が多い領域に発症しやすい
 ◦下腹部、臀部、上肢など
・触れると非常に強い痛みを伴う
数日~数週間にわたって進行する
・主に高齢者や慢性腎不全の患者に発症
・通常はcalciphylaxisだけでは凝固機能異常やSIRSを伴うことはない
●warfarin-induced skin necrosis
ワルファリン内服患者に発症
 
■血小板減少性紫斑病
・2つのタイプで皮膚病変と重度の血小板減少症を発症する
 ◦ITPとTTPが鑑別になる
・ほとんどの場合、亜急性に発症する
・皮膚所見として皮下出血ができやすいことや、下肢の斑状出血などが主体
・SIRSや凝固機能障害と関連することは一般的ではない
 
■クリオグロブリン血症性血管炎
・小血管性血管炎
斑状の紅斑性発疹、関節痛、多発神経障害、倦怠感などの症状が出る
・多くの場合、基礎疾患(特にC型肝炎がある
亜急性の経過をたどり、SIRSや凝固障害を伴わない
 
・劇症型といえど、通常は数日~数週間にわたって発症する
・びまん性の全身性微小血管血栓症ではなく、複数の個別の血栓性イベント(深部静脈血栓症/肺塞栓症/脳卒中など)に関連している
aPTTはしばしば延長するが、低フィブリノゲン血症を伴う全身性消費性凝固障害は通常発生しない
抗リン脂質抗体症候群または別の自己免疫疾患との関連で発症する
・ショックにはならない…腎への関与のためむしろ重度の高血圧になる可能性がある
 
■感染性電撃性紫斑病
・以下の細菌群で多く発症する
 ◦Neisseria meningitidis
 ◦Streptococcus pneumoniae
 ◦Capnocytophaga canimorsus
・宿主の不適当な炎症反応によって引き起こされる制御不能な全身性血栓症の結果として発症する
・三徴として➀消費性凝固障害、②SIRS、③紫斑性発疹
・発症は非常に急激であり、網状皮斑やskin mottlingが病初期から見られ、重篤なSIRSや凝固機能障害が24時間以内に出現する
重度の低フィブリノゲン血症によりCRPが増加/ESRが不均衡に低下する現象が発生する
・proteins C, Sやantithrombinも低値になる
 
鑑別診断に挙げた中でこれだけのバイタル異常と急激な発症様式を持つものは「感染性電撃性紫斑病」しか当てはまりません。
 
結局、この症例では髄膜炎菌が血液培養から検出され確定診断となりました。
 
正直鑑別があまり挙げられませんでした。
電撃性紫斑病の一択でした。いろんな疾患があるんですね。
 
電撃性紫斑病は髄膜炎菌が有名ですが、肺炎球菌などでの発症もよくあります。
髄膜炎菌が検出された場合、密接なコンタクトがあれば化学的予防の適応があります。