りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例58:発熱と増悪する頸部痛で受診した50歳男性(BMJ. 2020 Oct 22;371:m3395.)

病歴/身体所見

・50歳男性
糖尿病と高血圧の治療をしている
4日間持続する発熱と増悪する頸部痛/腫脹のため受診
・頸部腫脹は当初右側だけであったが左側にも拡大してきていた
・頸部痛と頸部腫脹は受診12時間前から急速に増悪傾向となり、義歯を外さざるを得なくなったが口を開けなかった
歯はほぼなく、左下顎の第一大臼歯が残るのみ
 ◦他は歯肉炎のため抜けてしまっていた
 
・バイタルサインは正常
皮膚硬結を伴う両側顎下の腫脹/開口障害(2横指が入らない)/口腔底左側の顕著な腫脹により右方向へ舌偏位が認められていた

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・stridorはなく、呼吸困難は訴えていなかった
 
 

診断

Ludwig’s angina
 
・CTにて左顎下部に膿瘍を認め、口腔内外からドレナージを行われた
・感染源と考えられた歯は抜歯された
・抗菌薬治療6日間実施され自宅退院となった
 
 
Ludwig’s anginaは顎下部の深頸部感染症である
(Arch Intern Med. 1988 Feb;148(2):461-6.)
 
・歯性感染症だが、特に下顎の第2-3大臼歯の感染によることが多い
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
 
両側顎下部の急激な腫脹/疼痛/硬直化を伴う蜂窩織炎ではLudwig’s anginaを疑う
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
 
・波動を伴う腫脹があれば膿瘍形成を疑う
 ◦画像診断なしには膿瘍形成を除外できないことに注意
 
開口障害や嚥下障害は初期の徴候ではなく、病状が進行してから出現する
 
・stridorや努力呼吸があれば気道閉塞になりかけている徴候
 ◦経鼻内視鏡で気道閉塞所見があるか確認をすること
(Anesth Analg. 2005 Feb;100(2):585-9.)
 
・その他の合併症は以下
 ◦隣接する構造(縦隔を含む)への波及
 ◦硬膜静脈洞血栓症
 ◦壊死性筋膜炎
 ◦敗血症
 
・CTは診断的価値が高いと考えられている
 ◦病変特定と膿瘍形成の有無などを判定可能
(Semin Ultrasound CT MR. 2012 Oct;33(5):432-42.)
 
・Ludwig’s anginaは、ほとんどの症例では抗菌薬静脈内投与で改善する
 
・治療の遅れにより膿瘍形成し外科的ドレナージを要することがある
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
 
・Ludwig’s anginaの発症率は1940年代以降減少傾向
 ◦歯の健康促進や適切な抗菌薬使用、より積極的な手術治療選択などによる
 ◦死亡率は50%→8%未満に減少
(Arch Intern Med. 1988 Feb;148(2):461-6.)
 
Ludwig's anginaは2回目の登場でした。
見逃したくない重要な疾患です。気道閉塞、嚥下障害や開口障害が出てくる前に診断をしてあげたいですね。
 
 

まとめ

・Ludwig’s anginaは急速な気道閉塞を来し、迅速な診断と治療がされないと致命的になりうる
・嚥下障害や開口障害は晩期症状で、病初期には見られないことがある
・治療は気道を確保することと適切な抗菌薬治療(必要ならドレナージ)を行うことである