病歴/身体所見
・50歳男性
・糖尿病と高血圧の治療をしている
・4日間持続する発熱と増悪する頸部痛/腫脹のため受診
・頸部腫脹は当初右側だけであったが左側にも拡大してきていた
・頸部痛と頸部腫脹は受診12時間前から急速に増悪傾向となり、義歯を外さざるを得なくなったが口を開けなかった
・歯はほぼなく、左下顎の第一大臼歯が残るのみ
◦他は歯肉炎のため抜けてしまっていた
・バイタルサインは正常
・皮膚硬結を伴う両側顎下の腫脹/開口障害(2横指が入らない)/口腔底左側の顕著な腫脹により右方向へ舌偏位が認められていた
・stridorはなく、呼吸困難は訴えていなかった
診断
Ludwig’s angina
・CTにて左顎下部に膿瘍を認め、口腔内外からドレナージを行われた
・感染源と考えられた歯は抜歯された
・抗菌薬治療6日間実施され自宅退院となった
・Ludwig’s anginaは顎下部の深頸部感染症である
(Arch Intern Med. 1988 Feb;148(2):461-6.)
・歯性感染症だが、特に下顎の第2-3大臼歯の感染によることが多い
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
・両側顎下部の急激な腫脹/疼痛/硬直化を伴う蜂窩織炎ではLudwig’s anginaを疑う
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
・波動を伴う腫脹があれば膿瘍形成を疑う
◦画像診断なしには膿瘍形成を除外できないことに注意
・開口障害や嚥下障害は初期の徴候ではなく、病状が進行してから出現する
・stridorや努力呼吸があれば気道閉塞になりかけている徴候
◦経鼻内視鏡で気道閉塞所見があるか確認をすること
(Anesth Analg. 2005 Feb;100(2):585-9.)
・その他の合併症は以下
◦隣接する構造(縦隔を含む)への波及
◦硬膜静脈洞血栓症
◦壊死性筋膜炎
◦敗血症
・CTは診断的価値が高いと考えられている
◦病変特定と膿瘍形成の有無などを判定可能
(Semin Ultrasound CT MR. 2012 Oct;33(5):432-42.)
・Ludwig’s anginaは、ほとんどの症例では抗菌薬静脈内投与で改善する
・治療の遅れにより膿瘍形成し外科的ドレナージを要することがある
(Int J Infect Dis. 2009 May;13(3):327-33.)
・Ludwig’s anginaの発症率は1940年代以降減少傾向
◦歯の健康促進や適切な抗菌薬使用、より積極的な手術治療選択などによる
◦死亡率は50%→8%未満に減少
(Arch Intern Med. 1988 Feb;148(2):461-6.)
Ludwig's anginaは2回目の登場でした。
見逃したくない重要な疾患です。気道閉塞、嚥下障害や開口障害が出てくる前に診断をしてあげたいですね。
まとめ
・Ludwig’s anginaは急速な気道閉塞を来し、迅速な診断と治療がされないと致命的になりうる
・嚥下障害や開口障害は晩期症状で、病初期には見られないことがある
・治療は気道を確保することと適切な抗菌薬治療(必要ならドレナージ)を行うことである