りんごの街の救急医

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review:凍傷

そろそろ冬も終わりますが、まだまだ冷え込みます。

凍傷について対応方法を振り返っておこうと思います。

なんだか今年はいつもより凍傷自体は受診が少なかったような…。

 

参考文献:

Emerg Med Clin North Am. 2017 May;35(2):281-299.

Emergency Medicine Reports, 2019年4月15日号

J Burn Care Res. 2020 Jan 30;41(1):176-183.

 

 

定義

凍傷とは、組織が凍結した時に生じる組織損傷で、通常体の遠位(指/つま先/耳/鼻など)に多くみられる
 
・寒冷地域で多いが、家庭用品(アイスパックなど)によっても生じうる
 
・熱傷と同様にその程度に基づいて重症度が分類されている
 ◦1度…紅斑/充血/浮腫/肥厚を伴う表層部の損傷
  ‣水疱や壊死はなし
 ◦2度…紅斑/浮腫/水疱形成(内部はclear)を伴う全層性損傷
  ‣数か月以内に治癒するが表層の神経への永続的損傷が持続しうる
 ◦3度黒色または青色の外観/浮腫/出血性水疱形成や神経損傷を伴う皮膚壊死があり、より深部の皮下組織の損傷
 ◦4度黒色痂皮と皮膚壊死を形成し、筋肉/腱/骨まで到達する損傷
  ‣経時的に壊死組織が明らかになり、自然脱落することがある
 
1度
・紅斑/充血/浮腫/肥厚を伴う表層部の損傷
水疱や壊死はなし
復温後チアノーゼなし
2度
・紅斑/浮腫/水疱形成(内部はclear)を伴う全層性損傷
復温後DIP以遠にチアノーゼ
3度
黒色または青色の外観/浮腫/出血性水疱形成や神経損傷を伴う皮膚壊死があり、より深部の皮下組織の損傷
復温後MP関節までチアノーゼ
4度
黒色痂皮と皮膚壊死を形成し、筋肉/腱/骨まで到達する損傷
復温後MP関節以遠までチアノーゼ

 

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凍傷の重症度は復温されるまで明らかにならないことに注意が必要
 ◦初期診療では損傷程度を分類困難であるため、表層(1-2度)または深部(3-4度)の2つのカテゴリに分類されることがある
 

疫学と病因

・凍傷により指や四肢の喪失が起きる頻度は高い
 
・歴史的には凍傷は戦争の際に起きる疾患であった
 ◦現在では、登山やウインタースポーツなどによる一般人に起きる疾患となっている
 
・屋外の気温/湿度/風邪の程度/暴露時間などが凍傷のリスクと関連する
 ◦雪山に隣接する診療所では18-27%程度が凍傷関連
 
凍傷のリスクが高まる因子は以下
 ◦高齢者
 ◦ホームレス
 ◦薬物/アルコール使用症
 ◦末梢血管疾患/糖尿病/Raynaud病/β-blocker使用
 
・男性および30-49歳の成人に多く発症する
 ◦職業上の曝露や心理社会的要因の増加が原因と考えられている
  ‣冷凍物質や加圧液体化学物質(アンモニア二酸化炭素など)への曝露など
  ‣軍隊/自衛隊の訓練なども
 
凍傷のほとんどは適切な計画と予防により回避することが可能
 ◦適切な防寒具の着用、凍傷の症状や徴候の認識など
 ◦フィットする服や靴の着用により凍傷の発生率が低下
  ‣しっかりと湿気を逃がす必要がある
 ◦断熱のために衣服を重ねることは逆効果になる可能性がある
  ‣特に血流障害を起こすようなことがあれば凍傷リスクを上げる
 ◦体幹を暖め中心部からの熱喪失を減らして、末梢血管収縮を軽減、凍傷を予防可能

病態生理

・凍傷では相互に関連する多数の段階を経て変化が起きる
 
初期段階(凍結前)…温度の低下が局所的な血管収縮と組織虚血を引き起こす
 ◦感覚鈍麻と知覚過敏の両方の感覚変化が起きる
 
第2段階(凍結融解)…組織が氷点下の温度にさらされると、細胞内の氷結の結果として直接的な細胞障害が発生
 ◦細胞内脱水と収縮、電解質異常、細胞膜の不安定化を引き起こす
 ◦四肢の凍結に対して血管収縮と拡張を交互に起こして対応しようとする"hunting reaction"
  ‣血管拡張期に復温すると炎症性メディエーターが発生し組織損傷を悪化させ、血栓形成/炎症誘発させる微小環境が形成され間接的な組織障害が促進される
 
第3段階(血管収縮期)…血管収縮が優位に起こり、低酸素とアシドーシスによる組織障害が生じる
 ◦血管内皮損傷/炎症誘発性メディエーター/浮腫/血栓症が起き、最終段階の虚血へと進展する
 

検査

・凍傷の急性期管理では感染が疑われる状況を除いて血液検査は必要とせず、主に画像検査が有用とされる
 
単純レントゲン
 ◦急性期には正常または腫脹のみを呈する
 ◦骨折や放射線不透過性の異物が見つかることもある
 ◦4度凍傷の場合には、数か月経過後に骨病変が明らかになることがある

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a)初期のレントゲン:第1, 2, 5足趾軟部組織が不規則になっている
b)4か月後:第1, 2足趾軟部組織欠損が大きくなっている、骨びらんも出現(黒矢頭)。第5趾は骨減少あるが軟部組織は欠損なし(白矢頭)
 
・発症から24時間以内の血管障害が疑われる深達性凍傷では、DSA(digital subtraction angiography)が有用
 ◦血管の開存性が視覚化でき、血栓溶解療法の治療に反応がある可能性のある領域が認識可能
 ※CTAでも(ある程度の状態把握に)よいのではと思う

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a)両足趾にびまん性の変色と出血性水疱(3度凍傷)
b)受診時DSA:DIP関節以降への血流がない
c)24時間後DSA:膝窩動脈からのtPA投与後に完全な血流が得られている(患者は切除を要さず完全に改善)
 
MRAはDSAの非侵襲的な代替手段となる
 ◦ただし、これは治療的対応にそのまま移行できない欠点がある
 
SPECT/CTは新規に使われはじめている診断手段であり、生存可能な組織や骨特定に有用な情報を与える
 
骨シンチグラフィーでは、(臨床的に判断するには数週間かかる症例でも)凍傷からわずか2日後には84%の症例で切断を要するか正確に予測可能
 

マネジメント

・凍傷による永続的な組織損傷を最低限にするためには早期の認識が重要である
 
・最も初期の症状として知覚異常のみであることがある
 
紅斑/浮腫/水疱形成は復温するまで発生しないことがある
 
・治療のfirst stepは寒冷環境からの離脱
 
・組織に損傷を与えてしまうため、温風をかけたり皮膚をこすったりしないこと
 

病院前での対応

・病院前の状況では、院内での対応と少し異なる部分がある
 
組織が再氷結しないことが保証されるまで復温は避けること
 
・凍傷を発症したつま先は、歩行により部分的復温/腫脹/組織障害を引き起こす可能性があるため歩行を許可してはならない
 ◦復温されることにより腫脹が起き、それにより靴が脱げなくなることもある
 
出血性水疱は吸引または創面切除してはならない
 
・病着前に凍傷を負った四肢をゆるく包帯で保護し、腫脹しても圧迫されないようにしておくこと

病院到着後の対応

・院内では、患者が安定し温まった段階で凍傷を負った四肢を評価する(まずは低体温の解除)
 
・必要に応じて破傷風ワクチン接種
 
・入院時および治療中の臨床写真を残しておくこと
 
復温後に発生する腫脹対策として、指輪/衣服/周囲の包帯などは取り除いておくこと
 
・腫脹によるコンパートメント症候群を発症していないかは常に注意すること
 ◦無脈になるのは晩期症状であり、知覚鈍麻から始まる
 
・緩徐に解凍すると無酸素再灌流障害が発症するため、迅速な復温を行うことが重要
 
37-39℃に設定して、ヨウ素やクロルヘキシジンなどの抗菌剤を含む温かい流水または循環水を使用する
 ◦組織が赤または紫色の外観になるまで…通常は20-30分ほど
 
・疼痛を生じうるため、鎮痛薬をしっかり投与する
 ◦全身性抗プロスタグランジン活性が炎症性損傷を媒介する可能性があるため、禁忌がない限りNSAIDsを投与する
  ‣経口ibuprofen 12mg/kg1日2回投与(最大2400mg/dayまで)
 ◦上記で効果不十分ならオピオイドを使用してもよい
 
 
院内における水疱のマネジメントは議論が残る分野で、治療者の裁量に任されている
 
透明な水疱には凍傷組織にさらなる損傷を引き起こしうるプロスタグランジンとトロンボキサンが含まれている
 ◦これらの液体の吸引は治癒を促進する可能性がある
 ◦一部の診療指針では透明な水疱は完全除去することを勧めているが、穿刺吸引までにすることを勧める指針もある
 
出血性水疱は、創面切除または吸引により乾燥やさらなる損傷を引き起こす可能性があるため、そのままにしておくべきとの一致した見解がある
 
復温が完了したら、局所アロエラクリームを塗布してから包帯で緩く保護し、四肢を挙上しておく
 
アロエベラには炎症とその後の組織損傷を軽減するのに有用な抗プラスタグランジン作用がある
 
・予防的抗菌薬投与は議論がある分野であり、感染が明らかまたは疑われる場合のみにしておく
 
・凍傷を受傷した全ての患者は治癒促進のために蛋白豊富な高カロリー食を要する
 
・凍傷の治癒には時間がかかるため、組織の真の損傷程度と切断の必要性については復温後数日~数週間まで明らかではない
 

血栓溶解療法

早期からの血栓溶解療法により、凍傷による微小血管塞栓や虚血を改善させることができる可能性がある
 
・限定的なエビデンスしかないが、tPAへの禁忌がなく受傷24時間以内かつ以下の場合にはtPAの静注または動注を行うことはreasonable
 ◦多数の指が凍傷
 ◦複数の四肢におよぶ凍傷
 ◦四肢近位の切断リスク
(Arch Surg. 2007 Jun;142(6):546-51; discussion 551-3./J Trauma. 2005 Dec;59(6):1350-4; discussion 1354-5./Burns. 2017 Aug;43(5):1088-1096./AJR Am J Roentgenol. 2020 Apr;214(4):930-937.)
 
・tPAに加えてLMWH皮下注またはヘパリン静注を行うとよい
 
・American Burn Associationガイドラインによれば、末節骨より近位にチアノーゼがあり、復温後も中節骨より近位に灌流がない場合にはtPAを考慮するよう記載がある
(J Burn Care Res. 2020 Jan 30;41(1):176-183.)
 
IP関節より近位にチアノーゼがある場合にはCTAなどを使用して評価を要し、IP関節より近位に灌流がない場合にはtPAを行うべし
 
血栓溶解療法の手順
 ◦tPA0.15mg/kgを15分かけて投与、0.15mg/kg/hrで6時間持続静注(max 100mg)
 ◦tPA投与後、以下のいずれかを投与
  ‣ヘパリン500-1000U/hr 6時間
  ‣enoxaparin 1mg/kg皮下注

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(Burns. 2017 Aug;43(5):1088-1096.)
※高用量のアスピリンは抗炎症作用を狙って投与する
※骨シンチが取り上げられているがDSA/MRA/CTAでも代替可能
 

合併症

・凍傷に引き続き、さまざまな合併症が出ることがある
 
・機能喪失/冷え性/慢性疼痛/慢性潰瘍/関節炎など
 
重症凍傷の約半数で冷感過敏症や触覚過敏症のいずれかを患う
 ◦電撃痛のような感覚障害を引き起こすことも報告されている
 
・関節炎は血管損傷に起因する限局性骨粗鬆症が原因ではないかと考えられている
 

方針

限局的な表在性凍傷であれば、帰宅可能
 ◦拡大する凍傷/周囲の損傷/難治性疼痛/感覚障害がある場合には再受診指示
 ◦6時間ごとにアロエベラ塗布などの適切な創傷ケア指示
 
深達性凍傷では入院を要する
 ◦血管損傷が疑われればIVR可能施設への転院を考慮
 

まとめ

・凍傷は組織の凍結により起きる
・凍傷の重症度評価は1度~4度まであるが、組織の復温が済むまで判定が困難
・凍傷のほとんどは適切な計画と予防により回避することが可能とされる
・凍傷は、血管収縮や内皮損傷、炎症誘発性メディエーター産生、血栓形成など多数の段階を経て変化が起きる
・発症から24時間以内の血管障害が疑われる深達性凍傷ではCTAやMRAなどによる評価をして、血栓溶解療法の恩恵を得られるか検討せよ
・病院前では組織が再氷結しない環境に出られるまで復温しないこと、また歩行は許可してはならない
・低体温症を伴うときにはまずは低体温の治療(体幹を優先させる
・37-39度のぬるま湯で20-30分ほど、組織が赤または紫色の外観になるまで温める
・鎮痛薬はNSAIDsを十分量投与すること(プロスタグランジン活性を抑える)
・透明な水疱では、液体の吸引は治癒を促進する可能性がある
・出血性水疱は深部組織の損傷を示唆しているため、剥離せずそのままにしておく
・凍傷の真の損傷程度と切断の必要性については復温後数日~数週間まで明らかにならないことに注意
・適応があれば低温曝露から24時間以内に血栓溶解療法を行うこと
 ◦tPAへの禁忌なし
 ◦末節骨より近位にチアノーゼ/復温後も中節骨より近位に灌流がない
 ◦IP関節より近位にチアノーゼ/CTAなどでIP関節より近位に灌流が認められない