たまにしか見ないけど、意外とやっかいな複視。
これを機会に複視診療に自信が持てるようになりましょう。
とても良いreviewがあるので紹介します。
Margolin E, Lam CTY. Approach to a Patient with Diplopia in the Emergency Department.
J Emerg Med. 2018 Jun;54(6):799-806.
PMID: 29426788.
疫学
・救急外来受診する患者の0.1%を占める
こんな少ないんですね。たしかにたまにしか来ません。
診断方法…6つのステップで鑑別せよ
➀単眼性複視か、両眼性複視か?
・単眼性複視…いずれかの眼を閉じても複視が持続
→眼科的問題(ドライアイや屈折異常など)
・両眼性複視…いずれかの眼を閉じると複視が消失
→眼科的問題以外を探せ!
◦脳神経障害…第3/4/6脳神経
◦甲状腺眼症、眼窩腫瘍、海綿静脈洞病変などの外眼筋運動を制限させるような問題
◦神経筋接合部障害…重症筋無力症など
救急外来で見逃してはならないのはどちらかといえば両眼性複視です。
両目で見て複視があるけど片目なら大丈夫、というのは危険信号です。
②複視以外の神経学的異常があるか?
・特に、脳幹症状に注意→早期にMRIを考慮すべき
◦めまい、失語、嚥下機能障害、crossed signs(顔面の脳神経障害とその対側以下の麻痺)など
・上記ある場合には否定されるまで脳梗塞として対応すること
特に脳神経症状がないかどうか必ずスクリーニングします。
あれば否定されるまでは脳梗塞疑いです。
③眼球運動障害はあるか?
・両眼性複視の場合には必ず評価すべし
◦第3/4/6脳神経障害を検索する目的
④眼球運動障害がある場合、動眼/外転/滑車神経麻痺パターンと一致するか?
◦主な原因は動脈瘤…6%ほど
◦pupil-sparing(瞳孔所見のない動眼神経麻痺)の42%が微小血管病変
・外転神経麻痺…外転障害、内斜視/内転位
◦複視の原因として最多…50%
◦外転神経麻痺の36%が微小血管障害(数か月で自然改善)
◦単眼性…外転神経のmicroischemia、自然に改善しうる
◦両眼性…頭蓋内圧亢進(特発性、腫瘍、硬膜静脈洞血栓症など)、脳幹梗塞、腫瘍
◦頭蓋骨頭頂部骨折でも出現しうる
・滑車神経麻痺
◦ほぼ正常な眼球運動可能
◦垂直/斜方向での複視を訴える
◦多くは先天的異常(斜頸を呈する)
‣滑車神経は脳神経のなかでもっとも長い…外傷でよく損傷
‣これら以外の原因として50歳以上では微小血管障害
瞳孔所見がなく眼球運動障害のみのこともあるため注意が必要です。
両眼性の外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進を疑います。
滑車神経麻痺は上記に比べて少ないですが、外傷でよく損傷され、また50歳以上では脳梗塞を疑います。
⑤眼球運動障害の原因として、2つ以上の脳神経麻痺が合併している可能性はあるか?
・疑う場合には、眼窩および海綿静脈洞などの病変を疑いMRI検査すべし
◦重症筋無力症、下垂体卒中(→海綿静脈洞に影響)なども含め考慮
・眼窩内病変
◦眼窩内は全外眼筋、交感神経線維、第2-6脳神経が通過する
‣視力障害やV1-2領域の感覚鈍麻があればこの領域の病変を疑う
◦CTで検索する
・海綿静脈洞病変
◦第3-6脳神経、交感神経線維、内頚動脈が通過する
‣視神経が通過しない
=視力低下がないことが眼窩内病変との鑑別になる
◦敗血症性海綿静脈洞血栓症(CST)が最も怖い
‣副鼻腔炎、歯肉膿瘍、中耳炎、眼周囲蜂巣炎など周囲の病変が原因になる
‣死亡率30%。血液培養/髄液培養を行い、広域抗菌薬投与すること
…糖尿病などの免疫不全があれば真菌感染も考慮
‣眼静脈灌流が低下するため眼瞼腫脹、眼球突出、結膜浮腫、眼筋麻痺(50%)
‣24-48時間で対側の海綿静脈洞にも炎症が波及し、両側性の症状が出現
→両目の病変の際には海綿静脈洞病変を疑うこと
◦眼痛や眼窩周囲の腫脹、頭痛などの症状
◦病変を疑えば、CT/CT venogram
・重症筋無力症
◦60%が眼瞼下垂や複視を訴える
◦症状の日内変動がある
◦20%が眼球限局性重症筋無力症
・甲状腺眼症
◦外眼筋の肥大や線維化により複視の原因となりうる
◦しばしば両側性で、しばしば非対称性
◦角膜露出や視神経の圧迫により3-7%の患者で重篤な視力低下を来す
→眼球突出がある患者の視力低下では視神経の圧迫を考慮すべき
→CTで確認すること
◦核間性眼筋麻痺(internuclear ophthalmoplegia:INO)が53%に認められる
◦両側性に起こる
◦後頭蓋窩病変のためCTの感度は低く、MRIでの精査を要する
・外傷
◦眼球運動障害を有する患者はより意識状態が悪いことが多い
‣CTでの異常(出血や骨折)やリハビリテーション必要率も高い
◦視力障害を訴える場合には眼窩骨折や眼球破裂にも注意
2つ以上の脳神経麻痺を合併している場合の鑑別として
眼窩内病変 vs 海綿静脈洞病変がありますが、視力障害の有無により鑑別がある程度可能となります。
⑥血算、赤沈、CRPを測定せよ
・巨細胞性動脈炎を除外すべし
・GCA(巨細胞性動脈炎)
◦中~大血管の全身性炎症または閉塞
◦未治療の場合には両側失明の可能性は60%
◦第6脳神経麻痺の2.7%を占める
◦60歳以上の複視を訴える患者には血算、CRP、赤沈を検索すること
このステップは意外と見落としがちかもしれません。
マネジメント
・原則的には上記6stepの鑑別を行うことで、検査治療方針を決定できる
①単眼性複視か、両眼性複視か?(monocular or binocular?)
②複視以外の神経学的異常があるか?
③眼球運動障害はあるか?
④眼球運動障害がある場合、それは動眼神経/外転神経麻痺のパターンと一致するか?
⑤眼球運動障害の原因となるような2つ以上の脳神経障害が合併している可能性はあるか?
⑥血算、赤沈、CRPを検索せよ
・単神経麻痺を疑う場合には以下のように対応する。
・単眼性外転障害
◦原因の多くは外転神経のmicroischemiaで自然に改善する
◦緊急MRIは通常必要なし
‣頭蓋内圧亢進症状がある場合には緊急CT/CTVを施行
→頭蓋内腫瘍や硬膜洞血栓症の除外を行うこと
◦神経内科もしくは眼科を受診させる
・両眼性外転障害
→緊急CT/CTV考慮
◦小児の場合には腫瘍が多いためすぐにMRIを撮影すること
・滑車神経麻痺
◦通常、ERでは画像評価不要(外傷の場合にはCT)
◦後日、神経内科か眼科で評価をおこなう
※小児の場合には緊急で検索を行うこと!
◦やるなら造影MRI
・動眼神経麻痺
◦緊急でCTA施行…動脈瘤を除外すること
・60歳以上の両眼性複視
◦血算、生化学、赤沈、CRPを検査すること
…GCAを除外する必要がある
まとめ
・最も大切な鑑別診断の入り口は単眼性複視か、両眼性複視か
→単眼性なら眼科的問題、両眼性なら頭蓋内病変疑い
・6stepの鑑別を行うことで、検査治療方針を決定する
①単眼性複視か、両眼性複視か?
②複視以外の神経学的異常があるか?
③眼球運動障害はあるか?
④眼球運動障害がある場合、それは動眼神経/滑車/外転神経麻痺のパターンと一致するか?
⑤眼球運動障害の原因となるような2つ以上の脳神経障害が合併している可能性はあるか?
⑥血算、赤沈、CRPを検索せよ
・外転神経麻痺は単眼性なら多くは外転神経のmicroischemiaで自然改善、両眼性の場合には頭蓋内圧亢進症を考慮して緊急CT/CTVを行う
・滑車神経麻痺は外傷に伴うもの以外は画像評価不要、ただし小児では造影MRIを行うこと