りんごの街の救急医

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prospective:アナフィラキシーの二相性反応発症率/発症までの時間/リスクは?(日本からの報告)

アナフィラキシーの二相性反応をご存知でしょうか?
初回発作に引き続き、1時間以上の無症候期を経て、さらなる抗原への曝露なしに症状が再発することと定義されています。
 
ほとんどのアナフィラキシーは単相性の経過をとりますが、まれに二相性の経過をたどることがあります。
 
どのくらいの頻度かというと結構幅があります。
小児~青年期の食物によるアナフィラキシーでは二相性反応が23%もの症例で認められたという報告がある一方、最近のカナダでのretrospective studyでは二相性反応の発症率は0.4%にすぎなかったという報告もあります。
(N Engl J Med. 1992 Aug 6;327(6):380-4./Ann Emerg Med. 2014 Jun;63(6):736-44.e2.)
 
 
二相性反応のリスクについてもよくわかっていない分野です。
研究自体はされていますが、いずれもretrospectiveまたは単一施設での研究によるものでした。
(Immunol Allergy Clin North Am. 2007 May;27(2):309-26, viii./J Allergy Clin Immunol Pract. May-Jun 2015;3(3):408-16.e1-2./Acute Med Surg. 2014 May 19;1(4):228-233.)
 
少なくとも日本からの多施設前向き研究はこれまでありませんでした。
 
 
ついに日本発の多施設前向き研究が発表されたので紹介します。
 
 
Oya S et al. Characteristics of Anaphylactic Reactions: A Prospective Observational Study in Japan.
J Emerg Med. 2020 Dec;59(6):812-819.
PMID: 32917450.
 
 
・2016年6月~2019年5月まで、日本の2施設のERから患者が登録された
アナフィラキシーは公表されているガイドラインに基づいて治療された
 ◦アドレナリン筋注…0.01mg/kg(成人最大0.5mg/小児最大0.3mg)
 ◦追加のアドレナリンや抗ヒスタミン薬/ステロイドなどは医師の裁量により投与
 
アナフィラキシーと診断されたすべての患者が対象となり、心停止は除外された
 
・二相性アナフィラキシー反応は、初回発作に引き続き1時間以上の無症候期を経て、さらなる抗原への曝露なしに症状が再発することと定義された
 ◦蕁麻疹のみの再発は二相性アナフィラキシー反応の定義に含まれていない
 
・最初の診断から1週間以内に電話によりフォローされた
・患者がショック状態/アドレナリン複数回投与を必要とした場合には、初回症状は重症と定義された
・二相性反応は初回反応との比較で複数の救急医の判断により軽症~重症に分類された
 
307人がアナフィラキシーと診断され、最終的に302人が対象となった

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・初期治療としてアドレナリンが投与されたのは68.5%、ステロイド投与は81.1%
・全体の入院率は80.8%
・誘因は食物が最多(76.2%)で、薬剤(10.9%)と続いた

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二相性反応を呈したのは19人(6.3%)

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アドレナリンの使用が二相性反応のリスク低下と関連

 ◦OR 0.3, 95% CI 0.1–0.9, p = 0.02
 
ステロイド使用と初回発作が重症であることは二相性反応リスクとならなかった
 ◦初回発作が重症であったのはたった1人
 
・初回治療として2回以上のアドレナリン投与を受けたものはいなかった
 
・二相性反応は2-48時間で発症(平均10時間)
 ◦約半数が発症後10時間以降に発症した
 
・二相性反応の重症度は軽症7人/中等症8人/重症4人
 ◦7人(36.8%)がアドレナリン投与を要した
 ◦死亡者はいなかった

 

 

アナフィラキシーにしてはアドレナリン投与が少ないように思いますが、時間が経過してアドレナリンなしでも対応できる(峠を越えた)症例が多かったのでしょうか。

 

二相性反応はこれまでの報告と同じような頻度でみられました。

リスク因子自体は指摘されていませんが、アドレナリン投与をすることがリスクを低下させました。

 

ちなみに、これまでの研究からはリスクファクターとして以下が指摘されていました。
・コントロールできるまでのアドレナリン投与回数(特に2回以上)
・アドレナリン投与までの時間(特に発症から60分以降)
(J Allergy Clin Immunol Pract. 2017 Sep - Oct;5(5):1295-1301./Ann Allergy Asthma Immunol. 2015 Sep;115(3):217-223.e2./Pediatrics. 2000 Oct;106(4):762-6./Ann Allergy Asthma Immunol. 2015 Sep;115(3):217-223.e2.)
 
さらに、ガイドラインでは以下が二相性反応のリスクとされています。
・18歳未満の薬剤性アナフィラキシー(OR, 2.35; 95% CI, 1.16-4.76)
・原因不明のアナフィラキシー(OR, 1.63; 95% CI, 1.14-2.33)
・皮膚症状を呈するアナフィラキシー(OR, 2.54; 95% CI, 1.25-5.15)
・脈圧増大(OR, 2.11; 95% CI, 1.32-3.37)
・重症アナフィラキシー(OR, 2.11; 95% CI, 1.23-3.61)
・glucocorticoidsで治療された18歳未満(OR, 1.55; 95% CI, 1.01-2.38)
・epinephrine2回以上使用(OR, 4.82; 95% CI, 2.70-8.58)
(J Allergy Clin Immunol. 2020 Apr;145(4):1082-1123.)

 

やっぱりアドレナリンは早めに投与しておくのが吉なように思います。

 

二相性反応発症の半数が10時間以上経過してからというのは興味深いと思いました。

さらに、二相性反応を発症した症例のほとんどが非重症でした。

これまでアナフィラキシー発症後の経過観察時間は軽症であれば4-6時間くらいにしていましたが、どんな重症度であっても入院して1泊(ないしは2拍…若い患者だと飽きてしまいそうですが)経過を見るくらいの方がよいかも。

 

二相性反応の重症度は軽症だけではなく、selflimitingでない場合も相当数あったため、本当は全例入院がいいんでしょうね(空床あれば…)。

あ~、空床がないなぁ。

 

 

まとめ

アナフィラキシーの二相性反応発症率は6.3%
・アドレナリン使用が二相性反応発症のリスク軽減因子になる
・二相性反応発症した患者の半数以上が10時間以上経過してからであり、適切な経過観察時間は不明瞭なままである
・二相性反応による死亡はなかったが、アドレナリン投与を要する重症例が相当数ある
 

 

以下にアナフィラキシーガイドライン2020のまとめを貼っておきます!

 

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