りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

アナフィラキシー EAACI ガイドライン

EAACI : European Academy of Allergy and Clinical Immunology より、

アナフィラキシーガイドラインAllergy誌に掲載されました。

 

Muraro A, et al ; European Academy of Allergy and Clinical Immunology, Food Allergy, Anaphylaxis Guidelines Group. EAACI guidelines: Anaphylaxis (2021 update).

Allergy. 2022 Feb;77(2):357-377.

PMID: 34343358.

 

毎年のようにどこからかアナフィラキシーガイドラインが出ています。

今回はEAACIからのガイドラインです。

 

緊急時の対応についてはあまり変わり映えがありませんが、

・トリプターゼ

・鑑別疾患

・観察期間~特に長時間観察を必要とする患者群

などについての記載があり、面白かったです。

 

また、長期的なかかわり方についてもガイドされていて、より内科医向けかなと思いました。

※本ブログではこの分野は紹介しませんので本文を見てみてください

 

 

※これまでにも以下のガイドラインを本ブログで紹介しました。

 

appleqq.hatenablog.com

 

appleqq.hatenablog.com

 

いずれも読みやすいかつ実践的なためオススメです!

医療従事者は全員必見のガイドラインです!

 

本記事を読んだら、上記記事にも目を通してアナフィラキシーで困らないようにしましょう。

 

 

 

アナフィラキシーの診断

★診断基準を使用することを提案する
 
そりゃそうよねと思います。
 
これまでのガイドラインとここはあまり変わりがありません。
 
次の3つのうち1つでも該当すれば可能性が高い
1)数分~数時間単位で急性発症する皮膚/粘膜症状(全身蕁麻疹/掻痒感/紅斑/口唇や舌の腫脹)+以下のいずれか
 a)呼吸器症状:呼吸困難/wheeze/stridor/PEF低下/低酸素血症
 b)血圧低下または臓器障害を疑う徴候(失神/失禁など)
2)アレルゲンと接触後数分~数時間以内に、以下の2項目以上が認められる
 a)皮膚粘膜症状:全身蕁麻疹、掻痒感、口唇や舌の腫脹など
 b)呼吸器症状:呼吸困難/wheeze/stridor/PEF低下/低酸素血症など
 c)血圧低下または臓器障害を疑う徴候(失神/失禁など)
 d)持続する消化器症状:腹痛や嘔吐など
3)アレルゲンと接触後数分~数時間以内に血圧が低下する
 a)幼児~小児:年齢に応じた血圧より低値または30%以上の血圧低下
 b)成人:sBP<90mmHgまたは普段より30%以上低下
 
診断基準はそらで言えるように確実に覚えなくてはなりません。
 
 
このガイドラインの目を引くところは以下の項目です。
 
★血清トリプターゼを測定せよ
 
UpToDateとかには記載があることは知っていましたが、これまではほとんど無視していました。
 
ガイドラインに記載されるのであれば測定してみようかと思います。
適切に専門医につなぐ際になにかの参考になるのでしょう。
 
アナフィラキシーの後方視的診断のために、発症から30分-2時間後に血清トリプターゼを測定し、症状が完全に消失してから少なくとも24時間後にベースラインの血清トリプターゼを測定することを提案する
 
トリプターゼ高値であることを証明することで、
後方視的にアナフィラキシーの診断をつけることに役立ちます。
 
血清トリプターゼ > baseline×1.2+2mcg/L
であればアナフィラキシーの診断になります。
 
トリプターゼ使用に際しては以下の注意点があります。
・発症から2時間以上経過後に採取した場合にも上昇していることはある
・血清トリプターゼは肥満細胞障害や遺伝性αトリプターゼ血症との関連がある
 →症状が消失してから少なくとも24時間後の基準値と比較することが重要
・トリプターゼは常に上昇するわけではない
 ◦特に小児や食物誘発性の場合には上昇しないことがある
・トリプターゼ上昇がないからといって除外はできない

 

急性期の診断に使ってはいけません。
すぐに検査結果が出ないので使おうとは思わないでしょうが。
 
★他の疾患を鑑別せよ
 
●皮膚粘膜症状
・慢性再発性蕁麻疹
・血管浮腫
・花粉食物アレルギー症候群
●呼吸器症状
・急性喉頭蓋炎
・気管異物
・喘息
●循環症状
・血管迷走神経反射
・肺塞栓
不整脈-心原性失神
●薬理学的
●精神/神経疾患
・不安障害、パニック障害
・身体表現性障害
・解離性/転換性障害
・脳血管疾患
●内分泌
甲状腺クリーゼ
・カルチノイド症候群
・褐色細胞腫
 
普段は以下のガイドラインの鑑別診断の表を参照しています。
 
 

緊急時のマネジメント

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★治療の第一選択はアドレナリン筋注

 

これは常識すぎて解説の余地がありません。

 

「大腿外側中央部」に「0.01mg/kg筋注」を「なるはや」です。

三角筋や皮下注では血中濃度上昇が上記に比較して劣ります。

 

とにかく疑ったらできるだけ早めに筋注しましょう。

 

アドレナリンシリンジから、その場で必要量以外を捨てて、

23G針をつけてザクッと筋注しましょう。

 

これからの季節は大丈夫でしょうが、冬でたくさんの服を着こんでいて脱がせるのが大変とか、ズボンを下げるのが難しいくらい状態が悪いとか太っているなんて場合には消毒なんかも省略してブスッと行きましょう。それくらい大急ぎです。

なお、重度の汚染がない場合には上記対応をしても感染の心配はありません。

 

アドレナリン筋注を早めに行うことで治療がスムーズに進みますし、
二相性反応リスクを減少させられる可能性があるとされています。
 
ガイドラインでは、アドレナリン投与量として以下が紹介されています。
 
・アドレナリン初回投与量
 ◦小児(25-30kg未満):0.15mg筋注
 ◦成人または小児(25-30kg以上):0.3mg筋注
 
・5-10分間で改善がない場合には再度アドレナリン筋注
 ◦この場合には成人に対しては0.5mg筋注に増量
 
 
成人に対しては、
1回目:0.3mg筋注 → 2回目以降:0.5mg筋注 なんですね。
 
 
これまでのガイドラインを見てくると、
アドレナリン投与量はまちまちです。
 
実は、アナフィラキシーにおけるアドレナリンの至適用量はわかっていません。
 
多くの場合には0.3mg筋注が選択されていると思います。
これまでの報告でも、0.3mg筋注は多くの場合に有効であることがわかっているという事実から、本ガイドラインでも0.3mg筋注を推奨しています。
 
ただし、以下の場合にはより高用量の0.5mgを考慮するとされています。
・高度肥満
・以前に生命を脅かすようなアナフィラキシーの既往がある
・重症
 
個人的には、0.01mg/kgを筋注することを覚えておいて、
・小児:ある程度真面目に計算もしくは年齢でcutoff
・成人:普通の体格なら0.5mg筋注、痩せていたら0.3mg筋注
というようにざっくり考えています。
 
 
アドレナリン筋注に効果がない場合には、
アドレナリン静脈内投与を行うことになりますが、本ガイドラインでは具体的な投与量の記載はありませんでした。
 
具体例は、以下を参照してください

appleqq.hatenablog.com

 

★輸液を忘れずに!

アナフィラキシーは血管分布異常を起こす疾患なので、

十分な輸液が必須です。

 

輸液は晶質液を選択して投与します。

 

投与は基本ボーラス投与で以下の投与量が推奨されていました。

・小児(25-30kg未満):10ml/kg(max 500ml);必要に応じてrepeat
・成人または小児(25-30kg以上):500ml bolus;必要に応じてrepeat
 
血管分布異常が起きているためしっかり輸液を行う必要があります。
忘れがちになっていることがあるので、しっかりやりましょう。
循環の改善に必須です!
 
「アドレナリン初回投与と同時に晶質液をボーラス投与すること!」
 
 
★吸入?ステロイド?抗ヒスタミン薬?
 
普段はあまり吸入薬を使用していませんでしたが、
ガイドラインでは以下が推奨されていました。
 
・stridorがある場合
 ◦アドレナリン1mg+生食4ml吸入
 
・wheezeがある場合:サルブタモール吸入
 ◦小学生~成人:5mg吸入
 ◦未就学児:2.5mg吸入
 
う~ん、まぁやってみてもいいかも。。。
あまり忙しいときに吸入薬とかって出しづらいんだよな。
 
 
また、皮膚症状がある場合には抗ヒスタミン薬を投与してよいです。
 
ただし、症状を改善させるだけでアナフィラキシー自体の治療ではないので注意してください。
ヒスタミン薬の急速投与により血圧が下がることもありますし、病態的に余裕が出てきたときに考えましょう。
 
高齢者は転倒を誘発することもあるためあまり投与しない方がよいかもしれません。
 
 
みんな大好き!ステロイドについても記載がありました。
 
ステロイド投与は二相性反応を予防するという考えからよく使用されているが、効果は限定的であり、小児では有害になる可能性がある」
 
個人的にはもう使っていません。
 
 

経過観察期間

ガイドラインでは経過観察期間は以下のように設定されていました。
・呼吸困難…6-8時間
・低血圧…12-24時間
 
より長時間のモニタリングを必要とする患者として以下が提案されていました。
 
●患者因子
・喘息患者
・夕方~夜間に受診/悪化した場合に対応困難な患者
・救急医療へのアクセスが困難な地域の患者
・二相性反応の既往がある患者
●二相性反応リスク
・多臓器にまたがる病変がある
重篤な呼吸器症状がある
・2回以上のアドレナリン投与を要した
・食物など、アレルゲンの吸収が持続しうる場合
・誘因不明な場合

 

病棟に余裕があるのであれば、一泊入院モニタリングが無難と思います。
午前中に来院した軽症患者では、昼過ぎに帰してしまうこともありますけど。
 
 

その他、留意点

 
帰宅または退院させるときにはアドレナリン自己注射の処方を行いましょう。
打つタイミングについてしっかり教育が必要です。
薬剤師の協力を得て、説明、使い方の練習などもしてもらいましょう。
 
 
また、必要に応じて専門医に紹介しましょう。
特に特発性アナフィラキシーの場合には重要で、
α-gal症候群や医薬品の添加物などが原因になっていることもあるので、
あまりはっきりしない原因のアナフィラキシーでは紹介しておくのが無難です。