血管性浮腫のreviewが出ていましたので紹介します。
Pines JM, et al. Recognition and Differential Diagnosis of Hereditary Angioedema in the Emergency Department.
J Emerg Med. 2021 Jan;60(1):35-43.
PMID: 33218838.
※上記はopen accessなので無料でご覧いただけます
しばしばERでも遭遇して、主にアナフィラキシーや急性腹症との鑑別を要することがあり、個人的には夜中に遭遇することが多くて悩ましい疾患です。
定義/分類
・血管性浮腫(angioedema:AE)は皮膚の皮下組織や呼吸器/消化管の粘膜下層の局所的な腫脹による
・腫脹は皮膚や粘膜のより深層での血管透過性亢進によって血管から間質への体液漏出が起きることで出現する
・他のタイプの浮腫と異なり、AEは一過性(1週間以下)/nonpitting/重力に依存しないという特徴がある
・AEには種類があり、それぞれ病因や臨床経過、治療が異なる
名称
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病因
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発生率
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臨床的特徴
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Allergic/histaminergic AE
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・アレルギー反応…肥満細胞の脱顆粒/ヒスタミン放出
・食品や薬物、ラテックスなど
・異常な温度、身体活動、振動、紫外線などにより引き起こされることもまれにある
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よくある
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・蕁麻疹や掻痒感を伴う
・腫脹は急激に発症する
・抗ヒスタミン薬に反応し、約24時間以内に改善する
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HAE
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・C1-INH活性の欠損につながる遺伝子変異によって、過剰なbradykinin産生が起きる
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50000人に1人
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・数時間~数日続く再発性の血管性浮腫
・掻痒感や蕁麻疹は伴わない
・症状は通常小児期に発症する
・多くの場合、同様の家族歴がある
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AAE
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C1-INHの非遺伝的欠損
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かなりまれ
10万~50万人に1人
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・HAEと類似した症状
・発症は30歳前後が多い
・多くの場合、リンパ増殖性疾患、自己免疫疾患、悪性腫瘍、C1-INH抗体などに関連
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ACEi-induced AE
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非アレルギー性AEで最多
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・ACEi内服中の患者の1%未満に発症
・ACEiを内服してから数週間~数年間で発症することがある
・アフリカ系アメリカ人や免疫抑制状態で最もリスクが高い
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特発性
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よくわかっていない
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・ヒスタミン作動性
…よくある
・非ヒスタミン作動性
…まれ
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・再発性の腫脹は蕁麻疹や掻痒感との関連があるとは限らない
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※AAE:acquired angioedema(後天性血管性浮腫), HAE:heredity angioedema(遺伝性血管性浮腫)
・発症部位により生命に危険が及ぶ可能性があり、迅速な評価と治療を要する
ここで派手な症例を見ておきましょう。
(N Engl J Med. 2012 Oct 18;367(16):1539.)
(Int J Emerg Med. 2017 Dec;10(1):15.)
鑑別診断と検査
・浮腫自体の鑑別としては以下が挙げられる
◦蕁麻疹
◦静水圧の上昇による浮腫(心不全、腎不全など)
◦感染症
・ERで遭遇するAEの多くはアレルギー性または特発性である
・Bradykinin-mediated AEは多くはない
・ただし、アレルギー性のhistamine-mediated AEと非アレルギー性bradykininmediated AEを区別することは治療が異なるため重要性が高い
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mast cell-mediated
(histamine)
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bradykinin-mediated
acquired
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bradykinin-mediated
HAE
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発症速度
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数分
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数時間
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数時間
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改善までの時間
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数分~数日間
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数日
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数日
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発症年齢
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いつでも
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30歳代
ACEi-AAEでは50歳代
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しばしば10歳代
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発症部位
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顔面、頸部
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口唇/舌/口蓋垂/上気道
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顔面/四肢末梢/上気道/消化管
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家族歴
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なし
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なし
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あり
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誘発因子
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アレルゲン
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薬物
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原因/増悪させる薬物
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NSAIDs |
ACEi/ARB/gliptin/sacubitril
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ACEi/エストロゲン
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・AEの病因を探るには病歴/身体所見と家族歴が重要
・病歴として重要なのは以下の項目
◦症状の発症の仕方
◦発症時になにをしていたか
◦薬剤処方歴…特にACEiなど
◦アレルゲンへの曝露
◦同様の症状の既往
◦同様の症状の家族歴
◦立ちくらみ/息切れ/掻痒感などの症状の有無
◦最近の外傷歴…歯科治療や手術など
・histamine-mediated AE vs bradykinin-mediated AEを区別するのに有用な所見は以下
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histamine-mediated
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bradykinin-mediated
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発症様式
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急速に発症
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数時間かけて進行し、数日間持続
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蕁麻疹/掻痒感
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あり
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通常なし
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・喉頭浮腫は他の部位の浮腫に比較して頻度は低いが、HAE患者の約半数が人生で1度は経験するとされる
・喉頭浮腫はわずか15分で致命的な窒息を引き起こす可能性がある
・HAEの確定診断が付いていない場合には警戒が下がり死亡リスクが高くなる可能性がある
・HAE患者の93%に発症しうる腸管浮腫は急性腹症と鑑別を要する
◦重度の腹痛、下痢、嘔気嘔吐、腹水などが出現しうる
‣不適切な試験開腹を受けていることが指摘されている
◦薬物探索行動と推定されて治療が遅れたという報告もある
・HAEのほとんどの患者で同様の症状の家族歴があるが、25%は新規に発症する
◦家族歴の欠如により除外することはできない
・(ERではあまりオーダーされていないが)C4およびtryptase検査はHAEとアナフィラキシーの鑑別に有用
◦C4…急性HAEの際に低下し、C1-INH欠損症のスクリーニングとして有用
◦tryptase…HAEでは正常、アナフィラキシーでは上昇
◦急性発作中の検査は鑑別に有用である可能性があるためできれば提出すること
・ACEi誘発性AEはERでよく見かけるタイプのAEであり、米国では急性AEの約30%を占める
◦48-72時間持続する掻痒感のない紅斑が特徴的
◦ACEが阻害されるとbradykinin代謝が低下し、bradykinin濃度が上昇することによる
◦ACEi投与患者の0.1-0.2%と低率だが、人種間や性別(女性で多い)により発症率は異なる
◦必ずしも新規処方によるとは限らず、数か月~数年内服している場合でも発症する
マネジメント
・評価はいつでもABCの評価から入る
・AEが頭頚部や肺に発症している場合/低血圧や低酸素血症がある場合には迅速に蘇生に移ること
◦唇と舌が腫脹している場合、中咽頭へのアプローチが困難であるため経鼻挿管が推奨される
‣特にbradykinin-mediated AEでは軽度の侵襲でも喉頭浮腫を悪化させる可能性がある
・AEの原因が明確でなく、気道緊急が疑われる場合にはまずアナフィラキシーの治療を開始するのがよい
・bradykinin-mediated AE(ACEi/後天性AE/HAE)はアナフィラキシー治療に反応が乏しい
◦とはいえ、HAEの診断が付いている/明らかにACEi誘発性AEである場合以外にはそれらを区別することは不可能なのでまずはアナフィラキシーとしての対応になる
・ERで上記治療を試みて、それへの反応性によってbradykinin-mediated vs histaminemediated AEの鑑別の一助になりうる
・腫脹が手足だけの場合(HAEにしばしばみられる)には蘇生は要さないが、症状の進行がないか頻回な評価はしておいた方がよい
・HAEでしばしば発症する腹痛は、鎮痛薬や制吐剤などにより緩和される可能性がある
・十分な輸液は、体液の漏出やアナフィラキシー関連AEによる低血圧で必須である
histamine-mediated AE
・アレルゲンまたは原因となる薬物が判明している場合には中止する
・気道の浮腫や低血圧があればアドレナリン筋注
・抗ヒスタミン薬やcorticosteroidも使用可能だが、効果発現は遅い
◦H1拮抗薬のジフェンヒドラミンは腫脹抑制のため経口または経静脈投与可能
‣他の世代のH1拮抗薬を組み合わせて使用することも可能
◦H2拮抗薬は蕁麻疹の軽減に有用
◦H1+H2拮抗薬の併用は有用で、AEの病因が不明の場合には適切な対応となる
◦corticosteroidは短期的に腫脹を軽減する効果は乏しいが、リバウンド反応を抑制することが可能かもしれない
・上記により改善しないAEではbradykinin-mediated AEを考慮する
bradykinin-mediated AE
・後天性/ACEi誘発性/遺伝性血管性浮腫などがこのカテゴリーに入る
・bradykinin–kallikrein経路を標的とする新薬を使用可能
◦この薬剤はHAEの治療についてのみFDAで認められている
◦ACEi誘発性および後天性AEを含む他のタイプのbradykinin-mediated AEへの有効性を検証する研究が進行中
ACEi-induced AE
・支持療法が基本になり、気道緊急があれば気管挿管を要することがある
・ACEiの内服を中止すること
・ACEi誘発性AEに対して有効な治療はいまだになく、HAEへの特異的治療の使用を裏付けるデータはほとんどない
・icatibantで治療された患者はglucocorticoid+抗ヒスタミン薬で治療された患者よりも迅速な改善が見られたとする研究はあるが…
◦icatibantとplaceboを比較した他の試験では有効性が認められなかった
・C1-INHを含むFFPは容量負荷には有効であるが、ウイルス感染/アレルギー反応/容量負荷などのリスクがある
HAE
・HAE治療の概略は以下
治療薬
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作用
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投与方法
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ecallantide
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plasma-kallikrein inhibitor |
皮下注
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icatibant
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選択的bradykinin-B2 receptor antagonist
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皮下注
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Berinert
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C1-INH補充
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静注
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Ruconest
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C1-INH補充
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静注
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C1-INH補充
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静注
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・2018年に発表されたWorld Allergy Organization Guidelineでは以下の薬剤が推奨されている
◦C1-INH
◦icatibant
◦ecallantide(アナフィラキシーリスクが高い)
◦容量負荷が可能
◦C1-INHを含有
◦約30-90分で症状の改善が得られうる
◦しかも、上記薬剤よりは安価に入手可能
HAEの発作予防
薬剤名
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作用
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投与方法
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androgen
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C1-INH合成の増加
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経口
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Cinryze
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C1-INH補充
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静注
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Haegarda
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C1-INH補充
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皮下注
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lanadelumab
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plasma-kallikrein inhibitor
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皮下注
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・短期的/長期的にHAEの発作の頻度と重症度を軽減させることが目標になる
・ERでHAEと新規に診断された患者は、継続的な管理のためにアレルギー専門医に紹介する
・C1-INHの皮下/静脈内注射はHAE発作の予防に好ましい長期予防の選択肢になっている
・lanadelumabは2018年のガイドラインが発表された後に承認された
・androgenも使用可能だが、副作用が多く使用が制限される
◦多毛症、体重増加、月経不順、肝機能異常、肝腫瘍など
帰宅基準
・AE発作がピークに達してから少なくとも4-6時間はERでの経過観察を要する
・発作が軽度で、ERでの観察中に増悪がない場合には帰宅を考慮してよい
・浮腫が顔面/口唇/軟口蓋に限定的で、舌浮腫や喉頭浮腫の証拠がない場合、気道確保が必要になることはあまりない
◦この場合には外来管理またはモニタリングのために一般病棟に入院でもよい
・退院基準は診断されたAEの種類によって異なるが、それぞれに推奨される再発予防策を講じること
◦アレルギー性AE…エピペン処方、アレルギー専門医への紹介
◦ACEi誘発性AE…ACEi中止を指導して、将来的にこのクラスの薬剤使用を避けること
◦HAE…専門医に紹介、発作の際に使用する治療薬について指導を受けること
まとめ
・血管性浮腫は皮膚や粘膜の深層での血管透過性亢進により血管から間質への体液漏出が起きることで出現する
・他の浮腫性疾患とは異なり、一過性(1週間以下)/nonpitting/重力に依存しないという特徴がある
・大きくhistamine-mediated(アレルギー性)とbradykinin-mediated(非アレルギー性)に分類される
・これらを分類することは治療法/管理が異なるため有用である
・histamine-mediated AEは数分単位で急激に発症/蕁麻疹や掻痒感を伴う/何らかのアレルゲンや薬剤などの誘因がありうる
・bradykinin-mediated AEでは数時間かけて進行/蕁麻疹や掻痒感がないことが多い
・bradykinin-mediated AEはHAE/ACEi-induced/acquiredなどのタイプがある
・HAEでは90%以上が腸管浮腫を発症し急性腹症との鑑別を要する
・ACEi-induced AEではERでみる最多のAEであり、内服から数年してから発症することもあるため注意
・ERでは鑑別目的でC4やtryptase(疑えばC1-INHも)を提出しておくのがよい
・まずはABCの評価から入ること
・気道確保は経鼻挿管が好ましい。特にbradykinin-mediated AEでは軽微な刺激でも急激に腫脹が進行するため注意
・まずはアナフィラキシーとして治療を開始してしまうのがよい。その反応性が悪い場合にはbradykinin-mediated AEが疑われる
・HAEに特異的な治療はあるが(Berinertなど)、入手が困難であればFFPで治療開始することも可能