りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。

アナフィラキシーガイドライン2020

アナフィラキシーガイドラインの最新版が出ました!

 

Marcus S Shaker. et al. Anaphylaxis-a 2020 Practice Parameter Update, Systematic Review, and Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation (GRADE) Analysis

J Allergy Clin Immunol. 2020 Apr;145(4):1082-1123.

 

非常に読み応えのあるガイドラインでした。

 

アナフィラキシー治療後の経過観察時間はどれだけ?

二相性反応ってよく聞くけどどんな人がリスクなの?

 

上記に少しでも疑問があれば読んでみる価値アリです!

 

アナフィラキシーの診断

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診断についてはこの図に全てが凝縮されています。

でもなんでこんな怖い感じの人?ゾンビ?を載せたんでしょうか…(笑)

 

アナフィラキシーを疑う状況についての推奨はこれまでと変わりません。

 
以下のうち、1項目を満たす場合にはアナフィラキシーの可能性が高い
①突然発症(数分~数時間)の皮膚粘膜症状+以下のいずれかを満たす
 ・呼吸器症状
 ・低血圧または臓器還流障害
②何らかのアレルゲンに曝露後(数分~数時間)+以下のいずれか2項目以上を満たす
 ・皮膚粘膜症状
 ・呼吸器症状
 ・低血圧または臓器還流障害
 ・消化器症状
③既知のアレルゲンに暴露後(数分~数時間)の血圧低下
・皮膚粘膜症状…全身蕁麻疹、掻痒感、紅潮、口唇/舌/口蓋垂の腫脹など
・呼吸器症状…息切れ、wheeze、咳嗽、stridor、低酸素血症など
・低血圧または臓器還流障害…失神、失禁など
※低血圧…成人:BP<90mmHgまたは普段より30%以上低下/小児:年齢別血圧より30%以上の低下
・消化器症状…腹痛、嘔吐など
 
よく間違えやすいのが、「蕁麻疹がないからアナフィラキシーではありません」です。
上記を見てもらえればわかるように、アナフィラキシーの診断に皮膚粘膜症状は必須ではありませんので、併せて確認してください。
 

アナフィラキシーの治療

・epinephrineの推奨投与量は0.01mg/kg最大用量は成人0.5mg/小児0.3mgとする
アドレナリンは十分量を用いるようにします。投与量が少ないと二相性反応を引き起こすリスクにもなります。
なお、最大投与量はあるので、特に小児では注意が必要です。
 
・症状や徴候に応じて5-15分で反復投与可能
症状が改善するのを見届けるまではその場を離れてはいけません。
手に汗とアドレナリンを握りしめて患者さんの様子を観察します。
 
大腿前外側への筋注が推奨
大腿前外側へ筋注により最大血中濃度に10分未満で達すると報告されています。
上腕三角筋外側への筋注や皮下注よりも、大腿前外側筋注は平均最大血中濃度が高く効果発現が速いことも報告されているので、場所は大腿前外側です。気をつけの姿勢で立って指先が触れているくらいのところに注射します。
皮下注ではなく、筋注が推奨されています。最大血中濃度までに筋注では8±2分、皮下注では34±12分もかかります。
 
これが意外だったのですが、実は大腿への筋注 vs 皮下注の比較研究は完了していません。これから研究がされるのでしょうけど、現時点での推奨は筋注で決まりです。
 
・アドレナリン筋注や生理食塩水点滴への効果が不十分な場合には、持続静注も可能
アドレナリン1mg/1ml+生食1000mlを用意します。
2mcg/min:2ml/min(120ml/hr)で開始し、最大10mcg/min:10ml/min(600ml/hr)まで増量可能とされています。血圧、心拍数、酸素化などに応じて増減します。焦るとわからなくなるので事前にプロトコルを決めておくといいと思います。
 
生食1000mlバッグがERにないので、個人的には生食100ml+アドレナリン1Aを作って全開投与してしまいます。状態の改善とともにすぐにやめます。
 
ここには記載されていませんでしたが、βblocker内服中患者ではアドレナリンへの効果が出づらいので、グルカゴンを静注することを覚えておくと良いです。
 
・リスクの高い患者(多数の基礎疾患を持つ高齢者、心疾患、肺高血圧症、エピネフリ
ン関連心筋症既往など)では慎重になる必要があるが、アドレナリン投与の絶対的な禁忌はない
 
・治療を行なわなくとも完全に症状が自然と改善してしまうこともあるが、この機序はわかっていない
・ただ、自然に治るタイプか致命的になるタイプなのは事前にはわからず、epinephrineを迅速に投与することのbenefitは明らかであることから、治療を差し控えることはしてはならない
上記診断基準に当てはめて、「怪しい!」と思った段階で軽症でもアドレナリン筋注してしまうのが吉!虚血性心疾患には禁忌なのでは?と思う人もいると思いますがアナフィラキシーによる症状の方がリスクがよっぽど高いです。
 
・antihistaminesは蕁麻疹や掻痒感への対応としては考慮してよい
・小児ではglucocorticoids使用が二相性反応のリスクを高める可能性も指摘されている
ヒスタミン薬やステロイドアナフィラキシーの治療として用いるのはNGです。
あくまで対症療法のための手段です。
 
・glucocorticoidsは二相性反応のリスクを減ずるという明確な根拠なし
 ◦OR, 0.87; 95% CI, 0.74-1.02
・antihistaminesについてもglucocorticoidsと同様の結果であった
 ◦H1 antihistamines…OR, 0.71; 95% CI, 0.47-1.06
 ◦H2 antihistamines…OR, 1.21; 95% CI, 0.80-1.83
アナフィラキシーに対してステロイドを入れることはここ数年していませんでしたが、確かに特に問題になることはありませんでした。
 
治療で重要なのは、epinephrineを迅速に迷わず十分量筋注することです。
あとはvolume lossがあるのでしっかり細胞外液を点滴することくらいでしょうか。
 
 
 

二相性反応のリスク因子は?

推奨のまとめは以下です。
・重症度やepinephrineの使用回数をガイドに用いることを提案する
(Conditional recommendation. Certainty rating of evidence: very low.)
・重症アナフィラキシーやepinephrineを2回以上使用した患者では、アナフィラキシーへの対応ができる環境で経過観察することを提案する
(Conditional recommendation. Certainty rating of evidence: very low.)
 
・二相性反応のリスクを上昇させる因子は以下
・18歳未満の薬剤性アナフィラキシー(OR, 2.35; 95% CI, 1.16-4.76)
・原因不明のアナフィラキシー(OR, 1.63; 95% CI, 1.14-2.33)
・皮膚症状を呈するアナフィラキシー(OR, 2.54; 95% CI, 1.25-5.15)
・脈圧増大(OR, 2.11; 95% CI, 1.32-3.37)
重症アナフィラキシー(OR, 2.11; 95% CI, 1.23-3.61)
・glucocorticoidsで治療された18歳未満(OR, 1.55; 95% CI, 1.01-2.38)
epinephrine2回以上使用(OR, 4.82; 95% CI, 2.70-8.58)
 
上記の中でも特に「重症」「epinephrine複数回使用」は要注意です!
 

治療後はどのくらいの経過観察すべきか?

アナフィラキシー治療後の経過観察期間については明確なエビデンスがなく、
国際的な取り決めもない状況です。
 
ガイドラインの推奨は以下のようになります。
 
重度のアナフィラキシーの場合(低血圧、脈圧増大、epinephrine2回以上投与など)にはextended observationを推奨
※ここでのextended observationとは6時間の経過観察を指します。
 
たった6時間でいいの?
慣習的に1泊2日くらいしている施設が多いのではないでしょうか?
 
病床があるなら1泊2日で経過を見るのもいいかな~と思いますが、
費用対効果の観点から6時間程度でよいのではないかと言われています。
 
・最近のmeta-analysisによれば、二相性反応発生の陰性的中率が以下のように報告
 ◦1時間…NPV95%
 ◦6時間以上…NPV97.3%
これを根拠にして「6時間」が提唱されているみたいです。
 
・extended observationすることによる恩恵は…
 ◦重症アナフィラキシー…NNT41
 ◦epinephrine複数回使用…NNT13
 
この流れを受けて、推奨が出来上がりました。
・以下の患者ではextended observationを行うことが費用対効果に優れている
 ◦重症アナフィラキシー/複数回のepinephrine使用
 ◦重篤な併存疾患がある(重度の呼吸器疾患や心疾患)
 
低リスクの患者では二相性反応が発症する可能性は5%未満
重症ではなくepinephrine単回投与により即座に改善した場合には、1時間の経過観察でよさそう
1時間!そんな短期間で帰宅させる勇気はありませんケド…。
 
朝1番に受診したアナフィラキシー患者は重症であっても最短で夕方には帰宅可能、ということになります。これまでのプラクティスを見直すきっかけになるかもしれませんね。
 

 まとめ

アナフィラキシーの診断基準を覚えておくこと。皮膚粘膜症状は必須ではない。
・初回アナフィラキシーまたは二相性反応に対して、epinephrine筋注を第一選択薬として使用すること。投与量は0.01mg/kg(成人0.5mg、小児0.3mgまで)。
・epinephrine筋注が効かないときには持続静注を考慮する。
・Antihistaminesやglucocorticoidsは二相性反応予防には効果がないが、二次治療として考慮してもよい
・重症アナフィラキシーやepinephrine複数回使用は二相性反応のリスク因子である。
・二相性反応リスクとして、脈圧増大/原因不明/皮膚症状/小児における薬剤性アナフィラキシーも挙げられる。
・重症アナフィラキシー/epinephrine複数回使用の場合には、extended observation(6時間)が推奨される。軽症かつepinephrine単回投与で症状がなければ1時間の経過観察でよいかもしれない。