病歴/身体所見
・34歳男性
・背部の手術歴あり
・全身の蕁麻疹、息切れのため救急要請
◦自宅でシャワーを浴びて冷たい空気に当たったところ倒れてしまい家族に発見された
・家族によれば「寒さにアレルギーがある」とのこと
・寒冷蕁麻疹に対してエピペンが処方されたこともあったが、アナフィラキシーはなかった
・救急隊接触時、蕁麻疹/呼吸音減弱/冷汗/skin mottlingを認めた
◦BP84/60mmHg, HR60bpmでありアナフィラキシーショックが疑われた
・救急隊により酸素投与、アドレナリン0.3mg筋注×2回、diphenhydramine50mgIVされた
・上記治療への反応が不良であったため、アドレナリン持続静注が開始され、BP108/80mmHg, HR60bpmまで改善
・ER到着時、冷汗と全身の蕁麻疹は明らかであった
◦呼吸音は減弱、wheezeなし
・ERでは、methylprednisolone 125mgIV, famotidine 20mgIV, 生食1000mlが投与された
◦臨床的改善があったためアドレナリン持続静注は中止された
・検査結果は特記すべき異常はなかった
診断
寒冷刺激によるアナフィラキシーショック
・ice cube testは陽性であり、寒冷蕁麻疹の暫定診断がされた
◦氷が置かれた皮膚は5分後に蕁麻疹を発症した
・入院後臨床的改善が得られ、寒冷への曝露に注意するよう指導されて退院となった
・寒冷蕁麻疹の発症率には性差はない
(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2008 Dec;22(12):1405-11.)
・軽度の蕁麻疹~重度の臓器障害を来すようなアナフィラキシーショックまでさまざまな症状を呈する
・寒冷蕁麻疹は後天性または遺伝性の要素がある可能性がある
◦遺伝性…常染色体優性遺伝し、通常は生涯持続する
◦後天性…しばしば若年成人期に発症し、症例の半数は5年後に改善または寛解する
◦医原性…冷えた点滴を投与することにより生じる
(Cutis. 2016 Jan;97(1):59-62./Acta Derm Venereol. 2013 Jul 6;93(4):469-70./Hautarzt. 1996 Jul;47(7):510-4.)
・多くの場合では寒冷蕁麻疹として慢性的または再発性の皮膚所見のみが見られ、重大な全身合併症や血行動態不安定になることはまれ
・冷水への曝露を避けるよう指導しなければならない
◦意識消失による溺水や低体温症リスクが高まる
(J Allergy Clin Immunol. 1986 Sep;78(3 Pt 1):417-23.)
・もちろん、寒冷刺激一般への曝露を予防するよう指導することも大切
(Cutis. 2016 Jan;97(1):59-62.)
・一部の患者では、抗ヒスタミン薬により予防可能
(J Investig Allergol Clin Immunol. Sep-Oct 1992;2(5):258-62.)
・アナフィラキシー発症リスクがあるためエピペンを処方し、使い方に習熟させるべし
・寒冷アナフィラキシーは環境曝露により再発するため、トリガーとして認識して対応することは臨床的に重要な意味を持つ
・寒冷蕁麻疹(アレルギー)診断の方法はさまざまあるが、ice cube testが最も簡便
◦患者の皮膚に3-5分間氷を置き、局所蕁麻疹の発生を確認するだけ…感度83%
(Cutis. 2016 Jan;97(1):59-62./J Allergy Clin Immunol. 2004 Nov;114(5):1224-5.)
原因がよくわからないアナフィラキシーの中にこの診断が隠れているかもしれません。
アナフィラキシー周辺の知識確認は以下をご参照ください。
まとめ
・寒冷刺激だけがアナフィラキシーショックのトリガーになることを認識しておく