りんごの街の救急医

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外傷性気胸マネジメント(Western Trauma Association ver.)

外傷性気胸のマネジメントに関する推奨が出ていました。

 

にわかに信じがたい記載と、怪しげな参考文献だったので

個人的には「う~ん」という感じですが、

こういう推奨もあるのか、と勉強になりました。

 

de Moya M, et al. Evaluation and management of traumatic pneumothorax: A Western Trauma Association critical decisions algorithm.
 J Trauma Acute Care Surg. 2022 Jan 1;92(1):103-107.
PMID: 34538823.

 

 

本文を読んでもすっと入ってくるような感じではなかったので、

一旦推奨項目をまとめておくことにします。

 

・循環動態が安定している外傷性気胸(CTで35mmが基準)の9割は保存的加療が成功する
 ◦ただし、10%では治療失敗の可能性があることを認識しておくこと
・保存的加療を選択する場合には、6時間以内にCXRを再検すること
・陽圧換気の有無/穿通性or鈍的外傷かは治療失敗率と関連がないため、安定していれば陽圧換気下であっても保存的治療を選択可能
・チューブは細径を選択してよい
・緊急ドレナージを要するときには予防的抗菌薬を投与すること
 ◦可能なら処置前だが、処置後ただちに投与することも考慮
 ◦24時間でよい
 
上記の推奨がされています。
斬新なところもありますが、ちょっと眉唾に感じました。
 
・occult PTXのうち、約10%は安全に経過観察可能と示されている
 
occult PTX (pneumothorax) とは、CXRでは検出されないけど、CTや超音波で検出される類の気胸を指します。
これは体感的に合うように思います。
 
ここから歴史的変遷が記載されていきます。
 
・Brasselらは、保存的加療なのではないかという概念を陽圧換気を受けている患者に対しても拡大した
 
(J Trauma . 1999 Jun;46(6):987-90; discussion 990-1.)
・occult PTXをCTまたは経過観察群に割り付け
・陽圧換気を受けた患者も対象となった
・39人が対象となり、18人がCT群/21人が経過観察群
 ◦両群で9人ずつが陽圧換気を受けた
・経過観察群で呼吸困難となったり、CTを要する患者はいなかった
 
・この保存的加療のpracticeがovert PTXにも適用されるようになった
 
(J Accid Emerg Med . 1996 May;13(3):173-4.)
・外傷性気胸管理に関するretrospective study
・53人の気胸患者のうち29人が保存的加療となった
 ◦保存的加療となった気胸の虚脱は"small""minimal""moderate"とカルテ記載
 (定量的評価はできていないけどovert PTXの代替なんでしょうか)
 ◦入院後6時間で無症状であったが気胸拡大のため2例でドレナージされた
  ‣27人が保存的加療を受けた
 
(Am Surg . 2008 Oct;74(10):958-61.)
・retrospective study
・59例のoccult PTXが胸腔ドレナージなしに保存的に経過観察された
 ◦保存的加療に成功したのは86%(51/59)
・陽圧換気を行った場合の成功率は80%(16/20)
 
overt PTXでも保存的加療ができそうな雰囲気が出てきました。
また、occult PTXでは陽圧換気も行われちゃうようになりました。
 
・陽圧換気とPTX再発とは関連がない
 
(J Trauma . 2010 Apr;68(4):818-21.)
・PTXまたは血胸に対して胸腔チューブ挿入を要した外傷患者を対象としたretrospective study
・190人234本のチューブが対象となった
・136本(58%)が陽圧換気下に抜去された
 ◦15人(11%)でPTX再発、6人(4%)で再挿入を要した
 ◦抜去前後に、10人(7.4%)でドレーン再挿入を要さない小さなPTXが認められた
・98本(42%)は非陽圧換気下にチューブ抜去された
 ◦16人(16%)でPTX再発、3人(3%)で再挿入を要した
 ◦抜去前後に、25人(25.5%)でドレーン再挿入を要さない小さなPTXが認められた
・全体のPTX再発率差 -5.3%, CI -14.8~3.5
・再挿入率差 1.35%, CI -4.7~6.6
 
この研究をもって、陽圧換気と気胸再発は関連がないとされています。
 
これまでの研究の大きなlimitationの1つとして、
気胸の体積推定とサイズによる分類がないことでした。
 
そこで、豚に対して定量気胸を作るような動物実験から始まり、
虚脱した腔の体積推定ができるようなシステムが開発されました。
 
しかし、一般的な使用までは普及されておらず、
最終的にCTで虚脱率を測って対応する方法が考案されました。
 
 
・CTで胸壁から虚脱した肺まで垂直に引いた線の長さが「35mm」というcutoffが一般的になった
 

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Panam J Trauma Crit Care Emerg Surg. 2015;4(2):48–53.)
・165例のPTXに対する35mm ruleを検証したretrospective study
・CTで確認できた全ての気胸を対象
 ◦有意な血胸がある患者は除外
・保存的加療の失敗をPTX拡大/生理学的な悪化/胸腔チューブ挿入を要した場合と定義
・165例のPTXのうち、148例が35mm以下であった
 ◦10例(6.8%)が直ちに胸腔ドレナージされた
 ◦残りの138例のうち129例(93.5%)は保存的加療を受けた
  ‣6例が気胸拡大のため胸腔ドレナージされた
  ‣3例は気胸拡大とは別の理由(胸水)で胸腔ドレナージを受けた
・35mm以下の148例のうち、27例が陽圧換気を受けた
 ◦このうち、上記6例に入った患者はいなかった(3例の胸水貯留症例には入っていたのかも)
・保存的治療成功を予測する陰性的中率95.7%/ROC0.90
 
これがあって、CTで虚脱35mmをcutoffとして
35mm以下なら陽圧換気下であってもOK
35mm以下であっても10%程度は失敗
が提唱されています。
 
(J Trauma Acute Care Surg . 2019 Apr;86(4):557-564.)
・鈍的または穿通性PTXのいずれかを有する患者257人を対象に35mm ruleを検証
・CTでPTXと診断された患者を対象としたretrospective study
 ◦血胸の合併/CT前に胸腔チューブ留置/機械的換気は除外
・保存的加療の失敗を、最初の週での胸腔ドレナージを要した場合と定義した
・基準を満たした289人のうち、257人(89%)が保存的加療に成功した
 ‣このうち、35mm以下であったのは247人(96%)
・保存的治療成功を予測するPPV 90.8
 
鈍的であっても穿通性気胸であっても35mm以下ならOK論文が上記です。
 
緊急ドレナージの適応についても記載がありました。
別に大したことは書いていません。
 
・緊張性気胸(血行動態の破綻がある)においては、胸腔チューブ挿入を遅らせるべきではない
・緊張性気胸においては針による脱気を行うこともあるが、成功率はいまいち
・指による減圧をし、それに引き続きチューブ挿入を行うのが良い
 
個人的には留置針でのドレナージはしたことがありません。
緊急なら開けてしまう方が早いし、確実でしょう。
 
チューブの太さについても言及がありました。
 
・チューブのサイズは過去数十年で変化してきている
・Inabaらは、細径(28-32Fr)と太径(36-40Fr)でドレナージの効果に有意な差がないことを報告している
(J Trauma Acute Care Surg . 2012 Feb;72(2):422-7.)
・PTXに対して14 Fr pigtail catheter vs 28Fr胸腔チューブを用いた無作為化試験では、ドレナージ能に差はなく、14Fr pigtail群で疼痛が減少した
(Br J Surg . 2014 Jan;101(2):17-22.)
・したがって、手持ちの最細径ドレーンを使用してよい
 ◦argyle tubeではなく、肉厚のチューブを使用すること
  ‣細径チューブのキンクやねじれを制限するため
・大量血胸がある場合にはより太径チューブ(28Fr)留置を検討してよい
 
細径を使用する流れが最近は一般的です。
 
予防的抗菌薬に関しての推奨は以下です。
 
・胸腔チューブ挿入時の予防的抗菌薬は投与することが提案されている
  ‣膿胸発生率減少…1% vs 7.2%
  ‣肺炎発症率減少…4.4% vs 10.7%
・胸腔チューブ挿入前に抗菌薬投与をすることが理想的ではあるが、その限りではない
 ◦処置後に投与する場合には、処置後可能な限り早い段階で投与することを推奨
・抗菌薬の種類と投与期間は不明瞭
・24時間投与とそれ以上の投与期間では有意な差はないよう
 
なるべく早めに抗菌薬は入れておきましょう。
また、破傷風予防についても必要があればやるのを忘れずに。
 
 
血行動態の破綻がない、安定している気胸ならどのようにマネジメントしましょうか。
 
 
・CXRで胸壁から約2cmまたはCTで胸壁から35mm以上の虚脱がある場合には、経験的に胸腔ドレナージを行うこと
 
これはその通りです。
ただ、CTで35mmまで待てるかどうかは自信がないです。
 
・CTで胸壁からの虚脱が35mm未満の場合、約10%が保存的治療(経過観察)に失敗することを認識したうえで、経過観察することも可
 
前述の研究をもとにした推奨がされています。
実診療でもどうしてもドレナージはいやだと帰ってしまうけど、
(例えばりんごの収獲で忙しいとか…)
意外と脱気せずとも自然治癒が望めることを経験します。
でも、患者が拒否しなければドレナージしてしまうことが多いです。
 
・陽圧換気の有無/穿通性or鈍的外傷かは治療失敗率と関連がないため、安定していれば陽圧換気下であっても保存的治療を選択可能
 
陽圧換気するならドレナージしたほうがよいのではないでしょうか。
UpToDateでは、「人工呼吸器を要するすべての患者に胸腔ドレナージを提案する」と記載がありました。
 
・経過観察を選択した場合には、6時間以内にCXRを再検すること
 ◦さらに、必要に応じて再検すること
 
気胸の改善や悪化を超音波でモニタリングすることも提唱されているが、現時点では推奨されない
 
・リソースが少ない環境/長時間の移送を要する場合/長時間にわたり脊椎固定される場合など、綿密なモニタリングができない場合には予防的に胸腔チューブを挿入することを検討する
 
上記は妥当と思います。
 
全体的に、「ほんまかいな⁉」と疑いたくなるような論文を引用していて、
ちょっと推奨が気持ち悪く感じました。
どうなんでしょう?
 
これからの自分のpracticeを変えるのは、
もう少し経過を見ようかなと思います。
 
陽圧換気下であってもドレナージしなくてよいこともあるということには驚きました。
 
 
まとめ
・循環動態が安定している外傷性気胸(CTで35mmが基準)の9割は保存的加療が成功する
 ◦ただし、10%では治療失敗の可能性があることを認識しておくこと
・保存的加療を選択する場合には、6時間以内にCXRを再検すること
・陽圧換気の有無/穿通性or鈍的外傷かは治療失敗率と関連がないため、安定していれば陽圧換気下であっても保存的治療を選択可能
・チューブは細径を選択してよい
・緊急ドレナージを要するときには予防的抗菌薬を投与すること
 ◦可能なら処置前だが、処置後ただちに投与することも考慮
 ◦24時間でよい