りんごの街の救急医

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症例73:テニスボールが右目に当たってから目がぼやける54歳男性(J Am Coll Emerg Physicians Open. 2020 Sep 15;1(6):1736-1737.)

病歴/身体所見

・54歳男性
白内障術後で眼内レンズが挿入されている
右目にテニスボールが当たってから霧視があるとしてER受診
飛蚊症を伴っていた
右目視力は0.3まで低下、左目視力は1.0であった
・眼圧は正常、外眼筋の動きと角膜および視野検査も正常であった
右瞳孔は不整であり、対光反射はなかった

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診断

眼内レンズ脱臼

 

・細隙灯検査により、眼内レンズ脱臼が明らかになった
 ◦前房出血/網膜剥離の所見は認めなかった

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虹彩により瞳孔内に捕捉された眼内レンズ

 

ステロイド点眼/cyclopentolate点眼が開始されつつ、緊急外科的修復が行われた

 
 
・眼窩への鈍的外傷はさまざまな合併症を呈する可能性がある
 ◦前房出血、眼球破裂、網膜剥離、硝子体出血など
 
・特に白内障術後では、レンズ脱臼のリスクが高まり、網膜剥離リスクは2倍になる
(Open Ophthalmol J. 2012;6:79-82./J Cataract Refract Surg. 2015 Jul;41(7):1376-82.)
 
・レンズ脱臼は前方への脱臼よりも硝子体側(後方)への脱臼の方がはるかに一般的にみられる
 
・眼球超音波は網膜剥離や後方への水晶体(レンズ)脱臼の診断に役立つ可能性がある
(Int J Emerg Med. 2015 May 27;8:16.)

 

外科的修復がレンズ脱臼の適切な治療であり、他の眼外傷がなければ視力は病前レベルに改善することが多い予後良好な疾患
(Eye (Lond). 2020 Aug;34(8):1406-1412.)
 
 
ちなみに、水晶体後方脱臼は以下のように見えます。
(Int J Emerg Med. 2015 May 27;8:16.)

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まとめ

・特に白内障術後の眼窩鈍的外傷ではレンズ脱臼のリスクが高まり、網膜剥離リスクは2倍になる

・外科的修復がレンズ(水晶体)脱臼の適切な治療であり、他の眼外傷がなければ視力は病前レベルに改善することが多い予後良好な疾患