病歴/身体所見
・82歳女性
・特に既往歴なし
・転倒して眼窩付近を打撲したためER受診
・意識消失なし、眼痛なし、視覚異常なし
・眼窩周囲の斑状出血、眼球突出、結膜下気腫があり、眼窩内外側の圧痛と捻髪音を認めた
・外眼筋は問題なし、瞳孔不同なく対光反射+/+、RAPDなし、視力1.0、眼圧22mmHg
検査
・顔面CT…眼窩骨折と眼球前後に眼窩気腫を認めた
診断
眼窩気腫
・眼科診察後に帰宅となり、その後のフォローでは視力障害なく経過した
・眼窩気腫は眼窩内組織への空気の蓄積により発症する
・外傷による眼窩骨折が原因として多いが、くしゃみや肺圧外傷、感染症などによっても引き起こされうる
(Ophthalmology. 1994 May;101(5):960-6./Mayo Clin Proc. 1994 Feb;69(2):115-21.)
・診断はCTにより、空気の蓄積と眼窩骨折を特定することが効果的
・超音波やMRIでの診断は限定的ではあるが、眼球/軟部組織/血管損傷を特定できる可能性もある
(Emerg Radiol. 2004 Feb;10(4):168-72.)
・眼窩気腫は眼窩内の外側方に蓄積し、眼球内圧上昇に関与して血管障害や眼窩コンパートメント症候群を引き起こす可能性がある
(Ophthalmology. 1984 Nov;91(11):1389-91.)
・眼圧上昇、視力低下、RAPDなどがある場合には緊急眼窩減圧を行う必要がある
◦上眼窩縁の直下に、キシロカイン2mlを入れた10mlシリンジ+19G針を挿入しドレナージする
(Ophthalmology. 1984 Nov;91(11):1389-91.)
※眼窩減圧については Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):801-803.のサイトにはテクニックが動画で紹介されています。眼窩骨折の患者が鼻をかむことでこうなることもあるので、そういったことをしないよう指導が必要です。
ここによく出てくるRAPDは眼の診察において必須手技なので復習しておきます。
RAPD(relative afferent pupillary defect)はMurcus Gunn Pupilのことであり、
陽性の場合には重大な視神経や眼外傷が示唆されます(相対的瞳孔求心路障害)
RAPDの有無はswinging flash light testにより確認されます。
※swinging flash light test
・交互に左右の目を光で照らす(半暗室がよい)
・求心性の視力障害があるとき…健側に光を照らすと患側の瞳孔は正常に縮瞳
・患側に光を移すと光を照らしているにも関わらず、徐々に散瞳する
ところで、この症例に対する超音波は眼球破裂の可能性もありそうであまりやりたくないです。眼球破裂を疑った場合にはなるべく触らずに緊急眼科コンサルトが適切です。
もう1例紹介しておきます(Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):801-803.)
A/B)眼窩気腫と診断された当日
A)緊急減圧直後、B)翌日
まとめ
・眼窩気腫は眼窩内組織への空気の蓄積により発症し、外傷による眼窩骨折、くしゃみや肺圧外傷、感染症などによって引き起こされうる
・眼圧上昇、視力低下、RAPDなどがある場合には緊急眼窩減圧を行う必要がある
・眼外傷においてはRAPDの手技に習熟しておこう