りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例97:性行為中に心肺停止状態となった35歳女性 (J Am Coll Emerg Physicians Open. 2020 Nov 5;1(6):1759-1760.)

病歴/身体所見

・35歳女性
性交中に突然意識消失し、心肺停止状態となったためERへ搬入された
・救急隊接触時、PEA
・ER搬入時点でROSCしたが、昏睡状態であった
 

検査

・頭蓋内病変が疑われたため、眼球超音波検査にて視神経鞘の腫脹がないか検索された
 ◦両側眼球にて、視神経乳頭の直前に高エコーな構造を認めた

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左目の眼球超音波:視神経(ON)にかぶさるように高輝度の構造物(矢印)を認める。crescent signとして知られる視神経乳頭の膨隆も認める(*)
うっ血乳頭の進行によりcrescent signが出現することがある
(Am J Emerg Med. 2015 Jul;33(7):971-3.)
 
・頭部CTではくも膜下出血の所見とともに、眼球後部に高吸収な物質を認めた

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診断

Terson症候群/くも膜下出血

 

Terson症候群頭蓋内出血や外傷性脳損傷に続発する眼球内出血を指す
 
頭蓋内出血のうち約15%にTerson症候群を発症している
 ◦発症後から数か月にわたり診断されないことが多い
  ⇒視力障害が永続する可能性がある
(Neurosurg Rev. 2015 Jan;38(1):129-36; discussion 136.)
 
・典型的には脳出血や外傷から数時間以内に発症するが、症例によっては数日から数週間後に発症することがある
 
・Terson症候群の病態生理はまだ議論が残るが、以下の機序が考えられている
 ◦頭蓋内圧の急激な上昇による網膜静脈の破裂
 ◦脳から視神経鞘を介した眼窩への直接的な血液流入
(Ophthalmology. 2001 Sep;108(9):1654-6./)
 
・診断は眼底検査によるが、超音波やCTは代替手段となる
 
眼科的予後はしばしば良好
 ◦出血は通常数か月~数年で自然消失する
 ◦重症例では硝子体切除術を要することもあるが、早期介入により予後良好
(Ophthalmology. 2001 Sep;108(9):1654-6./Radiol Bras. Sep-Oct 2017;50(5):346-347.)

 

CPAからのROSC後の症例ですが、バイタルサインが整わないうちはなかなかCTへ連れていけないのでPOCUS/眼球超音波で病態を把握しようとしたところ、Terson症候群の診断となった症例です。
 
たぶん視神経鞘径を測定しようとしたのではないでしょうか。
神経鞘は、頭蓋内圧上昇との関連が明らかになっており、CTがすぐに撮影できない環境でのdecision makingや診断の補助ツールとして、あるいは神経系の予後予測やモニタリングツールとしての使用が期待されています。
 
結構な割合で見逃されてしまうようなので、頭部CTで頭蓋内出血を見つけて終わりではなく、眼球もしっかり見ておきたいですね。
 
 
頭蓋内出血症例の15%ほどに認めるそうですが、そんなにあるかなぁ。
見逃しているだけかも…。
 
さらにもう1症例CTを見ておきます。
 
 

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A)くも膜下出血+右眼球内出血(Terson症候群)
B)左眼球内にも出血を認める
(Radiol Bras. Sep-Oct 2017;50(5):346-347.)
 
 
 

まとめ

・頭蓋内出血や外傷性脳損傷に続発して眼球内出血を発症することがあり、Terson症候群と呼ばれる

・Terson症候群の見逃しは多く、永続する視力障害の原因となりうる

・診断は眼底検査がgold standardだが、超音波やCTは代替手段となる

・早期発見介入により眼科的予後は良好