病歴/身体所見
・35歳女性
・性交中に突然意識消失し、心肺停止状態となったためERへ搬入された
・救急隊接触時、PEA
・ER搬入時点でROSCしたが、昏睡状態であった
検査
・頭蓋内病変が疑われたため、眼球超音波検査にて視神経鞘の腫脹がないか検索された
◦両側眼球にて、視神経乳頭の直前に高エコーな構造を認めた
左目の眼球超音波:視神経(ON)にかぶさるように高輝度の構造物(矢印)を認める。crescent signとして知られる視神経乳頭の膨隆も認める(*)
※うっ血乳頭の進行によりcrescent signが出現することがある
(Am J Emerg Med. 2015 Jul;33(7):971-3.)
・頭部CTではくも膜下出血の所見とともに、眼球後部に高吸収な物質を認めた
診断
Terson症候群/くも膜下出血
・Terson症候群は頭蓋内出血や外傷性脳損傷に続発する眼球内出血を指す
・頭蓋内出血のうち約15%にTerson症候群を発症している
◦発症後から数か月にわたり診断されないことが多い
⇒視力障害が永続する可能性がある
(Neurosurg Rev. 2015 Jan;38(1):129-36; discussion 136.)
・典型的には脳出血や外傷から数時間以内に発症するが、症例によっては数日から数週間後に発症することがある
・Terson症候群の病態生理はまだ議論が残るが、以下の機序が考えられている
◦頭蓋内圧の急激な上昇による網膜静脈の破裂
(Ophthalmology. 2001 Sep;108(9):1654-6./)
・診断は眼底検査によるが、超音波やCTは代替手段となる
・眼科的予後はしばしば良好
◦出血は通常数か月~数年で自然消失する
◦重症例では硝子体切除術を要することもあるが、早期介入により予後良好
(Ophthalmology. 2001 Sep;108(9):1654-6./Radiol Bras. Sep-Oct 2017;50(5):346-347.)
CPAからのROSC後の症例ですが、バイタルサインが整わないうちはなかなかCTへ連れていけないのでPOCUS/眼球超音波で病態を把握しようとしたところ、Terson症候群の診断となった症例です。
たぶん視神経鞘径を測定しようとしたのではないでしょうか。
視神経鞘径は、頭蓋内圧上昇との関連が明らかになっており、CTがすぐに撮影できない環境でのdecision makingや診断の補助ツールとして、あるいは神経系の予後予測やモニタリングツールとしての使用が期待されています。
結構な割合で見逃されてしまうようなので、頭部CTで頭蓋内出血を見つけて終わりではなく、眼球もしっかり見ておきたいですね。
頭蓋内出血症例の15%ほどに認めるそうですが、そんなにあるかなぁ。
見逃しているだけかも…。
さらにもう1症例CTを見ておきます。