りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

RCT:鼻出血へのトラネキサム酸局所投与はnasal packingを減らさない(NoPAC trial)

さてさて、またトラネキサム酸(TXA)の話題です。

 

これまでにも鼻出血に対するTXA局所投与は研究されてきましたが、

小規模な研究ばかりでエビデンスとしては限定的でした。

 

(Am J Emerg Med. 2013 Sep;31(9):1389-92.)
・鼻出血に対して、トラネキサム酸パッキング(500mg/5ml)群 vs アドレナリン(1/100000)+リドカイン(2%)パッキング群でのRCT。
 →TXAでのパッキングにより10分以内の止血率と早期帰宅率が上昇
お~、アドレナリンに勝るとは…!
 
(Acad Emerg Med. 2018 Mar;25(3):261-266.)
・2つのERで実施されたRCT
 ◦抗血小板薬(aspirin, clopidogrel or both)を内服している鼻出血患者124人
 ◦TXA含有コットン(500mg/5ml) vs アドレナリン+リドカイン含有コットン
 
・primary outcome…10分間で止血ができた割合
 ◦10分後の止血率…73% vs 29%, NNT2
 ◦24時間以内の再発率…5% vs 10%
 ◦1週間以内の再発率…5% vs 21%
 ◦2時間以内のER退室…97% vs 13%
 ◦患者満足度…9/10 vs 4/10
抗血小板薬内服中の鼻出血には局所TXA、いいじゃん!
 
(Ann Emerg Med. 2019 Jul;74(1):72-78.)
・トルコの教育病院にて実施されたRCT
 ◦inclusion…ER受診時点で活動性出血を認める鼻前方出血(出血点を確認できる症例)
 ◦exclusion…抗凝固療法(抗血小板治療は含む)、血行動態不安定、外傷性鼻出血、既知の出血性疾患
・3群にランダムに割り付けし、1:1:1に割り付けした
 ①TXA群(両側鼻腔にTXA500mg/5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
 ②生食群(両側鼻腔に生理食塩水5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
 ③nasal packing群(2%リドカインを含有したMerocel®を24時間挿入)
 
・最終的に135人が対象となった
・primary outcome…15分後の止血率
 ◦TXA群 91.1% vs 生食群 71.1% vs nasal packing群 93.3%
 ◦3群間に統計学的有意差を認め、TXA群とnasal packing群では有意差を認めなかった
 
ガーゼにしみこませるのではなく、噴霧でもいいとな…!
 

上記のようにまあまあ肯定的な結果だったので、個人的にはアドレナリンに代わって使用する薬剤となっていました。

 

しかし、ついに否定的な結果が出てしまいました。

その名も、NoPAC trial

さて、内容を見ていきましょう。でも解釈にすごく困ります。

 

 

Reuben A, et al. The Use of Tranexamic Acid to Reduce the Need for Nasal Packing in Epistaxis (NoPAC): Randomized Controlled Trial.
Ann Emerg Med. 2021 Feb 18:S0196-0644(20)31461-X.
PMID: 33612282.
 
 
イギリスからの報告です。
とてもびっくりしたのですが、イギリスではnasal packingを行うと平均3日間入院管理になるそうです。どんだけ~。
 
そのnasal packingを避けるためにTXAってどれだけ効果的なのかを調べた研究です。
 
 
・double-blind, placebo-controlled, multicenter, 1:1, randomized controlled trial
・イギリスの26施設、2017年5月~2019年3月

・鼻出血に対して少なくとも10分間の簡単な処置を行われた患者をスクリーニング
 ※簡単な処置…鼻翼を軽く抑える、鼻に氷を当てるのいずれかまたは両方
 →血管収縮薬(フェニレフリンやアドレナリン)を含有するコットンを鼻腔に詰め、10分間クリップで固定された
 →最終的に、上記コットンを除去したあとにも持続的な出血がある患者が対象
 
・対象…18歳以上、持続する鼻出血(上記参照)
・除外…血行動態不安定、外傷性、院外でpackingされた、TXAへのアレルギー、専門科での治療が見込まれる、妊娠、血友病、鼻咽頭悪性腫瘍が疑われる
・鼻出血部位として前部と後部があるが、初期対応方法は変わらないため臨床的に鑑別することはしなかった
 
・以下の2群にランダムに割り付けられた
・TXA群…TXA2ml(200mg)を含有したコットンを鼻腔に挿入後クリップで10分間固定
 ◦上記で鼻出血持続の多場合には同様の対応をもう一度行う
placebo群…上記をplacebo(滅菌水)で実施
 
・primary outcome…nasal packingの使用
 
 
・2622人がスクリーニングされ、最終的に496人が対象となった
 ◦TXA群…254人、placebo群…242人
 ◦placebo群は男性/抗凝固療法を受けている患者が多かった

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・primary outcome…nasal packingの使用
 ◦TXA群…111人(43.7%)
 ◦placebo群…100人(41.3%)
 ◦OR 1.11(95% CI 0.77-1.59)
 ◦事前に指定された感度分析の全てで有意差がなかった
・合併症発症率は両群で有意差なし

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しかし、以下の理由からちょっとどう解釈してよいか迷う研究。
・選択バイアスが大きい
・鼻出血に対してしっかりと圧迫止血を持続させる時間が短すぎる
 ◦10分毎にコットンを入れたり出したりしていてせっかくできた血餅がはがれてしまうんじゃ…
・(上記と類似だが)アドレナリンコットンが無効だったからTXAを使用するのか?なんか現在やっているpracticeと違いすぎる。ガチンコ比較がよいように思う
※no evidenceと思いますが、アドレナリン+含有ガーゼを詰めてしまうこともあります
 ◦アドレナリン使用により143人が止血されている(これは除外されている)
・逆に、上記を行なって止まらない鼻出血が対象であったため実は重症度が高いのではないか(入院率も高すぎますが)
・以前の研究ではTXA5ml(500mg)使用していた…今回は少なすぎるのでは?
・前方出血と後方出血を分けていないところ
・外傷性鼻出血は含まれていない
 
とはいえ、placebo群の方が抗凝固薬内服している患者が多かったことは、よりTXAの効果をnegativeに感じさせます。
 
さて、これからどうしようか。進行中のRCTを待ってみようか。