りんごの街の救急医

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SR&MA:ADD-RSとD-dimerの組み合わせは大動脈解離除外に有効か?

急性大動脈解離(Acute aortic dissection:AAD)は重大な合併症と致命率を誇る疾患であり、見逃しは厳禁です。
 
臨床医は胸痛/背部痛/腹痛などを呈する患者ではAADを疑わなければならない一方で、比較的まれな疾患(2.9-3.5例/10万人年ほど)であり、スクリーニングツールが研究されてきていました。
 
有用なスクリーニングツールを使用することで不要な検査を減らすことができ、結果的に放射線被曝を減らし、医療費削減にも結び付きます。
 
 
スクリーニングツールとしてaortic dissection detection risk score(ADD-RS)があります。
 
ADD-RSは、病歴/症状/身体所見からの合計12項目を組み合わせることでリスク層別化を行うためのツールとして2010年に開発されました。
 
さらに、これとD-dimerを組み合わせることでより効果的にAADの見逃しを防ぐことができることが示唆されています。
 
 
ADD-RSについてのsystematic review and metaanalysis(のレビュー)がありましたので紹介します。
 
Tsutsumi Y et al. Accuracy of aortic dissection detection risk score alone or with D-dimer: A systematic review and meta-analysis.
Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2020 Oct;9(3_suppl):S32-S39.
PMID: 31970996.
(Ann Emerg Med. 2020 Nov;76(5):e113-e115.)
 
 
・最終的に9つの研究が対象となった
 ◦ADD-RS単独…n=26598(8つの研究)、ADD-RS+D-dimer…n=3421であり、4つの研究がオーバーラップしていた
 ◦8つがretrospective study, prospective studyは1つだけ
 ◦1つが病院外、8つがERでの研究
 ◦sample sizeは162-22075と幅広い
 
結論として、
・ADD-RS≧1は感度が高いが特異度は低かった
・ADD-RSにD-dimerを加えたことで感度がさらに高まった(特異度は下がるが)
・ADD-RS≧2は特異度が非常に高いが感度はかなり低かった
 

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・検査前確率が低い(5%程度)の場合の見逃し率
 ◦ADD-RS≧1…0.8%
 ◦ADD-RS≧2…3%
 ◦ADD-RSにD-dimerを加えると
  ‣ADD-RS≧1…0.05%
  ‣ADD-RS≧2…0.1%
・検査前確率が高い(20%程度)の場合の見逃し率
 ◦ADD-RS≧1…3.8%
 ◦ADD-RS≧2…12.9%
 ◦ADD-RSにD-dimerを加えると
  ‣ADD-RS≧1…0.2%
  ‣ADD-RS≧2…0.5%
有病率が低い場合にはADD-RS単独でのスクリーニングが有効だが、有病率が高い場合にはD-dimerを組み合わせることが有効である
 
・ただし、このレビューには以下のような制限がある
 ◦複数の研究でAADの有病率が非常に高かった
  ‣スペクトラムバイアスによる…検査の診断精度を恣意的に高める可能性がある
 ◦研究のほとんどはヨーロッパやアジア…他の人種には適応されない可能性がある
 ◦データの大部分は単一の院外研究による…ERでは適さない可能性がある
(Am J Emerg Med.2018;36:1188-1194.)
 ◦データの大部分が後向研究による…選択バイアスがかかっていた可能性がある
 ◦D-dimer閾値は500ng/dLで評価されており、他の閾値での診断精度は不明なまま
 ◦D-dimer検査結果にかかわらず、ADD-RS≧1に対する特異度が低い
 
 
ADD-RSとD-dimerをうまく使って見逃しゼロを目指したいところです。
 
この研究を加味しつつ、個人的にはおおむね以下のように対応しています。
・AAD-RS 2-3点…造影CT(問答無用)
・AAD-RS 1点…造影CT(医師の裁量による)
・AAD-RS 0点…超音波やCXR所見があれば造影CT
 …画像所見なしかつD-dimer陰性ならば除外可能、陽性であれば造影CT
 

まとめ

・ADD-RS≧1は感度が高いが特異度は低い
・ADD-RSにD-dimerを加えることが感度がさらに高まる(特異度は下がるが)
・ADD-RS≧2は特異度が非常に高いが感度はかなり低い
有病率が低い場合にはADD-RS単独でのスクリーニングが有効だが、有病率が高い場合にはD-dimerを組み合わせることが有効である