りんごの街の救急医

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症例34:めまいと両側性難聴を発症した53歳男性(Clin Pract Cases Emerg Med. 2020 Nov;4(4):626-627.)

病歴/身体所見

・53歳男性
急性発症のめまい/嘔吐/両側難聴を主訴に救急搬入
・症状は6時間前に発症し、増悪傾向
重度の運動失調のため歩行はできなかった
・既往歴は特になかったが、喫煙歴と脳卒中の家族歴があった
・最近の外傷歴なし
・診察中に嘔吐して、難聴が増悪した
147/78mmHgと高血圧であるがそれ以外のバイタルサインは異常なし
HINTSにて、方向交代性水平性眼振、両側skew deviation陽性
指鼻指試験や膝踵試験も異常であった
 

検査

・頭部CTでは新規出血は認めず
・頭頚部CTAにて異常を認めた

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診断

脳梗塞(両側椎骨動脈閉塞)

 

CTAにて両側椎骨動脈がほぼ閉塞している所見を認めた
MRIにて両側小脳半球/延髄右側/両側後頭葉脳梗塞を示す信号変化を認めた
・心エコーでは塞栓源指摘できず
・高血圧と糖尿病があることがわかり治療介入された
・aspirin+clopidogrelによる治療が開始された

 

 

後方循環系脳梗塞は全脳梗塞の10-20%を占める
(N Engl J Med. 2005 Jun 23;352(25):2618-26.)
 
めまい/運動失調/視野障害/構音障害/嘔気/嘔吐などが主症状となる
 
難聴は、蝸牛に血流を送る内耳動脈(←前下小脳動脈:AICA)への血流低下により起こる
 ◦両側性難聴はまれな症状
 ◦椎骨脳底動脈系疾患による両側性難聴の頻度は2%未満
(Stroke. 1993 Jan;24(1):132-7./Laryngoscope. 2004 Feb;114(2):327-32./J Neurol Sci. 2005 Jan 15;228(1):99-104.)
 
・HINTSは末梢性vs中枢性めまいの鑑別に重要である
(Stroke. 2009 Nov;40(11):3504-10.)

 

 

HINTSについて補足しようと思います。

 

ベッドサイドにおいて中枢性めまいと末梢性めまいを3ステップで鑑別ができる有用な方法ではあります。
 
・以下のすべてを満たせば高度に中枢性病変が否定できる感度100%/特異度96%)
①HIT陽性
②方向交代性眼振または垂直性眼振がない
③Skew deviation陰性
・Skew deviation陽性であれば中枢性めまい診断において感度30%/特異度98%
(CMAJ. 2011 Jun 14;183(9):E571-92.)
 
それぞれの所見はYouTubeなどで動画をみておくとよいと思います。
 
ただしこれらの感度/特異度は、基本的には神経内科医がとった所見によるもので、救急医が行う場合にはあまり信用に足るものではないかもしれません。
 
(Acad Emerg Med. 2020 Sep;27(9):887-896.)
・救急医と神経内科医でその診断の正確性は同様なのか評価する目的のmeta-analysis
神経内科医…感度96.7%/特異度94.8%
・救急医+神経内科医…感度83%/特異度44%
 
救急医…いまいちですね(笑)
 
 
さらに、HINTSに加えて、指を擦り合わせて聴覚を評価する聴力検査を付け加えたものもあります(HINTS Plusなんて言われています)
 
上述の通り、AICAがやられると難聴が起きます。
よって、AICA梗塞を除外するには難聴がないことを証明する必要があります。
 
ここで、HINTS plusを使います。以下のようなデータがあります。
 
HINTS plusを用いることでさらに安全に見逃してはならないめまいを主訴とする脳卒中を見逃す可能性が低くなる
・脳幹または小脳の小梗塞においてはMRI、HINTSでの偽陰性率はそれぞれ53.3%/6.7%であったが、HINTS plusでは偽陰性率は0%
 
めまい診療については以下のまとめも参考にしてください!

appleqq.hatenablog.com

 

 

 まとめ

・両側難聴はまれだが、両側椎骨動脈閉塞により発症しうる

・中枢性vs末梢性めまいの鑑別にはHINTSやHINTS plusをうまく使うこと