りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例33:手足を含む全身に丘疹が出現した40歳男性(Clin Pract Cases Emerg Med. 2020 Nov;4(4):675-676.)

病歴/身体所見

・40歳男性
・数週間前より全身に皮疹が出現
・この皮疹が出現するさらに数週間前にコンドームを使用せずに乱交した
・両側の手掌や足底に、びまん性丘疹状発疹を認める

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・診察中に「皮疹が出現する前に陰茎に無痛性の病変があった」と思いだした
 

検査

・血清RPR陽性
 
 
 
 
 
 

診断

二期梅毒

 

・benzathine benzylpenicillin240万単位筋注により治療された

 

 

syphilis-medical_guide.pdf (umin.jp)などから、

梅毒のshort reviewを行おうと思います。

 

 

いかなる症状でも梅毒を疑うこと!(結核診療と似ている)
 ◦感染後、全身の臓器に菌が播種される
 ◦感染が成立した人の一部が感染初期に第1-2期梅毒の形で発症
  →その後ほとんどの症例で潜伏感染の形をとる
 ◦第1-2期梅毒に暴露した5-75%が感染し、放置されれば30%が典型的な梅毒発症
 
・原因菌…Treponema pallidum subsp pallidum (T.pallidum) 
 
・感染経路
 ◦性行為感染>>>母子感染>環境(まれ)
 ◦感染1年以内では患者は再発リスクあり、感染性がある(前期潜伏梅毒)
 ◦2010年以降は患者数増加傾向
  ‣男女ともに異性間性的接触が主要因
  ‣近年はMSMによる感染が増加
 
・潜伏期:10-90日
 ◦侵入と全身播種までの時期
 ◦細菌感染症と異なり、この時期の全身播種による全身症状なし
 
・典型的な病歴は以下
 ◦T.pallidumの感染成立からおよそ3-6週間程度潜伏
  →感染部位に初期硬結/硬性下疳出現(1期梅毒)
  →その数週間~数か月後に皮膚や粘膜に皮疹が出現(2期梅毒)
  →無症候期を経てゴム腫、心血管梅毒、脊髄癆などに進展(晩期梅毒)

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・第1期梅毒(primary syphilis)…無痛性潰瘍が特徴!
 ◦痛くない潰瘍を見たら梅毒かもしれない
 ◦この時期には血清反応は陽性にならない
 ◦初期硬結(陰部のこりこりしたしこり)
 ◦硬性下疳単発で無痛性だが痛みを伴うこともあり、ヘルペスと鑑別が困難)
  ‣2週間~6週間程度続く
  ‣ヘルペスとの重複感染にも要注意
 ◦局所リンパ節腫脹を伴うことがよくある…ヘルペスと異なり、無痛性のことが多い!
 
・第2期梅毒(secondary syphilis)…手掌/足底の皮疹をみたら怪しいと思うこと!
 ◦この段階で受診する患者が多い
 ◦全経過を通じて最大量のスピロヘータが出回り全身の激しい免疫応答を生じる
  →この時期の血清反応は100%陽性(陰性は除外に使える)
  …T.pallidumが血行性に全身に播種され臓器症状が出現
  ‣粘膜疹
  ‣脱毛
  ‣発熱
  ‣全身性リンパ節腫脹
  ‣肝酵素上昇、脾腫
  ‣腹膜炎、関節炎、腎炎、髄膜炎ぶどう膜炎
  ‣皮疹咽頭痛、結膜炎、筋肉痛など
 ◦第1期より2-3ヵ月後…無治療の30%
 ◦バラ疹(直径1-2cmほどの発疹や斑点がまばらに現れる)
  ‣手掌や足底にも現れることが特徴的
 ◦扁平コンジローマ
 
・第3期梅毒(tertiary syphilis)
 ◦無治療の30%がこの病期に至る
 ◦結節性梅毒疹、ゴム腫、大動脈炎、大動脈瘤、神経梅毒
 ◦神経梅毒は無治療の10%(認知症の鑑別
  ‣慢性髄膜炎、脳実質障害(進行麻痺)、脊髄実質障害(脊髄勞)
 ◦心血管梅毒…ARなどに至ることも少なくない
 ※ゴム腫…Ⅲ期梅毒に特有な肉芽腫。内臓・骨・筋肉・皮膚などにできるゴム様の弾力のある大小の結節。
 …顔面、特に鼻・唇・前額部・頭蓋骨に好発
 
・先天性梅毒…妊婦でスクリーニングしておくこと
 
・眼梅毒…梅毒のどの段階でも発症しうる
 ◦眼痛や霧視が出現
 ◦眼科的評価でブドウ膜炎や網膜炎が認められる
 ◦進行により失明の可能性があるためペニシリン静注が必要
 
・診断した場合は感染症法の規定により保健所への届け出が必要
 ◦5類感染症:医師は診断後、7日以内に保健所に届け出なければならない
 
・検査法…RPR/TPHAの組み合わせで行う(血清学的検査)
 ◦感染後は初めにカルジオリピンに対する抗体価が上昇…STS
 ◦次に、トレポネーマに対する特異的抗体価が上昇…TPHA法
 
STS(RPR) (-)+TPHA(-)…非梅毒、ごく初期の梅毒、初期梅毒治癒後
 →ERではこのフェーズのことあるし、疑ったら治療始めるしかない。 
STS(-)+TPHA(+)
 ◦梅毒治癒後の抗体保有
 ◦非常に古い梅毒
 ◦地帯現象: 抗体価異常高値の際、血清を希釈しないと偽陰性を示しうる
 ◦伝染性単核症などのTPHA法の偽陽性
STS(+)+TPHA(-)
 ◦初期梅毒
 ◦生物学的偽陽性(BFP)
  ‣SLE、慢性関節リウマチ、結核伝染性単核球症、ウイルス性肝炎、妊娠など
 ◦梅毒既往がなく、FTA-IgMが陰性の場合では偽陽性ととらえるべき
STS(+)+TPHA(+)
 ◦梅毒(早期~晩期、再感染)
 ◦梅毒治癒後の抗体保有
 ◦RPR定量検査を行う
  ‣治療後でRPR32倍以上はほとんどない
  ‣無症候性で16倍未満では一般的に治療対象にならない
  ‣無症候性で、RPR2-8倍では陳旧性梅毒とされ治療の必要はない
 
・日本では海外の第一選択薬ペニシリン筋注は使用できない
・入院治療ではペニシリンG、セフトリアキソンが選択される
 …多くは外来治療が選択される
 
早期梅毒:アモキシシリン3000mg (12錠)+プロベネシド750mg 分3 2週間
・後期梅毒:アモキシシリン3000mg (12錠)+プロベネシド750mg 分3 4週間
※プロベネシド=ベネシッド(ペニシリン血中濃度を上げる)
(Clin Infect Dis. 2015 Jul 15;61(2):177-83.)
 
・代替薬としては以下が提唱されている
 ◦ドキシサイクリン 100mg 1日2回
 ◦アジスロマイシン 2g 1回
 
・内服開始後に発熱や皮疹などが生じうる(Jarisch-Herxheimer反応
 
 

まとめ

・いかなる症状でも、梅毒は鑑別にあげておくこと

・第2期梅毒では、手掌や足底を含む全身に丘疹を生じることが典型的な皮膚所見

・診断はRPR陽性をもって確定とする

・治療によりJarisch-Herxheimer反応を起こしうる