病歴/身体所見
・40歳男性
・数週間前より全身に皮疹が出現
・この皮疹が出現するさらに数週間前にコンドームを使用せずに乱交した
・両側の手掌や足底に、びまん性丘疹状発疹を認める
・診察中に「皮疹が出現する前に陰茎に無痛性の病変があった」と思いだした
検査
・血清RPR陽性
診断
二期梅毒
・benzathine benzylpenicillin240万単位筋注により治療された
syphilis-medical_guide.pdf (umin.jp)などから、
梅毒のshort reviewを行おうと思います。
・いかなる症状でも梅毒を疑うこと!(結核診療と似ている)
◦感染後、全身の臓器に菌が播種される
◦感染が成立した人の一部が感染初期に第1-2期梅毒の形で発症
→その後ほとんどの症例で潜伏感染の形をとる
◦第1-2期梅毒に暴露した5-75%が感染し、放置されれば30%が典型的な梅毒発症
・原因菌…Treponema pallidum subsp pallidum (T.pallidum)
・感染経路
◦性行為感染>>>母子感染>環境(まれ)
◦感染1年以内では患者は再発リスクあり、感染性がある(前期潜伏梅毒)
◦2010年以降は患者数増加傾向
‣男女ともに異性間性的接触が主要因
‣近年はMSMによる感染が増加
・潜伏期:10-90日
◦侵入と全身播種までの時期
◦細菌感染症と異なり、この時期の全身播種による全身症状なし
・典型的な病歴は以下
◦T.pallidumの感染成立からおよそ3-6週間程度潜伏
→感染部位に初期硬結/硬性下疳出現(1期梅毒)
→その数週間~数か月後に皮膚や粘膜に皮疹が出現(2期梅毒)
→無症候期を経てゴム腫、心血管梅毒、脊髄癆などに進展(晩期梅毒)
・第1期梅毒(primary syphilis)…無痛性潰瘍が特徴!
◦痛くない潰瘍を見たら梅毒かもしれない
◦この時期には血清反応は陽性にならない
◦初期硬結(陰部のこりこりしたしこり)
‣2週間~6週間程度続く
‣ヘルペスとの重複感染にも要注意
◦局所リンパ節腫脹を伴うことがよくある…ヘルペスと異なり、無痛性のことが多い!
・第2期梅毒(secondary syphilis)…手掌/足底の皮疹をみたら怪しいと思うこと!
◦この段階で受診する患者が多い
◦全経過を通じて最大量のスピロヘータが出回り全身の激しい免疫応答を生じる
→この時期の血清反応は100%陽性(陰性は除外に使える)
…T.pallidumが血行性に全身に播種され臓器症状が出現
‣粘膜疹
‣脱毛
‣発熱
‣全身性リンパ節腫脹
‣肝酵素上昇、脾腫
◦第1期より2-3ヵ月後…無治療の30%
◦バラ疹(直径1-2cmほどの発疹や斑点がまばらに現れる)
‣手掌や足底にも現れることが特徴的
◦扁平コンジローマ
・第3期梅毒(tertiary syphilis)
◦無治療の30%がこの病期に至る
◦結節性梅毒疹、ゴム腫、大動脈炎、大動脈瘤、神経梅毒
‣慢性髄膜炎、脳実質障害(進行麻痺)、脊髄実質障害(脊髄勞)
◦心血管梅毒…ARなどに至ることも少なくない
※ゴム腫…Ⅲ期梅毒に特有な肉芽腫。内臓・骨・筋肉・皮膚などにできるゴム様の弾力のある大小の結節。
…顔面、特に鼻・唇・前額部・頭蓋骨に好発
・先天性梅毒…妊婦でスクリーニングしておくこと
・眼梅毒…梅毒のどの段階でも発症しうる
◦眼痛や霧視が出現
◦眼科的評価でブドウ膜炎や網膜炎が認められる
◦進行により失明の可能性があるためペニシリン静注が必要
・診断した場合は感染症法の規定により保健所への届け出が必要
◦5類感染症:医師は診断後、7日以内に保健所に届け出なければならない
・検査法…RPR/TPHAの組み合わせで行う(血清学的検査)
◦感染後は初めにカルジオリピンに対する抗体価が上昇…STS法
◦次に、トレポネーマに対する特異的抗体価が上昇…TPHA法
・STS(RPR) (-)+TPHA(-)…非梅毒、ごく初期の梅毒、初期梅毒治癒後
→ERではこのフェーズのことあるし、疑ったら治療始めるしかない。
・STS(-)+TPHA(+)
◦梅毒治癒後の抗体保有者
◦非常に古い梅毒
◦地帯現象: 抗体価異常高値の際、血清を希釈しないと偽陰性を示しうる
◦歯槽膿漏
◦伝染性単核症などのTPHA法の偽陽性
・STS(+)+TPHA(-)
◦初期梅毒
◦生物学的偽陽性(BFP)
・STS(+)+TPHA(+)
◦梅毒(早期~晩期、再感染)
◦梅毒治癒後の抗体保有者
◦RPR定量検査を行う
‣治療後でRPR32倍以上はほとんどない
‣無症候性で16倍未満では一般的に治療対象にならない
‣無症候性で、RPR2-8倍では陳旧性梅毒とされ治療の必要はない
・日本では海外の第一選択薬ペニシリン筋注は使用できない
・入院治療ではペニシリンG、セフトリアキソンが選択される
…多くは外来治療が選択される
・早期梅毒:アモキシシリン3000mg (12錠)+プロベネシド750mg 分3 2週間
・後期梅毒:アモキシシリン3000mg (12錠)+プロベネシド750mg 分3 4週間
(Clin Infect Dis. 2015 Jul 15;61(2):177-83.)
・代替薬としては以下が提唱されている
◦ドキシサイクリン 100mg 1日2回
◦アジスロマイシン 2g 1回
・内服開始後に発熱や皮疹などが生じうる(Jarisch-Herxheimer反応)
まとめ
・いかなる症状でも、梅毒は鑑別にあげておくこと
・第2期梅毒では、手掌や足底を含む全身に丘疹を生じることが典型的な皮膚所見
・診断はRPR陽性をもって確定とする
・治療によりJarisch-Herxheimer反応を起こしうる