病歴/身体所見
・63歳男性
・突然発症した右顔面と右手の痺れおよび疼くような感覚のためER受診
・コントロール不良な高血圧/糖尿病があり、コカインを使用している
・BP188/101mmHg, 右頬部と右手の感覚鈍麻を認めたが、運動障害はなかった
検査
・頸動脈および脳のCTAが実施された
診断
視床出血による手掌口症候群 (Cheiro-Oral syndrome:COS)
・高血圧が持続していたためclevidipine静注により降圧された
・levetiracetamによる痙攣予防がされICUに入室となった
・高血圧改善とコカインをやめるよう指導され、後遺症を残さず退院した
・手掌口症候群(COS)として知られる症候群は1914年に初めて報告された
◦剖検症例で、症状と反対側の中心後回の病変が確認された
(Clin Neurol Neurosurg. 2006 Jul;108(5):446-50.)
◦およそ70-80%の症例がこのタイプ
◦上肢と顔面の皮質感覚中枢が解剖学的に密接な関係にあるために生じる
◦脳神経障害/同側下肢病変や運動失調がみられることもある
(Neurologist. 2013 Jan;19(1):22-5./Yonsei Med J. 2009 Dec 31;50(6):777-83./Childs Nerv Syst. 2002 Aug;18(8):386-404./Neurologist. 2013 Jan;19(1):22-5./Neurology. 1993 Jan;43(1):51-5.)
・上記以外のバリエーションも報告されており、大きく4つのタイプに分類される
◦Type I…典型的なタイプ
‣視床が多いが、どこの部位でもアリ
◦Type II…両側性の症状
‣橋病変と関連
‣ciguatera中毒と類似しており誤診されうる
◦Type III…両側性症状と片側性症状が混在
‣橋病変と関連
◦Type IV…crossed Cheiro-Oral syndrome(一側の顔面の症状と反対側の上肢の症状)
‣延髄病変と関連
COS Type
|
症状
|
病変
|
Type I
|
反対側の顔面/口と上肢
|
皮質または脳幹
|
Type II
|
両側性
|
橋
|
Type III
|
両側性症状と片側性症状が混在
|
橋
|
Type IV
|
一側の顔面の症状と反対側の上肢の症状
|
延髄
|
(Yonsei Med J. 2009 Dec 31;50(6):777-83./Clin Neurol Neurosurg. 2008 Dec;110(10):1008-11.)
※シガテラ中毒は以下のサイトを参照
・COSの原因となる病巣は実はたくさんある
◦視床…ここが最も多い
◦大脳皮質や橋病変も比較的よくみられる
◦そのほか、内包/放線冠/中脳など
(Clin Neurol Neurosurg. 2006 Jul;108(5):446-50./J Neurol. 2005 Feb;252(2):156-62.)
◦さらにまれだが、けいれん/頭蓋内バイパス手術合併症/中大脳動脈狭窄/薬物でも
◦特定の領域や原因が指摘できないケースもある
‣画像診断で全てが解決するわけではないことを覚えておく
(Clin Neurol Neurosurg. 2006 Jul;108(5):446-50./J Neurol. 2005 Feb;252(2):156-62.)
・予後は比較的良好であり、特に皮質下病変の場合にはその傾向が強い
◦急性期に神経学的所見が増悪する症例は16.5%程度
・予後が悪い病変として皮質大梗塞/硬膜下血腫/延髄梗塞/橋出血などがあげられる
(Clin Neurol Neurosurg. 2006 Jul;108(5):446-50./Clin Neurol Neurosurg. 2008 Dec;110(10):1008-11.)
研修医がこれを知っていたら「勉強しているな!」という印象を受けます。
最近は常識なのでしょうか、医学生でも知っている人がちらほらいます。
運動障害を呈さないタイプの頭蓋内疾患は診断が難しいことがあります。手や口の症状から病変を想起できるかが診断の入り口であり決め手です。
まとめ
・手掌口症候群(COS)は皮質または脳幹部の脳梗塞/脳出血により出現する症候群で、病巣と反対側の口角/頬+手や指の感覚障害を発症する
・COSは4つの型に分類され、両側性の症状を呈することや片側性と両側性の症状が混在、または顔面と手の症状がクロスすることもある
・視床病変が最多だが、大脳皮質や橋の病変なども比較的多い
・予後は比較的良好だが、皮質の大きな梗塞や脳幹病変は予後不良