りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

ESETT trial~痙攣重積に対するsecond lineはなにがいいのか?

けいれんに関する論文を読んでいると、

「現在ESETT trialが進行中である」という文言を何度も見かけていました。

 

ついにそのESETT trialがNEJMより発表されました。

さっそく読んでみました…!

が、納得したところと納得できなかったところがあります。

 

みなさんはいかがでしょうか?

2019 Nov 28;381(22):2103-2113. doi: 10.1056/NEJMoa1905795.

Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus.

 

 

 

 

痙攣重積への対応のおさらい

現時点ではAmerican Epilepsy Society(AES:米国てんかん学会)が2016年に発表したガイドラインが有名で、これを使用している方も多いのではと思います。

 

重要な表だけ掲載しておきます。

f:id:AppleQQ:20191205152029p:plain

こんな感じです。

とても有名ですが、個人的にはあまりしっくりきません。

その理由は最後に書きたいと思います。

 

とりあえずこれが基礎です。

・けいれんを見たらまずはfirst line(initial therapy)としてベンゾジアゼピン投与

・ initial therapyで発作停止せず、20分間以上発作持続時にsecond therapyに移行することを推奨

・second, third therapyへとescalationしていく

※ちなみに、NCSガイドラインでは 全例でベンゾジアゼピンによるinitial therapy終了後に直ちにsecond therapyを行うことが推奨されています。

これは現在の私たちのpracticeに合致していると思います。

 

ESETT trial

現時点でのエビデンスは、痙攣重積に対して有効な薬剤は実質的にはベンゾジアゼピン以外にははっきりしていないません。
 
そこで、痙攣重積発作に対するレベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸の有効性を比較したRCTが発表されました。
 
これがESETT trialです。
 
ベンゾジアゼピンで痙攣が停止しなかった小児~成人の痙攣重積発作の384人が対象
・second therapyとしてレベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸が投与された
※日本ではバルプロ酸の点滴薬剤はない
 ◦レベチラセタム群(145人)、ホスフェニトイン群(118人)、バルプロ酸群(121人)
 ◦レベチラセタム群…60mg/kg (最大量4500mg)
 ◦ホスフェニトイン群…20mgPE/kg
 ◦バルプロ酸群…40mg/kg (最大量3000mg)
特に、レベチラセタムは驚くような量であり、日本での添付文書では上限1日3000mgまでとなっています。
でも、AESガイドラインではすでにこの投与量が推奨されています。
 
・患者層は幅広く、1歳~94歳まで対象となった
 
・primary outcome…「60分以内に痙攣停止し意識レベルが改善した割合」
結論から言うと、どの薬剤を使用しても45-47%程度で有意差は認めませんでした。
 
ちなみに、これは複合アウトカムですが、
supplemental dateには痙攣停止率単独でのデータも掲載されており、
おおよそ60%前後で、これも有意差ありませんでした。
 
気になる副作用については以下のような結果でした。いずれも有意差は認めません。
※レベチラセタム群vsホスフェニトイン群vsバルプロ酸群です
 
・低血圧…0.7% vs 3.2% vs 1.6%とホスフェニトイン群で多い傾向
・死亡例…7例 vs 3例 vs 2例とレベチラセタム群で多い傾向
 
有害事象についてはレベチラセタムやホスフェニトインで増加傾向ではありましたが、有意差は認められませんでした。
 
 
 
ということで、本研究の結論としては、
「2nd therapyのいずれの薬剤もけいれんを停止させ意識状態を改善させる作用については同等であり、有害事象も有意な差は認めなった」となります。
 

 

思ったこと

本研究は言われているほど有用なのでしょうか?

以下の2点からあまり現実的ではないな、と思いました。。。

少なくともこれまでやってきたpracticeを変えるほどのことはないでしょう。

①日本で使用していない薬剤があるし、投与量もだいぶ異なる

 …薬剤の問題

②そもそも2nd therapyってどうよ?

 …痙攣重積に対する考え方の問題

 

①薬剤の問題

ESETT trialを経て、これから2nd line therapyについてのエビデンスが集積していくと思います。

それはいいのですが、そもそも現実的にはフェニトインなんて全く使っていませんでした(使っている人もまだいるかとは思いますが…)。

 

今回の研究でも分かったように、

低血圧や不整脈誘発リスクがありますし、

薬剤の相互作用も多すぎてなんとも使いづらかったです。

 

これらの有害事象は投与速度が速すぎると出やすい傾向にありますが、

けいれん重積の際にはあまり悠長なことは言ってられず、

「ばっと入れてばっと止まる」薬剤の方が好まれるのは自明でしょう。

 

また、前述していますがバルプロ酸は点滴薬は本邦では採用されていません。

 

なので、もともと投与速度をあまり考えなくてよいレベチラセタム一択でした。

ただ、レベチラセタムについても投与量は本邦使用量よりもだいぶ多いと思います。

この分野も抗菌薬のように欧米と同じようなdoseになる日が来るのでしょうか。

 

②痙攣重積に対する考え方の問題

特に言いたいことはこっちの問題です。

 

まずはおさらいですが、痙攣の患者はどのくらいの時間で止めるべきなんでしょう。

なるべく早く止める!が当たり前ですが、

よくみるガイドラインでは30分が目安になっていそうです。

 

時間経過によりどんどん合併症が増えます。

誤嚥性肺炎

横紋筋融解症→腎不全

高体温症

高K血症

アシドーシスなどなどです。

ESETTでも3人死亡していますが、けいれんは死亡する病態です。

心血管系へのストレスが強くなることで致死的不整脈が引き起こされます。。

 

さらに痙攣を止めないことには次の検査にも移れません。

 

こういった意味からとにかくなるべくはやく止めるべきだというのは納得だと思います。

 

 

ここからが文句のあるところです。
ESETT trialでは、60分時点での痙攣停止率は60%だけでした。
言い換えれば、60分時点で40%の患者がけいれん持続しているということです。
さらに言うと、40%の患者が本来停止しているべき30分時点で痙攣持続したままの状態にされていたということです。
 
 
 
…ちまちまやってないでプロポフォールやらミダゾラムやら投与して挿管しろや。
…挿管避けたければケタミンとかいれてみればいいのに…
とか考えてしまいます。
 

個人的な対応方法

上記のことから、個人的な対応は以下です。

・まずはベンゾジアゼピン投与を行う

・それと同時にレベチラセタム点滴も開始してしまう

どうせベンゾジアゼピン投与して痙攣を止めた後は

維持療法としてレベチラセタムやらホスフェニトインやら使うだろうし、

これらの薬剤の効果が出てくるまでの時間がもったいないです。

 

これでだめそうなら早々に諦めて(少なくとも1-2回のベンゾ投与に反応なければ)

ミダゾラムまたはプロポフォール持続点滴して挿管

・または、挿管を避けるためにケタミン投与でしのぐ

などの対応をしています。

ケタミン投与は有効性がある報告が増えていますが、まだ推奨されているわけではなさそうなので現時点では奥の手です。

 

 まとめ

・ESETT trialより、「2nd therapyのいずれの薬剤もけいれんを停止させ意識状態を改善させる作用については同等であり、有害事象も有意な差は認めなった」。

・2nd line therapyは初療開始時に同時並行で始めるのが良いのではないか。

・あまり2nd lineでひっぱらず、3rd line therapyを行なってなるべくはやく痙攣をとめる